6月13日発売の「WWDJAPAN」では、ファッション&ビューティ業界で活躍している女性たち25人の協力のもと、業界の女性活躍の達成度や女性のエンパワメントに注力していると思うブランドや企業、ロールモデルなどを聞いた。
声を集めた結果見えてきたのは、ファッション&ビューティの大企業の経営層となると全く平等ではないし、完全とはもちろん言えないけれど、多様な人が、その人が追い求める幸せを実現させてきた業界の姿だった。社内外に女性やマイノリティーが多く関わる業界だからこそ生まれる知見や経験を生かして、ジェンダー平 等・活躍において他業界をリードしていける存在になれるはずだという願いを込めて、アンケートの回答を前編・中編・後編で公開。ここでは、ファッション業界で活躍する6人の回答を紹介する。
Q1 あなたの働く業界・企業の女性活躍達成度は?
Q2 自社以外で、女性のエンパワメントに注力していると思うファッションやビューティの企業、ブランドは?
Q3 あなたにとって女性活躍のロールモデルは?
古田泰子/「トーガ(TOGA)」デザイナー
PROFILE(ふるた・やすこ)。エスモードジャポン/エスモードパリでファッションデザインおよびパターンを学ぶ。1997年に東京で「トーガ」を立ち上げる。2005年に発表の場をパリへ、2014年にはロンドンへと移す。現在、メインコレクション「トーガ」の他、プレコレクション「トーガ プルラ」、メンズ「トーガ ビリリース」を展開している
1 50%。
ブランドの代表、デザイナーである私自身が女性であるということはとても大きい。社内において性別で何か判断されることは全くありません。多様性を重視し、自由が求められる職場においても、特権誇示や無意識のハラスメント、偽りフェミニストに嫌悪を感じながらも調和を大優先するため閉口し我慢をしている優秀な女性がいることを知っています。(女性活躍のために)男性社会に根付く力関係からの男性の解放が非常に大事ですが、これがとっても難しい。強弱ではなくジャンケンのように、誰もが弱く誰もが強い。互いの立場の相違を理解し認め合う客観性を持って皆の前でも意見をいう慣れを当たり前にしていきたい。
2 エトセトラブックス。
フェミニズムの本を届ける、日本で創業した若い出版社です。世界で出版されているフェミニズムに関するえりすぐりの本を紹介してくれるセレクトショップでもあります。自分たちの言葉、活動を形にして対話する場を作っていることが時代性と合っていると思います。
3 言語学者の中村桃子。
具体的に名前が出てこないので、私が影響を受けた本の著者を紹介します。体感、意見ではなく、女性差別を歴史と言語から紐解く著書を積極的に出しています。時代に適した言葉と、簡潔にユーモア溢れた文章は性別を問わず納得させられ勉強になります。
竹内美彩/「フォトコピュー(PHOTOCOPIEU)」デザイナー、社長
PROFILE:(たけうち・みさ)。1986年滋賀県生まれ。高校は美術科を専攻。バンタンデザイン研究所大阪校でファッションデザインを学び、特別進級クラスのエクシードに進学。在学中から数々のコンクールで入賞。卒業後にアパレルメーカーで企画デザイナーとして4年間勤務。会社員の傍ら、個人的に応募した作品が2013年に神戸ファッションコンテストを受賞。受賞特典としてサンディカ・パリクチュール校での留学を経て、「イザベル マラン」や「ヴェロニク ルロワ」で経験を積む。帰国後の19-20年秋冬にウィメンズブランド「フォトコピュー」を始動。現在の販売先は伊勢丹新宿本店、インターナショナルギャラリー ビームス、エディション、阪急百貨店など国内26アカウント、国外1アカウント
1 業界での達成度は20%。
多くの会社ではいまだにボードメンバーは男性がほとんどで、私自身、国内企業が今後大きく変わるイメージが持てず独立した。仕事のポジションによっては女性の採用率が高いが、強い決定権を持つ重要な立場にいる女性は少ない。女性の働く環境は、子供を持つ人にはとてもシビア。重要なポジションに立つ女性を増やし、賃金格差などの問題をなくすなど女性が男性と等しく働ける環境づくりを上層部の女性が積極的に採用していかないと、男性が優位となる社会全体が変わらないと思う。
