
ヘラルボニーは先月、レストラン「エテ(ete)」の庄司夏子シェフが監修したチョコレートボックス“エテ×ヘラルボニー チョコレートボックス”(5400円)を数量限定で発売した。パッケージデザインに起用したのは、ヘラルボニー契約作家の浅野春香による「お父さんと星空2」というタイトルの作品だ。
アジアの最優秀女性シェフ賞を受賞し、現在は「ティファニー(TIFFANY & CO.)」の“ブルー ボックス カフェ”の監修も行う庄司シェフと、統合失調症を患い闘病を続けながら、「ヘラルボニー・アート・プライズ(HERALBONY Art Prize)2024」でグランプリを受賞した浅野によるコラボレーション。なぜ2人がコラボレーションを行うことになったのか?1月31日ーー日本記念日協会にも正式認定された「異彩の日」、松田崇弥ヘラルボニー代表取締役共同CEOの司会のもと、ヘラルボニー ラボラトリー ギンザでトークショーを行った。
松田崇弥 代表取締役共同CEO(以下、松田):出会ったときの印象や、実際にできたチョコレートを見てどのように感じましたか?
浅野春香(以下、浅野):夏子さんに会った時、「すごく雰囲気のある、かっこいい美人さんだなあ」と思いました。チョコレートってすごくかわいくて、きれいにラッピングされていて、おいしいチョコを食べて、かわいいラッピングを見ているだけで、疲れが吹き飛んで。そんなチョコレートのラッピングになったのが、とてもうれしかったです。
松田:おめでとうございます。夏子さんは浅野さんの作品を見たとき、どのように感じられましたか?
庄司夏子(以下、庄司):「ヘラルボニー・アート・プライズ」で浅野さんがグランプリを受賞され、そのときに初めて作品を知り、衝撃が走りました。作品にはエネルギーが詰まっていて、本人にお会いしたらとても柔らかく、やさしく、ていねいな方で。しかも偶然、浅野さんの妹さんが私と同じ名前、年齢も同じだと聞いて運命を感じました。
松田:今日の会場では浅野さんの作品「ヒョウカ」も展示しています。「ヘラルボニー・アート・プライズ 2024」で2000点近い作品の中からグランプリを受賞しました。この作品に込めた思いとは?
浅野:この絵はお父さんに向けて描きました。私はこの10年ほど、ずっとお父さんに向けて絵を描いています。お父さんが闘病しているとき「家に帰りたい」と言っていたので、病院で1人で闘病しているお父さんに、「1人じゃないよ」という気持ちを込めてこの絵を描きました。
私はものすごく評価されたくて、でもそれって障害者アートとしては恥ずかしいことなのかなって思っていたんですけど、「評価されたいというのも、あなたの自由な気持ちなんだよ」と言ってくれる人がいて。タイトルに「ヒョウカ」と付けました。
松田:夏子さんとヘラルボニーの出会いについて、改めて聞かせてください。
庄司:私の2歳年下の妹は重度の知的障害者なのですが、幼少期は妹が障害があることで私自身も辛い経験をしたこともありました。小中学生の頃、一緒に外を歩けば大声を出してしまうこともあり、そんなときに受ける周囲の目線が本当に辛かった記憶があります。

庄司:大人になって私は自分のお店を開き、たくさんの人に出会うようになりました。改めて振り返ると、自分の中から湧き出る作品に対するエネルギーは総じて、妹と過ごした時間によって生まれた力なんだと思ったんです。そうして、昔辛かった思い出や気持ちが感謝に変わりました。今はSNSなどを通じて、色々な人に自分のことを知っていただけるようになりました。そんな今の自分だからこそ「妹がいる世界に対して何かできることがあるんじゃないか」と思うようになったんです。そんなときにヘラルボニーを知って、共通の友人にお願いして紹介していただきました。
松田:私も兄が重度の障害があるので、中学生の時には兄を拒絶していて。周囲から兄のことを馬鹿にされるのが辛くて、地元でもわざと離れて歩いたり、運動会に母が兄を連れてきたら「連れて来ないでほしい」と言葉をぶつけたりして。今では周囲から「いいご家族ですね」と言ってもらえますが、時間をかけて今のような形になったんです。そんな感情を含めて共感することばかりです。
さて、浅野さんがグランプリを獲得した作品のタイトル「ヒョウカ」についても考えていきたいと思います。夏子さん自身も、世界的な評価を受けていますね。
庄司:多くの人にとって「特別な賞を受賞した人以外は記憶に残らない」。金、銀、銅メダル以外は、「その他」とみなされてしまうんだ、と思ったんです。私は料理の世界では若く、かつ女性であるということで、良い部分もありながらも、嫌な噂を立てられてしまうこともあります。「この世の中で改革したいことがあるなら、第三者に説明されるときに自分の力となるものを獲得しなければいけないんだ」と、いつも死ぬ思いでトロフィーを目指しています。
松田:実際にその思いを実現されてきたのがすごいですよね。浅野さんは、「ヒョウカ」という作品が実際に多くの人に評価され、グランプリに選ばれたとき、どんな思いでしたか?
