「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」は、新クリエイティブ・ディレクターを務める新進デザイナー、デュラン・ランティンク(Duran Lantink)によるプレタポルテのデビュー・コレクションを発表した。
デュランは2016年に自身のブランドを立ち上げると、19年にはLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)による「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のセミファイナリストとなり、24年には同賞の準グランプリにあたるカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)審査員特別賞を受賞。前年の23年には「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award、ANDAM)」で特別賞、さらに今年はインターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE)でグランプリを受賞するなど、業界きっての期待の星だ。ショーの終了後、バックステージでデュランは「『ゴルチエ』といえば、セクシー。官能的で、挑発的で、新しいものへの挑戦を厭わない。そんな姿勢を今の形で表現したかった」と語る。
官能的で挑発的なのは、言葉通りだ。ファーストルックは、ベアトップのボディスーツ。モデルは胸を、コーンブラを横向きにしたようなカップに収める。メンズもウィメンズも、肌見せは過剰なほどで、ハイレグも頻繁に登場。ボディスーツには手描き風の裸体を性器まで含めて描き、扇情的だ。多用したのは、下半身をギリギリ露出させないほどに攻めた曲線のウエストラインや、ホットパンツに加えたカットアウト。視線を下半身に集めるべく、大きなバックルのベルトを加える。さらには生地をヌードカラーのチュールと頻繁に切り返し、まるで素肌の上に最小限の布しかあてがっていないようなスタイルも相次ぐ。
新しさは、スパンデックスのような伸縮自在の素材で作る。単純にボディスーツにしてみたり、S字の曲線のパネルに被せて近未来的かつ彫刻のようなシェイプのミニドレス生み出した。リアルとまでは言い難いが、意欲的だ。オートクチュールではなく既成服のプレタポルテゆえ、売れそうなアイテムを作ることも重要だ。それもまたスパンデックスで作ったボディバッグの一部を下に引っ張り、足の裏で踏みつけることにより肌が覗くレギンスにもなるアイテムにしている。創業者では生まれ得ないストリートライクなアイテムだろう。
とはいえ、コレクション全体から「ゴルチエ」感を抱くのは、正直かなり難しい。このショーだけ見たら、もちろんフレンチなマリンストライプやセーラー帽などの要素には気づくだろうが、多くの人は「ゴルチエ」を思い出さず、ただ「デュラン・ランティンク」と思うだろう。
振り返ればゴルチエは、コルセットしかり、貴族的なムードしかり、イギリス紳士や淑女の装いしかり、クラシックを踏まえた上で破壊し、官能的で、挑発的、そして新しいものを作っていた。デュランにもそのベースがなければ、ただの新進デザイナーで終わってしまうのではないか?新進デザイナーにいきなり高度な知識やクリエイティビティを求めるのは酷だが、歴史的な衣装に敬意を表する発想がなければ、「ゴルチエ」は成立しないと思うがどうだろう?
ショーの後、互いに抱擁し合うデュランとゴルチエを見て、そんな心配は杞憂なのだろうか?いや、そんなはずはないと考えた。