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連載 コレクション日記

デジコレでドタバタ対談 新生「プラダ」が鮮烈デビューし、「GCDS」のアバターに困惑したミラノ2日目

 2021年春夏ロンドン・コレクションが終了し、早くもミラノ・ファッション・ウイークに突入です。引き続き、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、ミラノ・コレクション2日目(9月24日、現地時間)をリポート!各都市のコレクションを取材してきた「WWDジャパン」の向千鶴編集長と、今年からコレクション取材をスタートさせた「WWDジャパン」編集部の美濃島匡がお届けします。

荘厳な宮殿にフォークソングが響きわたる「マックスマーラ」

美濃島:マックスマーラ(MAX MARA)」は宮殿でリアル・ショーを実施し、その様子をライブ配信で世界中に届けました。BGMはアコースティックギターが中心のフォークロアミュージック。荘厳な会場の雰囲気を押し出さなかったのは、消費者の「ホッとしたい」というニーズに寄り添ったのでしょうね。

向:この会場のこの回廊は毎シーズン使っていて、トップモデルをそろえるキャスティングやキャメルを軸としたカラー展開もいつもと変わらないから、数年後に見たらコロナ前のショーとの区別はつかないと思う。

美濃島:なるほど。特別な演出はなかったですが、ディテールに寄ったり下から煽ったりとカメラワークが工夫されていて飽きずに見られました。日本からは美佳さんがモデルとして登場していましたね。

向:変わらないことに賛否はあると思うけど、私は「マックスマーラ」はこれでいい、と思う。なぜならこのショーは顧客やバイヤーのためであると同時に、世界中に2000店舗超ある直営店スタッフのためでもあると思うから。多国展開するグローバル企業にとってコロナ下の今は、「我々は何者であるか」といったアイデンティティーを離れて働くスタッフと共有することはとても大切。このショーはそれを再確認させてくれます。同じキャメルでもひねりを効かせていたしね。

美濃島:ベージュやカーキといった中間色のワントーンスタイルがメインでしたが、袖を異素材のパフスリーブに切り替えたり、トラックパンツのようなサイドテープを付けたりと、どこかにひねりを加えて新しい見せ方に挑戦していました。過度な装飾や派手さはないけどさらりと個性をアピールできる服は、大人な女性に人気が出そうです。ハニカム(六角形)をモチーフにしたキルティングトップスやバッグも可愛かったなあ。コートに次ぐ、新たなアイコンになりそうです。

「エンポリオ アルマーニ」は映画セットのような本社ビルに驚愕

美濃島:エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」は、アルマーニの本社が入るビルで撮影した映像を公開。SF映画のようなロケーションで、「これが本社なの!?」と驚きを隠せませんでした。コンクリート一色の禁欲的な世界観はスポーティなブランドイメージと合致。若手ダンサーや俳優たちを多数キャスティングしたようで、かなりお金がかかっていそうです。太陽のような物体がどんどん近づくというストーリー性のある映像でしたが、意味はよくわかりませんでした(笑)。

向:意味は確かにわからなかった(笑)。でも私はじわりときたわ~。いつもはこの建物の中でショーを見るのだけどこうやって建物をフルに使ったことで結果的にアルマーニの美意識を再確認することができたから。

美濃島:と言いますと?

向:構図と肉体、光と色を堪能する8分、だったかな、と。“テアトロ”と呼ばれる本社は安藤忠雄建築で幾何学的な要素が随所に見られます。そこを舞台にパフォーマンスするモデルたちの動きも統制が取れていて、言わば「動き続ける美しい構図を見るショー」。私、美しい構図って癒しの一種だと思うのです……。その統制を壊すように、俳優の無言の演技やパリオペラ座のジェルマン・ルーヴェ(Germain Louvet)によるバレエが挟み込まれ、そこにはイタリアならではの人間・肉体美賛歌を見ます。大げさな解釈かな(笑)。

美濃島:人間を肯定する印象は僕も覚えました。洋服は透け透けのコートやミニドレスなど軽やかなものが多かった。テーラードジャケットにもシフォンドレスを合わせたり、膝丈のパンツで肌を露出したりして軽さを出していました。モノトーンのほか、ベージュや淡いブルーなどの柔らかな色合いも多かった。こういったニュアンスカラーは「マックスマーラ」にも登場しましたが、ニュー・ノーマルに欠かせない色合いなのかも。

向:確かにその軽さは「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」とは違う、「エンポリオ アルマーニ」ならでは。自然光の中で見る服の色は照明の下で見るより複雑で奥深いですね。「砂をすくってみれば、それは茶色ではなくたくさんの色の集合体だとわかる」と話していたアルマーニの言葉を思い出します。

ラフが手掛ける新生「プラダ」が鮮烈デビュー

向:21時からの「プラダ(PRADA)」は5分前からPCをフル画面でセットし、ちょっと緊張しながら待ちました。そしてよかった!プリーツスカートの制服を着た頭脳明晰な高校3年生の姉と、彼女を慕う中2の弟の対話を見るようなショーでした。「プラダ」の“ユニフォーム”や“スタンダード”が2人の対話を経てアップデートされたと思う。

美濃島:僕も、2日目の個人的なハイライトは「プラダ(PRADA)」。ラフ・シモンズ(Raf Simons)が手掛ける初のコレクションで、どんな服が見られるのかずっと楽しみにしていました。直線的なテーラリングや儚さを感じるグラフィック、オーバーなサイズ感はラフそのもので、とってもかっこよかったです。服やバッグ、靴、アクセサリーなど随所にあしらったトライアングルモチーフはインパクト抜群。でも、単にロゴをプリントするのではなく、アップリケとして配したり、イラストとして再構築したりしていて、ロゴブームが過ぎ去った今も可愛いと思える新鮮さがありました。ただし、あくまでラフ好きな僕からの視点。「プラダ」の顧客層にどう響くのかが気になるところです。

