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アディダスとステラが取り組むサステナ最前線 人工クモの糸の服と循環する服

 “アディダス バイ ステラ マッカートニー(ADIDAS BY STELLA McCARTNEY以下、AbySM)”は7月5日、2019-20年秋冬の新作を英国ロンドンのウィンブルドン近郊で披露した。そこには、新作だけでなくサステイナビリティー追求においての次のフェーズを示す試作品が展示され、アパレル廃棄問題への解決策を提示するとともに、サステイナビリティー追求をさらに推進することを示した。いずれもこれまでとは異なる全く新しいサプライチェーンの構築が必要なアイテムだ。

 テニスのウィンブルドン選手権大会開催中に発表したのは理由がある。ジェームズ・カーンズ(James Carnes)=アディダス戦略構築担当兼副社長は「142年の伝統があるウィンブルドン選手権大会の地で変化を起こしたいと考えた。今までにない技術を開発してスポーツウエアにおけるサステイナビリティーのゴールを提示した」と語る。

 ソリューションは、人工クモの糸と呼ばれる合成タンパク質主体の新素材を用いたテニスドレスと、古いコットンから再生したセルロースとオーガニックコットンで作った100%リサイクル可能な“循環するフーディー”の2つのアイテムで表現された。

 協業の相手は、米国カリフォルニア州エメリービル発のスタートアップ企業ボルトスレッズ(Bolt Threads)と、同じく米国シアトルに拠点を置き、半永久的なリサイクル繊維作りに取り組むエヴァニュー(EVRNU)だ。

新素材の量産化にはまだ課題も

 人工クモの糸の合成タンパク質素材といえば、日本では慶應義塾大学発のベンチャー企業スパイバー(SPIBER)が知られているが、ボルトスレッズはその米国版。酵母を用いて合成したタンパク質のシルク繊維“マイクロシルク(MICROSILK)”を開発して話題になった。17年にはステラ マッカートニー社と長期的なパートナーシップを発表しており、すでに“マイクロシルク”を用いたドレスのプロトタイプを製作するなどしていた。今回のテニスドレスはそのアップデート版で、“マイクロシルク”を30%、セルロースを70%用いた。テニスドレスは商品化の予定はないが、今最もサステイナブルであるとして注目を集める新しい素材、合成タンパク質の可能性を示した。この新素材は水、砂糖、イースト菌から合成しており生分解性である点もポイント。「“マイクロシルク”の量産に向けてパートナー企業と取り組んでいる」とジェイミー・バインブリッジ(Jamie Bainbridge)=ボルトスレッズ・バイスプレジデント・オブ・プロダクトディベロップメント)は言うが、まだ産業化には至っていない。

「困難と感じるのは、アパレル業界が保守的であること」

 エヴァニューと協業した循環するフーディー“インフィニート・フーディー(INFINITE HOODIE)”は、この4月に発表した循環するスニーカー“フューチャークラフト.ループ(FUTURECRAFT.LOOP)”に次ぐ100%リサイクル可能な製品で、20年に商品化を目指す。今回は50枚の試作品を作り、関係者やセレブリティーに配った。

 “インフィニート・フーディー”は、エヴァニューが開発した技術によって、コットン製の古い衣料品を分子レベルにまで分解して作る高品質の再生セルロース繊維“ニューサイクル(NUCYCL)”を用いたもの。ステイシー・フリン(Stacey Flinn)=エヴァニュー最高経営責任者(CEO)は、「私が知る限り、服を100%リサイクルできるのは当社だけだ」と胸を張る。今回の“インフィニート・フーディー”は“ニューサイクル”60%とオーガニックコットン40%で作られており、3~4回リサイクルしても高い品質と機能性を維持できる。「これは例えば一人のユーザーが使うとしても十分な回数。長持ちする高品質の商品を提供することも重要だ」とカーンズ=アディダス戦略構築担当兼副社長は付け加える。

 繊維を再生する場合にはその品質が低下することがネックの一つになっていた。今回のフーディーの場合は「リサイクルのたびにポリマーの約10%の鎖が減っていく」とフリンCEOは言うが、それでも十分な品質が維持できる点が画期的である。フリンCEOは「廃棄物の取り扱い業者や繊維メーカーとのライセンス化に時間がかかっている。最も大きな困難と感じるのは、アパレル業界が保守的であること。新しい技術やアイデアを持ち込んでも変化に対応してもらえないことが多い。でもアディダスとステラ・マッカートニーという強力なパートナーを得て前進している」と言う。

「次の挑戦は廃棄の概念をなくすこと」

 カーンズ=アディダス戦略構築担当兼副社長は「廃棄物削減に向け、当社はまずアップサイクルされたプラスチック廃棄物を用いた製品開発に取り組み、すでに海洋プラスチックゴミを利用して新しい商品を作るサプライチェーンを構築した。24年までにバージンポリエステルの使用は廃止することをすでに発表しており、これは“made with repurposed plastic(再利用プラスチック原料による生産)”というコンセプトに基づくもの。次の挑戦は廃棄の概念をなくすことだ。今回の発表は新たなコンセプト、“Made to be Made(再生を前提とした生産)”、“Made to Biodegrade(生分解性を踏まえた生産)”を示すものだ」。

 現在、ウィンブルドンの試合で選手が着用する“AbySM”はすべて海洋プラスチックゴミから作られたリサイクルポリエステルのウエアだ。一般消費者向けの“AbySM”のテニスアイテムも、95%に同じくリサイクルポリエステルが使われている。