浅野:すごすぎて、何も考えられなかったです。
松田:ありがとうございます。印象的だったのは「賞金で何をするんですか?」と聞いたら、「焼き肉を食べに行きたいです」って言っていて(笑)。でも結局、食べに行かなかったんですよね?
浅野:はい。焼き肉は結局中止になって、年末にカニを食べました。
松田:春香さんとは今後、ヘラルボニーともさまざまな取り組みがありますが、今後やっていきたいことはありますか?
浅野:メトロポリタン美術館に、ピカソやモネに並んで、私の絵が飾られるのが目標です。
松田:どうしてメトロポリタン美術館なんですか?
浅野:私は努力がしたくて、努力をするために目標を探していました。マネージャーに「今後の目標をどうしますか?」って聞かれたとき、メトロポリタン美術館が出てきました。

松田:夏子さんは今後の目標や目指していることはありますか?
庄司:自分が得た過去の経歴を活かして、改革をしていくことです。今、手を動かしてアートピースを作る職人さんたちの後継がいないことをひしひしと感じていて。美しい世界なのに担い手が不足している、と。1年後、5年後、10年後の目標として、この改革は常に自分の中にあります。食の世界にいる私にとって、食材は“食べられるマスターピース“。私はこの職業のおかげで、心の美しい方々にたくさん出会えたので、この素晴らしさを伝えていきたいです。
松田:私も24歳のときに障害のある人のアートを初めて見て、ものすごい衝撃を受けました。でも検索をかけると “支援“”社会貢献“という言葉が出てくるばかりで、“かっこいいもの”という形では世の中に出ていないことにもったいなさを感じました。「これらの作品のすごさを、当たり前のように美しい状態で出したい」「まっすぐにその美しさを伝えることで、社会的評価を受けるんじゃないか」というシンプルな問いから始まり、ヘラルボニーは今の形になりました。“障害者“”福祉“というフィルターはときに、本来のかっこいいものの評価を遮ってしまうんじゃないかと思います。われわれもまだ道半ばで、これから世界に挑戦していきたい。そんなときに、同じく世界で挑戦している2人とコラボレーションできたことがすごくうれしいです。
では今回コラボレーションした、チョコレートについても話していきたいと思います。チョコレートへのこだわりについて、夏子さんからお話いただけますか?
庄司:私もチョコレートは大好きなんですが、今日本において、チョコレートはとても大きなツールだと思っています。マニアの人がたくさんいて、チョコレートの催事でデパートが賑わうほどのパワーがある。今回の取り組み、福祉の状況を1人でも多くの人に知ってもらうためにも、コラボレーション商材をチョコレートにするのが良い判断だと思いました。そんな中で、福祉の関係者や障害のある人を家族にもつ人が商品を手に取ったとき、チョコレートが主張しすぎず、アートへのリスペクトが感じられるよう、「あまり凝りすぎない」ということに気をつけ、ストライクゾーンが広いフレーバーを目指しました。
松田:浅野さんは実際に食べてみて、どうでしたか?