向:ナイス饒舌(笑)。細かく見ていますね。確かに「プラダ」のカワイイ部分を好む顧客層にとっては少々クールな仕上がりかも。私世代から見てミウッチャの「プラダ」の魅力のひとつは、“永遠の女子高校生感”。白いシャツやネイビーのセーター、プリーツスカートといった高校の制服を連想するアイテムがそれを象徴しており、今回はそれらのアイテムは強調されておらず、特に前半はほとんどがスポーティーなパンツルック。プラダのユニフォームの概念がアップデートされており、それこそミウッチャ自身が望んだことなんじゃないかな。そして同時に、可愛くてやや残虐な少女性もところどころに残している。絨毯に突き刺さるキトゥンヒールや、水玉柄と水玉を連想する穴の開いたニットなどがそうです。

美濃島:最後にミウッチャとラフの対話を見せたのもとても素敵でしたね。両者が良い関係を築けていることがひしひしと伝わって来ました。バイヤーやメディア関係者だけでなく、消費者もこういったパーソナルな部分に触れられるのはデジタルコレクションならではですね。

“変わらない強さ”に胸を打たれた「エトロ」

美濃島:エトロ(ETRO)」はソーシャルディスタンシングを保ちながら屋内でリアル・ショーを開催。小麦色に焼けたモデルがビキニトップスとショートパンツに身を包んだルックでスタートし、その後もリゾート感満載のルックが続きます。アイコンである彩度の強い総柄は、こんなご時世だからこそ、見る人のテンションを高めますね。個人的には、旗やカーテンなどのイラストをそのまま柄に仕上げたパターンが好みでした。おもちゃをまとったような快活さに包まれそうです。

向:ホント、見ていてリラックスできるショーでした。リヴィエラがイメージだそうで、金曜日の夜にお酒を飲みながらゆったりとした気持ちで見るのが似合います。そこに強さを添えるのがスカーフプリントやゴールドのチェーンなどに見る90年代感。コロナを経て「変わらなきゃ」と思う一方で「心地よくありたい」と思う気持ちもどんどん高まっている。ファッションが提供できる価値観は後者も大きいよね、と改めて思いました。

美濃島:プラスサイズモデルが当たり前に登場するのも時代を感じますね。これを特別なこととしてメディアが取り上げること自体ナンセンスになりつつあるのかも。最後に登場したデザイナーのヴェロニカ・エトロ(Veronica Etro)の笑顔もよかった。ショーを開催できる喜びが現れているようで、胸を打たれました。

魚眼レンズ越しの不思議ワールド 「ヴィヴェッタ」のアイデアが光る

美濃島:ヴィヴェッタ(VIVETTA)」は白いスタジオを魚眼レンズで写し、ところどころでモデルのシェイプを加工したユニークな映像でした。

向:今季のミラノのひとつのキーワードは“ガーデン”で、その極めつけみたいなコレクションでしたね。穴から覗き見るような不思議な撮影方法でした。会場やモデルにはあまりお金がかかってなさそう。お金をかけずにアイデアで勝ち!の良い例かと。

美濃島:ミラノ2日目はショーの様子を切り取った映像や世界観をわかりやすく表現したイメージムービーなど正統派な形式が多かったため、この実験的なアプローチは逆に目立ちましたね。服はいたってシンプルですが、フラワーモチーフのビジューでアクセントを加えていて、これを着てピクニックに行ったら楽しそうだなと勝手に想像しちゃいました。何も考えずに外出できる日が待ち遠しいです。

「アンテプリマ」の自然&ポエムでリラックスモードに

向:なんと、「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」からは編集部にガーデニングキットが届きました!大杉記者はさっそく種をまいて育てているそう。コレクション映像も自然の中で撮影をされ、BGMはポエム。「アンテプリマ」の特徴である軽やかなニットの心地よさがしっかり伝わります。

美濃島:モデルが自然の中で自由に過ごすシーンと、詩を朗読するモノクロのシーンを組み合わせた映像でしたね。これを見たあとにベッドに入ればすぐに寝付けそうなくらいリラックスできる内容でした。肩肘張っていないけど気心地や仕立ての良さで訴求できるブランドは、ニュー・ノーマルでも存在感を発揮できそうです。

「GCDS」の超リアルアバターに少し困惑

美濃島:「GCDS」は、アニメの世界でファッションショーを表現。顔はアバター感満載なのにウオーキングが妙にリアルで、気味が悪く感じるほどでした。ここはハローキティやディズニーとコラボしたり、そもそもストリート色が強くどこかコスプレっぽさもあったので、アニメでの表現はぴったりでしたね。

向:アバターの精度の高さに目を見張るものがありましたね。フェイスマスクしたモデルが登場したり、観客はソーシャルディンスタンスを保っていたりと非リアルなのにリアル。ただ見終わって印象に残るのはデフォルメされた女性の乳房やヒップのラインばかり(笑)。モデルの肌の色は多様性があるのに乳房の形はみな同じなところに小さな違和感を覚えました。デジタルはリアルなショーより作り手の理想がもろに出るな、と思いました。この世界観が好きな人はより好きになり、違和感を覚える人は離れるきっかけになりそう。

美濃島:個人的にはクリエイターが理想を体現したというより、既存のショーへのアンチテーゼだったのかなと思いました。プラスサイズモデルを見かけることも多くなりましたが、ステレオタイプの美がはびこっているのも事実。アバターだからこそ出る違和感を上手く利用してメッセージを伝えたのかもしれません。そこまで考えられていたら恐ろしいですが。

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