現在の社会構造は男性たちによって作られてきた過去があり、女性の意見が反映されていることが少ないのが現状です。さらに男性たちが既に持っているその既得権益を彼ら自らが手放すことはなかなか考えられないので、外からの圧力がない限り、抜本的には解決しないと思う。大企業や国など権利が集中する大きな団体の方が保守的であり変化が乏しいと思うので、例えば国連から「全ての団体のボードメンバーをクオーター制にせよ」などというお達しがあれば達成率は大いに上がるかと思います。現状では変化を求めている人たちが上に立てないので何も変わらない。もしくは現在上に立つ人が社会的利益のためにでも変化を受け入れる準備があるのなら、ぜひ実践していただきたいなと思う。私はこの変化を待てなかったこともあり、起業に踏み切った。
2 「フェティコ(FETICO)」。
吸水ショーツなどを提供することより、服を着用した際に独立心が芽生えたり、自分の品格が上がったと感じたり、自分の意識が無意識のうちに変革を遂げることの方が女性をエンパワメントする。服にそんな可能性を感じており、「フェティコ」はそれを体現していると思う。
3 「ヌキテパ(NE QUITTEZ PAS)」を手掛けるルシファーリサーチの神真美社長。
独立前に働いていたアパレル企業で、取引先の社長として初めてお会いして、こんなかっこいい女性がいるんだという憧れを持った。
当時は、男性は若くても役職があり、女性は長く働いても役職がつかず、会社とはそういうものなのだと感じていたが、真美さんに会い、女性であっても自分の能力によってビジネスを成功させられるという可能性を感じた。その後アルバイトとして少し働かせていただいたこともありお仕事を間近で拝見できたことで、より憧れの社長像になりました。
仕事の仕方はもちろん、手作りの美味しいお昼ご飯や、修理品を外注に出すのではなく当時パリ留学を控えた私にアルバイトとして依頼していただいたことなど 、お金の使い方に温かみがありました。その当時はまさか自分が社長になるとは思っていませんでしたが、今はその頃の経験を思い出しつつ、社会全体や働く人にも良い影響のある会社であることを心がけて運営しています。
山本未奈子/ベア ジャパン(BE-A JAPAN)CEO
PROFILE:(やまもと・みなこ)。1975年生まれ。12歳から大学卒業までをイギリスで過ごす。32歳のときにニューヨークの美容学校へ入学。首席で卒業した後は同校で教鞭をとる一方、ニューヨーク州でビューティセラピストのライセンスを取得してメディカルスパを立ち上げる。その後、拠点を日本に移し、2009年にエムエヌシー ニューヨークを共同経営者の髙橋くみ最高執行責任者と共に設立し、ビューティブランド「シンプリス」、ファッションブランド「キャリー」の事業をスタート。美容家として美容記事の監修やセミナー、イベントの講演など多方面で活躍中。著書も多数で3人の子どもの母親
1 80%。
当社は「日本で女性を一番幸せにする」をミッションに、化粧品やサニタリーショーツを扱っており、現状100%女性社員で構成している。 産休・育休制度も取得しやすく、フルフレックス制度を導入。 福利厚生として、化粧品の無料配布、美容費が毎月1万円支払われるなど、働きやすい環境に配慮している。今後、ホルモン休暇制度も導入予定だ。近年、これまでタブー視されてきた「生理」「性」「更年期」など、人とは共有しづらかった女性特有の悩みや問題が、少しずつ可視化されるようになってきた。情報を共有する環境の改善や、悩みを解決しようとする動きがみえてくると時代もより変わっていくと思う。
2 ポピンズホールディングス。
20年に日本初のSDGs-IPO(SDGsへの貢献を最優先した資金調達と活用を目指すもの)を果たした企業。女性のライフステージに応じて、エデュケアと介護サービスで働く女性を応援する会社。最高水準で安定したサービスなので安心して子供を任せられる。
3 キャシー松井。