浅野:すごくおいしかったです。特にアーモンドのプラリネが好きです。
松田:どんな人に食べてほしいですか?
浅野:まずバレンタインで、主人にあげたいです。あと、母にも。私、母とあまりうまくいっていないのですが、昨日私の個展に来てくれて。だから、そのお礼に。
松田:今日は「異彩の日」です。2人は、どんなふうに社会が変わってくれると良いと思いますか?
浅野:生きにくい方たちがみんな、輝けるといいなって思います。障害があったり、病気だったり、生きにくいと感じていたり、そういう方が「自分たちはとってもオリジナルなんだ」「自分たちはきれいに輝いているんだ」って。そういうふうに思ってもらいたいです。
庄司:障害のある人をサポートしてくれる施設や、介護してくれる方々の待遇がもっとよくなってほしいです。また、私の妹のように重度障害があり、作品を描くことも、意思疎通もできない方々にも良い恩返しの仕方がないだろうか、といつも模索しています。
アーティストの方も、今はアートを生み出せていても、いつか突然頭が真っ白になって、作品を作れなくなる日が来るかもしれない。そんなときに、ご本人だけではなく、親御さんや関係者を支えられる土台を作っていかなければならない。そのためにはどんどん、周囲を巻き込んでやっていく必要があるんじゃないかと思います。
松田:夏子さんは「今回の売り上げを全てヘラルボニー財団に寄付してほしい」と言ってくださって。1月7日、兄の誕生日に財団を立ち上げたのですが、そんな兄は今福祉施設で空き缶を潰す仕事をしていて、稼げる金額は多くてもひと月で3000円、年間で2万円くらいです。兄よりもっと重い障害のある人のご家族からは「ヘラルボニーのことは本当に応援したいけど、自分の息子は手が少し動かせるだけで、話すこともできない。だからすごく辛くなってしまうんです」と教えていただき、僕は何も言うことができませんでした。
「障害は個性」という言葉は、ときにすごく暴力的だと改めて思います。今後、ヘラルボニーが大きくなっていくことで、最重度の障害がある人にもお金やより良いサポートが巡るような活動を始めていきたいと思っています。夏子さんはそんなヘラルボニー財団にとって、一番最初の寄付者になります。
最後に、2人からお伝えしたいことはありますか?
浅野:みなさん。お父さんや、お母さんや、家族のことを思い出してほしいです。仲が悪い方もいらっしゃると思います。私もそうです。でもきっと、本当は大好きなんじゃないでしょうか。
庄司:自分はこれまで、表上ではいつも華やかな部分を出してきて。それは次の担い手にとっての憧れになり、目指してほしいと思っていたからこそ、あえてキラキラした部分だけを出してきたんです。だからこれまで、自分の家族について触れたこともあまりありませんでした。
ヘラルボニーを通じて出合ったアートは美しく、力強く、素晴らしいものですが、その作品1つ1つに、ご家族をはじめサポートしている方々のストーリーがありますので、そこを汲み取って、みんなで支えていけるような世界になるよう、私も尽力していきたいと思っています。

トークセッション後には“エテ×ヘラルボニー チョコレートボックス”の購入者で長い列ができた。2点、3点購入する人も多く、「あっという間に完売してしまうのでは」と思うほどの売れ行きだ。庄司夏子と浅野春香、2人の思いが込められたこのチョコレートボックスは、現在「ヘラルボニー ラボラトリー ギンザ」と、岩手の「ヘラルボニー イサイ パーク」のみで販売している。
◾️“エテ×ヘラルボニー チョコレートボックス”販売店舗情報
ヘラルボニー ラボラトリー ギンザ
営業時間:11:00〜19:00
住所:東京都中央区銀座2-5-16
>公式サイト
ヘラルボニー イサイ パーク
営業時間:10:00〜19:00(カフェ 10:00〜19:00)
住所:岩手県盛岡市菜園1-10-1
>公式サイト