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社員自ら働く場所を設計、福井の繊維用薬剤メーカーに学ぶ大胆“職場改革”

 リモートワークやオンライン会議など、テクノロジーを活用すれば、今や世界中どこにいても仕事ができる環境が整っている。一方で、そんな時代だからこそ、社員が集まる“職場”のあり方を考え直す企業も増えてきた。その一例となる場所が、福井県にオープンしたばかりの「NICCA イノベーションセンター」だ。

 「NICCA イノベーションセンター」は国内有数の繊維産地・福井県に拠点を置く繊維用薬剤メーカー、日華化学が11月に竣工させたばかりの研究開発拠点だ。同社は1941年に創業し、繊維工業用界面活性剤の製造販売で国内トップシェアをほこる企業だ。

 新社屋建設の発端になったのは、社員同士のコミュニケーションが少ないといった問題に対して、新社屋を作って働き方改革をしようという会社の決断だった。そうして、社員との話し合いを持ち、本社に増築する形で研究施設を含む新社屋を建設するに至った。設計を担当したのは建築家の小堀哲夫。小堀は“自然と人間の融合”をテーマにした設計を得意とし、静岡県に今年完成した研究施設「ROKI Global Innovation Center ‒ROGIC‒」が、国内の2大建築賞「JIA日本建築大賞」「日本建築学会賞」を受賞したことでも注目を浴びた。同年のダブル受賞は建築史上初めてだ。

 そんな注目の建築家が手掛けた「NICCA イノベーションセンター」最大の特徴は、2014年の設計段階から社員を巻き込んで議論やワークショップを重ね、ともに作り上げた社屋であるということだ。7回にもおよぶ社員とのワークショップでは、舞台演出家を交えて働き方のシミュレーションまで行った。また、教育の専門家である上田信行・同志社女子大学現代社会学部現代こども学科特任教授を招へいし、社員の働き方に対する意識改革を実施した。上田特任教授いわく、「働き方を変えるためにはチャレンジすることが必要。日本人はアイデアは素晴らしくても、行動に移すのが苦手だと感じる」。社員にチャレンジ精神を植え付けるため、ワークショップではダンスまで行ったという。

 社員とのワークショップを通して完成した社屋は、まるで一つの都市のようだった。「当初は人が集まることでガヤガヤできる場を作って欲しいという依頼だった。従来の研究室は均一な空間で、外部との連携も少ない。生産効率を上げるためにも、容易にコミュニケーションがとれ、時間によって変化する環境が必要だと感じた」と小堀。そのため、光の入り方を何度もシュミレーションし、時間や天候に応じて変化を見せるよう採光を工夫した。また、施設内には“コモンズ(広場)”と呼ぶ大きな空間を3つ、重なり合うように配置、全てを階段を含む大通りでつなげた。仕切りにはガラスを使うことで可視性を上げ、どこから見ても賑わっている“バザール”のような場所に仕上がった。もちろん、“コモンズ”はフリーアドレス制、座席も照明も全て可動式だ。

 ワークショップによる意識改革もあってか、効果はすぐに出始めたという。「オープンしたばかりだが、社員はすでに建物を使い倒してくれている。ただし、今がスタートなので、これからさらに変化していくことを願う」と小堀。同社も新社屋について、「ここは大人の砂場のような場所。異業種の社員同士が好きな場所で盛んにアイデアを交換し、イノベーションを起こしてほしい」と期待する。社員とともに職場を作ることで働き方や意識が変わり、会社の成長につながるという考えは、“ノマド時代”の職場の必要性を考える上で注目すべき先進事例になるだろう。