20年前に「ウーマノミクス」を推奨して、全方位で女性活躍の推進を行う。22年現在はVCを立ち上げ、女性起業家をサポートしている。物腰が柔らかい中に強さがあり、グローバルで活躍するキャシー氏のような女性になりたいと思っている。
宇仁麻美子/宇仁繊維社長
1 75%。
当社は社員の3分の2が女性であり、女性が管理職の約半分を占める。婦人服向けテキスタイルの企画製造販売会社として、リアルクローズ、消費者目線、女性目線を持っている点が強み。女性社長が経営する会社だからこそ、女性社員がさらにきらきら輝く会社を作っていきたい。女性が着るファッション、感性で選ぶファッションは、女性がもっと活躍するべきではないかと思う。この業界は女性デザイナーやディレクターが活躍している割に、女性の経営者は非常に少ない。
2 マッシュスタイルラボ、ベイクルーズ。
デザイナーやディレクターの感性を最大限活用し、権限を与え、商品力、ブランド力を確立し、消費者の心をうまくつかんでいる。男性の俯瞰的な経営目線と、女性の感性のバランスがよく、素晴らしい会社と思う。
イシヅカユウ/モデル、俳優
1 50%。
ファッション業界はいろんな職種の中では男女の垣根なく多様な人が活躍しているイメージがありますが、結局すごく男性社会で、まだ50%。活躍している方の比率や、仕事の仕方という面や在り方を考えたとき、やはり男性が中心なのではないでしょうか。女性などの可視化されているマイノリティーの先に、光が当たっていない属性もまだいるので、それを思って達成率は低めにしました。
2 「ラッシュ(LUCH)」「リング(REING)」「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」。
当事者の私に対してを含め、トランスジェンダーへの差別がSNSですごく多く見られるようになったときに、「トランスジェンダーへの差別に反対します」と表明してキャンペーンを出していたのが印象的でした。「もういなくなってしまいたい」と思ったときに、差別反対を表明してくれる企業があるという事実だけで救われる気持ちになりました。
「リング(REING)」というクリエイティブスタジオは、いろんな属性・人種の人がいる現場で控えるべき質問などを載せた資料を配るなどして、居心地の良い現場づくりに積極的です。嫌なことがあっても大ごとにせずに伝えられて、より良い撮影のために考えを共有していこうという姿勢に好感を持ちました。「エスティ ローダ」は企業内で私が出演した映画を上映し、後日勉強会も併せて開催するなど、社内に向けた取り組みも行っていました。
3 モデルをするきっかけになったアンドレア・ペジック(Andreja Pejic)。
トランスジェンダーのモデルで、パイオニア的でした。活躍している姿を見るだけで、「自分にも可能性がある」「私も活躍をしてもいいんだ」と肯定される存在。ファッション業界はいろいろな人が表に出てくるきっかけを作ってきたと思います。高校生の時から辛くなった時は、グレイス・ジョーンズ(Grace Jones)や山口小夜子など、活躍しているモデルの写真や動画を見ていました。マイノリティーの存在はすごくコメディチックか、悲劇的なストーリーで描かれることが多い。“普通に”活躍している人に勇気をもらえました。
コシノヒロコ/「ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)」デザイナー
1 ファッション業界の女性活躍はどの業界よりも進んでいると思う。
ただ、大企業の経営層は昔も今も男性ばかりだから、自分のブランドでビジネスを持ち、大企業とも付き合って男社会にうまく馴染みながらやりたいことを貫く中では、困難を感じることも多かった。周りの成功している女性は仕事がすごく好きで、仕事が 自分の生き方になっている。家庭や育児は生き方の中のあくまで一部と割り切っているが、そういう割り切りができる女 性はそんなに多くない。自分の人生は全て自分でプログラムして責任を持つこと。性別に関わらず、尊敬される器であれば人はついてくる。この道でいくんだと決めたら覚悟して、徹底して仕事をしていく必要がある。
3 経営者としての女性の生き方という部分では母親。