ファッション
連載 ランジェリー業界のゲームチェンジャー

日本のブランドでありながらインポートランジェリーの魅力を表現する「ランジェリーク」の有馬智子 ランジェリー業界の開拓者 vol.6

 新型コロナウイルスの感染拡大は、従来の商品やサービスの在り方に変化をもたらしている。対面のフィッティング接客や機能ありきの商品を重視してきた下着業界にも影響を及ぼしているのは言うまでもない。ライフスタイルが大きく変わり、既成概念に縛られない新たな価値観が下着にも求められる。この連載では、コロナ禍に先んじて新領域の商品やサービスを生み出し業績を伸ばす下着業界の開拓者を紹介する。

 第6回に登場するのは、「ランジェリーク(L'ANGELIQUE)」の有馬智子クリエイティブディレクターだ。2010年に誕生した同ブランドは日本のブランドでは珍しく、ノンワイヤーブラやカップに裏当てのないノンパテッドブラにより、繊細なレースの美しさを前面に打ち出したミニマルなデザインを提案している。ヨーロッパのブランドのような軽いつけ心地と、日本のブランドならではの丁寧なモノ作りを兼ね備えたブラジャーは日本の下着業界に新風を吹き込んだ。19年からはラウンジウエアも強化している。

――「ランジェリーク」とはどんなブランドか?

有馬智子クリエイティブディレクター(以下、有馬):女性にそっと寄り添う存在。「ランジェリーク」は整った環境で、さらに良い方向に育てるように活動しているブランドだ。“シンプル、エレガント、スマート”というコンセプトだが、その捉え方は人それぞれ。この環境の中で、どうやって美しいものを作っていくか常に考えている。その思いで作ったものが顧客に好意的に受け入れられ、新作を楽しみにしてもらっている。それに応えられるものを創造したい。

――環境が整っているとは?
有馬:最大の強みは親会社であるカドリールニシダの生産体制だ。「ランジェリーク」の下着は100%カドリールニシダの中国・青島工場で縫製している。1969年創業という長い歴史があり、自社工場は著名なヨーロッパブランドの縫製を請け負うほどの非常に優れた技術力を持っているため、他の工場では難しいと思われる繊細な素材を選べる。それはクリエイティブディレクターとして何よりも心強いことだ。ブランド立ち上げのときも05年から続いていた「クロエランジェリー(CHLOE LINGERIE)」のライセンス契約満了に伴い、その市場を「ランジェリーク」で受け継ぎ、育てることができたのはありがたかった。ブランド設立以来、売り上げは常に前年を超えて成長し続けている。

ノンパテッドブラが日本の市場で難しいという概念はない

――ブランド設立時から日本の市場では難しいとされるノンワイヤーブラやノンパテッドブラを展開していたその理由は?
有馬:そもそもそれらが“難しい”という概念はなかった。私自身がインポートの下着が好きで、日頃からノンワイヤーやノンパテッドを愛用していたこともあり、快適に過ごせることや、美しいものを身につけたいと思う素直な気持ちからデザインしている。下着の仕事に関わる前もヨーロッパのブランドが好きで、そう思うのかもしれない。自分が作っている商品にピュアに向き合いデザインしている。自分が感化されるヨーロッパのランジェリーを見ることに時間を費やして私自身が納得でき、顧客に満足してもらえるものを作ることに注力している。いろいろなものがあっていいと思うが、売れているからと似たようなものを作っても意味がなく、モノが増えるだけ。余計なモノは作りたくない。

――それでいて独りよがりにならない理由はどこにあるのか?
有馬:日常生活におけるいろいろなことを想像して作っているからかもしれない。見た目が美しいのはもちろん、生活のなかで求められる機能は何か、快適なフィッティングはどうあるべきかを追求することに集中している。ワイヤー入り、ノンワイヤー、ノンパテッドのブラジャーを展開するようになったのも、戦略ではなく顧客が求める機能を反映させた結果だ。そのニーズと美しさのバランスをデザインしている。

――素材の美しさを生かし、余分な装飾がないデザインコンセプトはどのように生まれたか?
有馬:デザインコンセプトというより、自分が理想だと思う形、素敵だと感じるものが余分な装飾をしないものだった。「ランジェリーク」の素材は美しく上質なものを使用している。全体の約6割はインポートのレースだ。フランスのカレーやコードリー地方のメーカーが生産するリバーレースは、それ自体が芸術品のようですばらしい。その美しさを生かすことが重要だと思っている。

パリのランジェリー展がモチベーションに

――ブランド設立から10年が経過したが?
有馬:10年間ひたすら前進してきたという感じだ。世界中がコロナ禍にある今は、まるで、方位磁石が狂ったような状態で、どちらの方向に進めばいいのか見極めるときだと思う。16年7月から連続して出展しているパリのランジェリー展が開催されないことも大きい。改めてランジェリー展がモチベーションになっていることを実感している。

――日本とパリの展示会は何が違う?
有馬:世界中の約400ブランドが並ぶ中、オリジナリティーがないとバイヤーの目に留まらず、商品に触れてももらえない。可能性があると思えば率直にアプローチがあり、それがブランドの英気を養っている。評価されてビジネスを広げていくための課題があり、それを解決するためにまた邁進する。その繰り返しで少しずつ取引先を増やしていった。

――ラウンジウエアにも力を入れている理由は?
有馬:ランジェリーがベースだが、ラウンジウエアは、ブランドの世界観を伝えるためにとても有効なアイテムだと思っている。18年にオープンしたニュウマン新宿や松屋銀座本店などで広いスペースの売り場ができたことで、下着だけでなくラウンジウエアを展開できる環境が整った。ファッションブランドに勤めていたこともあり、「こういう部屋着があったらいいな」と思いスタートした。売り場を限定しているため、まだあまり知られていないが売り上げに貢献している。

――今後の目標は?
有馬:成熟しながら実らせる、それを繰り返していくこと。「ランジェリーク」に関わるあらゆる人々から顧客に至るまで全ての人が充実した日々を送れること、その循環が有機的な進化を生むと考える。人もレースも、その素材の魅力を最大限に生かし、しっかり根をはり、それぞれの長所を生かしながら成長していきたい。

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