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「わけあって、安い」の限界 コロナ後の価格革命に備えよ 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。12月で40周年を迎える「無印良品」(運営:良品計画)が、衣料品の価格見直しによって攻勢をかけている。そこに死角はないのか。

 「わけあって、安い」は「無印良品」の原点的キャッチフレーズでレーゾン・デートル(存在意義)と言ってもよいだろう。だが、「わけあって、安い」商品開発は“トレード・オフ(trade-off)”であり、「お、ねだん以上。」とは限らない。そこに現在の「無印良品」の限界がある。

ユニクロに引き離される良品計画

 10月21日掲載の本リポート「『ユニクロ』と『無印良品』の明暗を分けたコロナ禍決算」で詳説したように、ファーストリテイリングと良品計画、国内ユニクロ事業と良品計画国内事業の業績格差は年々開き、コロナ禍決算では一段と明暗が広がった。なぜそうなったのか、詳細は当リポートを読み返してほしいが、コンセプト先行で食住衣遊と際限なく広がっていく領域に商品開発が追いつけず、「わけあって、安い」がブラックジョークになりかねない状況に陥っている。

 衣料関連の売り上げを比較すべく2020年3〜8月期の国内ユニクロ事業商品売り上げと良品計画単体商品売り上げ(連結の「国内事業」には衣料売り上げの開示がない)を比較すれば、国内ユニクロ事業が前年同期比89.7%の3304億1300万円を売り上げたのに対し良品計画単体は同84.1%の1406億300万円と、国内ユニクロ事業商品売り上げに対する良品計画単体商品売り上げの比率は前年同期の45.4%から42.6%に低下した。同期間の良品計画単体商品売り上げに占める衣料・雑貨比率は34.7%、実額で487億1900万円に過ぎないから、良品計画単体の衣料・雑貨売り上げはユニクロの14.7%(7分の1強)でしかない。それでいて年間の展開アイテム数は年々増えて20年2月期では1854にも達していたから、1品目当たりの売り上げは7200万円弱でしかなかった。国内ユニクロの年間展開アイテム数を660と見れば1品目当たりの売り上げは前期で12億7500万円ほどだから、両者の1品目当たり売り上げ規模は17.7倍も違う。

 良品計画単体衣料・雑貨売り上げの中身も服飾雑貨・靴・バッグが21.3%、インナーウエアが16.3%を占め、紳士ウエアは18.9%の91億9000万円、婦人ウエアは39.1%の190億6500万円、子供服は4.4%の21億2400万円、アパレル合計は303億7900万円と中堅チェーンほどの売り上げ規模でしかない。国内ユニクロ事業のメンズは40.4%を占めて良品計画より圧倒的に比率が高く1335億1900万円、ウィメンズは45.1%の1491億1500万円、キッズ・ベビーは7.7%の255億2700万円だから、良品計画の紳士ウエアはユニクロの6.9%、婦人ウエアは12.8%、子供服は8.3%の規模でしかない。これでは調達ロットもケタ違いで、「ユニクロ」と品質とお値打ちを競えるはずもない。

壁にぶつかる「わけあって、安い」

 「無印良品」の「わけあって、安い」は元々、ブランド商品の宣伝費や包装費、流通コストなどマーケティング費用を省くという一面と並んで、素材はもちろんパターンと生産仕様、縫製工程や仕上げ工程を工夫して生産コストを落とすという“トレード・オフ”が前提となっていた。

 “トレード・オフ”とは何かを実現するために別の何かを犠牲にする、という交渉事や商品開発における「代償行為」であり、商品開発では主要な企画意図を実現しながらコストを抑制すべく、素材を落としたり生産仕様を簡略化したりすることが多い。見た目の織り組織は同じでも糸のクオリティーを落とせば素材のコストは倍も変わるし(大手商社は毎シーズン、同タイプで3段階の素材を用意する)、パターンとマーキングを工夫すれば用尺を節約し、縫製工程数を減らすことができるが、玄人目には手抜きは一目瞭然だし、やり過ぎれば素人客でも手抜きが見えてしまう。

 工場の閑散期に生産したりロットを増やしたりしてもコストは落とせるし、製品在庫を市場投入直前まで生産地倉庫に保管し、生産地で店舗仕分けと物流加工を済ませてからコンテナ単位でパッキン物流するなど物流方法でもコストは落とせる。閑散期生産や過大ロット生産は需給ギャップを肥大させ、物流の集約はサプライ効率を切り下げ、パッキン物流は畳みシワや型崩れの原因となるから“トレード・オフ”にはなってしまうが、それで商品の品質が落ちるわけではない。

