ファッション

NBA選手たちがファッションを通して伝えること 影響力を発信に活かす

 プロバスケットボール選手は、近年最も注目されているファッションアイコンであり影響力を与える存在になっている。音楽やファッションをはじめとするさまざまなストリートカルチャーを発展させ、スポーツミックスファッションをけん引した。ときに選手たちは、ファッションへの注目度の高さを活かして社会的メッセージを発信するプラットフォームとしても使用している。

 2020年6月に米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)氏が白人の警察官に首を押さえつけられて死亡した事件が起こったとき、北米の男子プロバスケットリーグ、ナショナル・バスケット・アソシエーション(National Basketball Association以下、NBA)選手たちはすぐにファッションを通して自分たちの立ち位置を示した。「Say Their Names(被害者を忘れない)」「Respect Us(私たちも尊重して)」「Do You Understand Now?(これで分かった?)」といったロゴが書かれたTシャツやジャージを着用して、BLM(Black Lives Matter)運動に賛同の意を表明した。

 ユタ・ジャズ所属のドノバン・ミシェル(Donovan Mitchell)選手やドウェイン・ウェイド(Dwyane Wade)元選手のスタイリストを務めるケイリアン・バーネット(Calyann Barnett)は、NBA選手の発信スタイルにおける“対話”の少なさこそがメッセージ性を高めていると分析する。「こういったやり方は、意見交換を目指していない。どちらかというと『私のメッセージは以上です。あなたの意見は聞かなくて大丈夫です』といった発信方法をとっている。そして歴史上、アスリートが声をあげ、所属チームや運営、ファンなど全方面から支援されているのは初めてのこと」とコメント。

 5年前にはアメフト選手のコリン・キャパニック(Colin Kaepernick)が、有色人種への差別に抗議するために、ナショナル・フットボール・リーグ(National Football League以下)の試合で国歌斉唱中に起立することを拒否してひざまずくムーブメントを生み出した。2021年の今も同じ問題に声を上げる状況は続いているが、当時を振り返ってバーネットは「キャパニック選手は人種差別に対して声をあげたことで、職を失う結果となった。当時、黒人の命も大切だという当然の主張に対して反対する声もあり、議論が起こってしまった」と比較した。

BLM運動で揺れるNBA できること・やるべきことを模索する選手たち

 新型コロナウイルスの影響で20年3月中旬からシーズンを中断していたNBAは同年7月、フロリダ州オーランドに“バブル”と呼ばれる隔離空間を設けて再開した。しかし当時、選手の間には6月から続くBLM運動への世間の関心をそらしてしまうのであれば、自分たちはプレーすべきではない、という意見もあったという。そして8月23日、ウィスコンシン州ケノーシャで、家庭内暴力の通報を受けた警官が黒人男性のジェイコブ・ブレイク(Jacob Blake)氏に対して背後から発砲した“事件”を受けて、選手たちの怒りや無念さが爆発し、異例のボイコットに発展した。

 クリス・ポール(Chris Paul)NBA選手会会長もボイコットを行ったうちの一人で、シーズンを続けるべきか現役レジェンドといわれるレブロン・ジェームズ(LeBron James)選手らと共にバラク・オバマ(Barak Obama)元米大統領に相談を持ちかけた。オバマ元大統領はその際、選手たちに向けてNBAというプラットフォームを生かすべきだということ、リーグ運営に人種差別根絶につながる施策を実行する場所の必要性を説くべきだとアドバイスしたという。運営やオーナーと協議を重ねた選手たちは、アリーナを選挙投票所にすることや11月の大統領選挙に関連した活動を宣伝することを提案した。

 ポール選手らも大統領選挙に向けて、“VOTE”と書かれたアパレルを何週間にもわたって着用した。ジェームズ選手は、自身が立ち上げた選挙促進団体「モア・ザン・ア・ヴォート(More Than a Vote)」のアパレルを繰り返し着用した。そして着用画像を、7800万フォロワーを持つ自身のインスタグラムに投稿した。「モア・ザン・ア・ヴォート」は黒人のアスリートやアーティストが手を組んで、選挙登録率の上昇や、少数民族や低所得層が投票に行きづらい環境や手続きを作って投票を抑制することの撲滅に働きかける団体。20年には4万人を超えるボランティアを投票所係員として採用し、殺人や性暴力を除く犯罪者の投票登録の支援などを通して投票率の向上に貢献した。

 ナショナル・バスケットボール・プレイヤーズ・アソシエーション(National Basketball Players Association以下、NBPA)は20年10月、選手の90%が投票登録済みだと報告した。これは、16年の22%と比べて飛躍的に高い数字となった。そして11月の大統領選挙では、選手たちの働きかけで40のスポーツアリーナが選挙所へと転換し、26万人がそこで投票したという。

 ポール選手はまた、日常的に歴史的黒人大学(HBCU)が手掛けるアパレルを着用している。“バブル”にいる期間も一貫して、毎回異なるHBCUのロゴがプリントされたスニーカーを履いており、中にはメッセージを手書きしたものも。シーズンが終わるとソーシャルコマースアプリ「MOV(ムーブ)」を立ち上げて同スニーカーを販売。そしてそこで得た売上金を男子・女子バスケ団体に寄付した。彼のスタイリストを務めるコートニー・メイズ(Courtney Mays)は、「大学名が書かれたスエットを着用するだけでなく、HBCUのために資金を調達する方法を模索している。さらに他のセレブリティーやアスリートに例を示している」とコメントした。

 ジェイソン・テイタム(Jayson Tatum)選手のスタイリストを務めるヴィック・マイケル(Vick Michel)は、試合当日のファッションを考えるとき、先駆者に敬意を払うことが大事だと主張する。「BLM運動を語るとき、ジェシー・オーエンス(Jesse Owens)からモハメド・アリ(Muhammed Ali)、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)まで、今ある道を切り開いてきた人物に敬意を持つべきだ。今享受しているものは、ある地点で生まれたもの。選手のファッションを通じた発信は、インスタグラムアカウントができて突如始まったわけではない」と語る。

 30年前には、ジョーダン選手は1990年のアメリカ合衆国上院議員選挙で、民主党議員を支持するよう求められたが、ナイキ(NIKE)と「ジョーダン ブランド(JORDAN BRAND)」を運営する同氏は「共和党員も靴は買うものだ」として断った。その後個人的に民主党の支持を行ったというが、バーネットは「当時、政治をスポーツに持ち込むことは煙たがられていた。選手としてもファンを失いたくないし、金銭的損失も避けたいところだ。しかし私たちは今、お金と命のどっちが大切か考える局面にある。そして、私たちは個人の利益より、人の命を尊重するフェーズに達している」と語った。

 ファッション業界では、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が20年10月、NBAとコラボレートしたカプセルコレクションを発表。「ディオール(DIOR)」は「ジョーダン ブランド」とコラボして、スニーカー“エア ジョーダン 1 OG ディオール(AIR JORDAN 1 OG DIOR)”を手掛け、約500万人からの購入資格申請があった。ファッションへの影響力の高さから、スタイリストのマイケルは、「選手入場は、今や新しい時代のランウエイだ」と語る。