ファッション

反ファスト宣言の「ザラ」、実はこんなにもサステナ先進企業だった!

 企画デザインから店頭投入まで早いものでは2~3週間。トレンドを採り入れるのも早い。スペイン本国から出荷したものはEU圏内で36時間以内、日本を含むその他の地域には48時間以内で到着する。商品は週2回投入され、売り切り型の商品も多く、店頭には常に新しい商品が並んでいる。

 そんなファストな企画・生産・物流・販売サイクルを持つ「ザラ(ZARA)」は、「H&M」と伍するファストファッションブランドとして知られている。しかし、7月16日に行われた親会社のインディテックス(INDITEX)の株主総会では、「反ファストファッション宣言」(「われわれはファストファッションではない」とパブロ・イスラCEO)を行うとともに、新たなサステイナビリティー目標を掲げたことで話題を呼んでいる。

 ただし、「ザラ」を擁するインディテックスは、いきなりサステイナビリティーを言い出したわけでも、“グリーン・ウォッシュ”(見せかけの環境配慮)でもない。むしろ、サステイナビリティー先進企業なのだ。

 その証拠に、ESG(環境、社会、ガバナンス)株価指数として知られる、「ダウ・ジョーンズ・サステイナビリティー・インデックス(DOW JONES SUSTAINABILITY INDEX)」では、2016~18年の3年連続で小売り業界のトップにランキング。

 ダボス会議(スイスのダボスで行われる世界経済フォーラムの年次総会)で発表される「Global 100 Index: 世界で最も持続可能な企業100社」2019でも、アパレル・小売関係の2位にインディテックス(全体の54位)がランクインしている。

 ちなみに、1位は「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などを擁するケリング(KERING、全体の2位)。再生素材を活用した商品開発などで注目を集める3位のアディダス(全体の84位)を上回る評価を受けているのだ。

 同社は01年に「国連グローバルコンパクト」に署名。その後、ベター・コットン・イニシアチブ(Better Cotton Initiative)、オーガニック・コットン・アクセレーター(Organic Cotton Accelerator)、サステイナブル・アパレル連合(Sustainable Apparel Coalition)、テキスタイル・エクスチェンジ(Textile Exchange)、森林を保護するキャノピー・スタイル(CanopyStyle)、水資源に関するCEOウォーター・マンデート(CEO Water Mandate)、ファー・フリー・アライアンス(Fur Free ALLIANCE)、労働者の生活賃金達成を促進するACT(Action, Collaboration, Transformation)、ベターワーク(Better Work)、カトリック教会の慈善団体、カリタス(Caritas)などとも連携している。

 近年強化してきたのは、サステイナブル素材を使用した商品の発売や、省エネ・節水、そして、古着回収リサイクルだ。

 15年には、環境配慮型ライン“ジョイン ライフ(JOIN LIFE)”をスタート。「オーガニックコットンや再生ポリエステル、再生セルロース繊維の一つであるテンセル、リヨセルなどの持続可能な素材を使用」したり、「生産工程における水やエネルギーの使用量の削減」を進めてきた。すでに、グループの全製品の約20%に持続可能な素材を使用中で、20年に25%、25年までには100%達成を目指すという。

 実はこの「ジョイン・ライフ」ラインと、サステイナビリティーへの取り組みは、18年に六本木のポップアップストアでも打ち出されていた。ショールーミングストアとしてのデジタルを活用した実験的要素ばかりが取り上げられたが、コンセプトを明確に打ち出す情報発信型店舗としてのテストも行っていたのだ。

 並行して、15年には「ザラ」で古着回収プログラムをスタート。現在、日本を含む24市場・834店舗で実施中で、これまでに3万4000トンを回収したという。それらの古着は、赤十字やカリタス(CARITAS)、オックスファム(OXFAM)などの非営利団体を通じて寄付したり、リサイクルされている。ECにおける購入者向けの自宅引き取りサービスも、スペイン本国と中国(北京、上海)で開始している。

 脱プラスチックについても同様で、「ザラ」「ザラ ホーム(ZARA HOME)」「マッシモ・ドゥッティ(MASSIMO DUTTI)」「ウテルケ(UTELQUE)」でプラスチック製レジ袋を紙製に切り替え始めている。

 今後のサステイナビリティーの取り組みと進捗計画はおおよそ以下の通りだ。
▼2019年下期までに、EC購入者向けの自宅引き取りサービスをロンドン、パリ、ニューヨークに拡大。
▼2020年までに、サプライチェーンにおいて有害化学物質の排出ゼロにコミットメントする。デザイナー全員にサステイナビリティーの重要性を教育する。絶滅危惧の森林から生産される繊維を使用しない。
▼2020年までに、世界中の全店舗に回収ボックスを設置する。
▼2020年までに、「ベルシュカ(BELSHKA)」「ストラディバリウス(STRADIVARIUS)」「プル&ベア(PULL&BEAR)」を含めた全ブランドでプラスチックバッグを廃止。プラスチック包装材も紙製に替える。
▼2023年までに、使い捨てプラスチックの廃絶。
▼2023年までに、責任あるビスコースのために、100%持続可能なセルロース系再生繊維を使用する。
▼2025年までに、綿、麻は100%サステイナブル素材に、ポリエステルは100%リサイクルポリエステルを使用
▼2025年までに、埋め立て廃棄物をゼロにする。
▼2025年までに、本社、物流センター、店舗のエネルギーの80%を再生エネルギーとする。(現在は44.9%)
▼2030年までに、GHG(温室効果ガス)排出量を30%削減する。
▼2050年までに、ファッション業界でゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)を達成する。

 売上高3兆円企業だからできることもあるが、逆に大きいからこそ実現が難しい部分もある。それでも、だからこそ、期限を決めて目標数値を明示しながら実行していく。サステイナビリティーは、地球や人類が持続するためにはもちろんのこと、企業が生き残るためにも必要不可欠な取り組みである。ファッション業界でゼロ・エミッションを達成(サーキュラー・エコノミーの実現とも言える)するために業界のリーディングカンパニーとして啓蒙活動にも取り組んでいく構えだ。

 少し褒めすぎかもしれないが、「ザラ」とインディテックスの本気度にエールを送りたい。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)

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