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連載 鈴木敏仁のUSリポート

破綻したJ.C.ペニーの長い苦闘の歴史 鈴木敏仁のUSレポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する。今回はコロナショックに引導を渡されて経営破綻したJ.C.ペニーについて。

 前回の掲載時点(4月28日)で破綻が決まっていたのは、ローラ・アシュレイ(LAURA ASHLEY)とトゥルー・レリジョン(TRUE RELIGION)の2社だった。それからわずか1カ月間にJ.クルー(J.CREW)、ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)、ステージストア(STAGE STORE)、そしてJ.C.ペニー(J.C.PENNY)と4社が立て続けに破綻した。共通しているのは、必需品ではないために店舗が営業停止となったアパレルが主力だったことだ。どの企業も財務状況が脆弱で数年前からうわさが飛び交っていたのでサプライズではないのだが、百貨店のJ.C.ペニーだけは感慨が深い。

かつてはチェーンストアのパイオニア

 今となっては知らない方も少なくないと思うのだが、J.C.ペニーは1928年に1000店舗を突破したチェーンストアという小売り運営形態のパイオニアだった。シアーズ(SEARS)と並んで米小売業界の黄金期をつくった由緒正しき有名老舗企業である。いま日本に存在する大手小売企業のそうそうたる創業者は多くはこの企業を見て、その規模やオペレーションに驚き、日本でもそういう店を作りたいという情熱を駆り立てられた。

 もともとは非食品の雑貨ストアからスタートして、ショッピングモールが誕生した頃に核としての大型フォーマットを開発し63年にオープンさせた。これがゼネラル・マーチャンダイズ・ストア(GMS)と呼ばれた。ゼネラル・マーチャンダイズとは雑貨のことで、つまり大きな雑貨ストアだった。これに食品を加えて変化させたのが日本型のGMSだった。

 70年代からディスカウントストアが勃興し、GMSから雑貨が奪われて衣料中心へとシフトしはじめたのが83年のことである。ここからGMSではなくて百貨店業態に乗り換え始めた。ところがザ・リミテッド(THE LIMITED)やギャップ(GAP)といった衣料専門店チェーンが急速に力をつけていき、衣料品でも新興勢力に勝てることができずに今日に至るというストーリーである。

 この間に多くの経営者が携わってきているがけっきょく誰も変革することができなかった。最近ではターゲット(TARGET)からアップル(APPLE)に移ってアップルストアを立ち上げて大成功させたロン・ジョンソン(Ron Johnson)、ホームデポ(HOME DEPOT)で次期CEOと目されていたマーヴィン・エリソン(Marvin Ellison)と、業界では知名度の非常に高い優秀な人たちがCEOとなって指揮を執ったのだがことごとくダメだった。

 私の知る限り、その本質的な問題は組織が官僚化して硬直していたことにあった。それを誰も変えることができなかったのである。

 売上高は2016年から減収となり、最終利益は11年から赤字なのだが、なにより厳しいのは昨年度末の時点で自己資本比率が10%しかなくて、有利子負債の比率が45%に達している点にある。DEレシオは実に8倍で、冒頭で破綻しても驚きではないとしたのもお分かりいただけることだろう。

 破綻宣言の時点ですでにDIPファイナンスを調達しているので、しばらく事業を継続しながら破綻処理を進めていくことになる。現時点で分かっていることは846店舗を30%ほど減らして604店舗へと縮小させる計画で、次はおそらく不動産をREIT(不動産投資信託)として切り離しスピンオフして資金調達するだろうとみられている。その次が正念場で、存続して再建に向かうのか、または清算するのかだが、最優先債権者としての金融機関がトイザらス(TOYSRUS)に引導を渡した投資企業なので、清算による流動化を急ぐ可能性は高い。合意の締め切りとして設定されている7月14日に運命が決まる。

次に破綻する百貨店はどこか

 現時点で次に破綻の可能性が報じられているのはロード&テイラー(LORD & TAYLOR)で、親会社でカナダに本拠を置くハドソンズ・ベイ・カンパニー(HUDSON'S BAY COMPANY)にも赤信号がともっている。百貨店業界総崩れとなりつつあり、来年末までには総店舗数は半分まで減るだろうと予測する調査会社もある。そうなるとモール内に出店する他の専門店チェーンへの影響は避けられない。長期的にはおそらく家賃を下げざるを得なくなってモール運営企業の収益悪化は必至だ。

 アメリカはやっと規制解除で営業が再開し始めているが、失業率が跳ね上がっていて先行き不安で消費は冷え込んでおり、需要が戻るには時間がかかりそうだ。短期的には今膨れ上がっている春物の在庫をどうするかである。例年の5倍近い在庫が滞留しているとみられていて、各社は現在ネットで大幅な値下げセールを実施しているのだが簡単には動かず、おそらくしばらくはブラックフライデー状態が続くだろう。

 アメリカには衣料品の過剰在庫をさばくオフプライスストア(OPS)という業態があり、TJマックス(TJ MAXX)という年商400億ドルを超える優良企業も存在する。だが、こちらも店頭営業が停止状態なのと、店舗での宝探しが強みで繁盛していてネット通販をやっていないため、OPSというチャネルも閉じてしまっていて、過剰在庫が完全に行き場を失っているのが現状である。

 今年の衣料品市場はグローバルで15.2%減り、その40%をアメリカが占めるという予測がある。アメリカの衣料品業界はきわめて重大な局面にあるのだが、切り抜ける戦略戦術にも限りがある。しばらく苦しい状態が続くことになりそうだ。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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