 「無印良品」の衣料品は売り上げ規模が限られるのにアイテム数が多く、MDも流動するからロットでコストを落とすのが難しく、“トレード・オフ”に頼ることになる。ブランド流通が大勢でSPA的な商品開発がまだマイナーだった1990年代半ばまでは、「無印良品」の“トレード・オフ”はブランド商品より「わけあって、安い」を実現してインパクトがあったが、98年に「ユニクロ」がフリースでブレークしてSPA流通が大勢になって以降、単品でお値打ちを比較されれば苦しくなっていった。とりわけリーマンショック以降、デフレが再燃して価格がジリジリと下がっていく中、衣料品は「ユニクロ」や「ジーユー」、生活雑貨は100円ショップとの価格競争にさらされ、割高感から値引き販売が増え、シーズンごとに政策的に価格切り下げを繰り返すようになった。

価格と品質のポジション是正が不可避

 「無印良品」の衣料品は「価格」を「ユニクロ」と張っても、素材や縫製仕様、工業パターンは「ジーユー」にも見劣りするものがあり、エコナチュラルでサステナブルなコンセプトやライフスタイルをうたっても「正価」を通すのは難しくなっていた。玄人目には「ジーユー」に及ばず、「ファッションセンターしまむら」やホームセンターの衣料と比較したくなるようなものもある。自然素材志向のコンセプトゆえ、近年の機能素材アクティブウエアや機能性アウトドアウエアにも手を伸ばせず、店頭在庫は抑えても過剰在庫が倉庫に積み上がり(2019年2月期から20年2月期で41.6%増、さらに20年8月期で45.0%増。19年2月期との比較では2.05倍)、値下げによって在庫の消化を図る図式が強まっていた。

 コロナ禍はそんな「無印良品」の苦境を突き、割高感をコンセプトでカバーできない海外市場はもちろん、支持基盤が厚い国内市場でも打撃は大きく、回復も鈍かった。3〜8月期の国内ユニクロ既存店売り上げ(EC含む、良品計画も同じ)が9.6%の減少にとどまったのに対し良品計画単体衣料・雑貨は28.7%(商品売り上げベース)も落ち込み、9月も国内ユニクロの10%増に対して良品計画衣料・雑貨は15.5%減と差が開き、10月は前年の消費増税の反動もあって国内ユニクロが16.2%増と加速する中、良品計画衣料・雑貨は6.5%増にとどまった。

 アイテムを集約して調達ロットを1ケタ上げるとともに原価率を切り上げて抜本的に品質を高めない限り、「ユニクロ」と同じ価格ポジションを維持するのは難しく、現行の調達ロットと品質のままなら「ジーユー」の価格ポジションに切り下げるしか「無印良品」衣料品の立ち位置はないのではないか。そのどちらも難しいのなら、「無印良品」のコンセプトを無理なく訴求できるアイテムに絞り込んで一から出直すしかない。

 「顧客がコンセプトに共感してくれるなら、商品開発や在庫運用のスキルが至らず多少は割高になっても受け入れてもらえる」とスタートアップのD2Cブランドみたいに考えているとしたら、良品計画は自らの事業規模をあまりに見誤っている。国内でも海外でも「ユニクロ」と張り合って事業を拡大していきたいなら、事業の構造と組織、商品開発手法とサプライ同盟を抜本から再構築して出直すべきだ。

コロナを契機にデフレが加速する

 そんな指摘は良品計画だけに限らない。「ユニクロ」が価格と品質のデフェクトスタンダード(事実上の標準)として定着した今日、店頭で商品を手に取れば一般消費者も、つい「ユニクロ」の同一アイテムと比較してしまう。「ユニクロ」で3990円のアイテムに4500円とか4900円とか、中には5900円とか付けているブランドをしばしば見かけるが、そんな価格で買う消費者はまれだから早々に値引きすることになる。そんなことを繰り返していては、どこかのアパレルチェーンのように二重価格商法なのかといぶかられるのがオチだ。

 「ユニクロ」でも厳しいのに「ジーユー」や「ワークマン」が次のデフェクトスタンダードになるとしたら、アパレルの価格はもう一段のデフレが避けられない。コロナ禍の過剰在庫が大量にたたき売られるのを目の当たりにした消費者が素直に「正札」を信用するとも思えない。ならば、業界都合のコストとロスを積み上げた無理強い価格はもう通らないと覚悟するべきだろう。

 半世紀前のブティックは65掛けで買い取っても8割以上をプロパー消化して利益を確保していた。商店街の自前店舗で家族労働プラスαというエコ経営だったからできた芸当だが、今やそんなプロパー消化率など望むべくもなく、テナント店舗では不動産費と人件費やキャッシュレス決済手数料など販売費で売り上げの40%が消えていく(百貨店のインショップなら50%)。そんな法外コストを前提とした価格と品質のバランスがもはや通らない以上、販売コストを切り下げるか、高いプロパー消化率が望めるお値打ち価格を「正札」とするしかアパレルの生き残る道はない。高コストな販路から早々に脱出し、LCC型商業施設(オープンモール型の低コスト商業施設)やD2C、C2M※1.など格段に低コストで低ロスな販路や販売手法に転ずるべきだろう。

※1.C2M(Customer to Manufactory)……ネットやショールームで受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産して“個客”に届けるパーソナル対応の無在庫販売手法

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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