ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領政権による関税政策の迷走ぶりに、世界が振り回されている。4月9日に発動した相互関税措置を、翌10日には90日間停止することを発表した。11日には、米税関・国境取締局(U.S. Customs and Border Protection)がスマートフォンを中国製品向けの相互関税から除外するとしたものの、トランプ大統領は13日、自身のSNSに「除外ではない。異なる関税の区分に移すだけだ」と投稿。一連の事態を受け、世界中の株式市場が乱高下しているが、同大統領は相互関税の実施理由の一つとして“米国の製造業の活性化”を挙げている。ここでは、中国への依存度の高い米アパレル業界の関連団体の声をまとめた。
「完全なるカオス状態」
米国ファッション産業協会(United States Fashion Industry Association)のジュリア・ヒューズ(Julia Hughes)=プレジデントは、「(相互関税措置が停止された)この90日間を無駄なく使い、貿易障壁や市場開放について真剣に協議し、何らかの対応策をひねり出さなければならない。ファッション業界は、グローバルな貿易によって成り立っている。貿易戦争に真の意味での勝者は存在せず、このままでは消費者の負担が増えるばかりだ。(トランプ政権は)今回の“関税による決闘”のような状況から学び、中国との長年の貿易戦争の解決に本腰を入れて取り組んでほしい」と述べた。
米国アパレル&フットウエア協会(American Apparel & Footwear Association)のネイト・ハーマン(Nate Herman)=ポリシー担当シニア・バイス・プレジデントは、「完全なるカオス状態だ」と語気を強める。「トランプ政権に振り回され、業界は頭を抱えている。いつ翻されるか分からない政策に基づいて事業計画など立てられないし、当面は様子見をするしかない。短期的な対策として関税の引き上げ前に商品や原料を大量に輸入するにしても、発動日が何回も変わるのでは倉庫代などの計算が難しい上、燃料も高騰している。今後、米国内のアパレルやフットウエア、日用消費財が値上がりすることは確実であり、4月後半から5月にはその影響が出てくるだろう。需要が冷え込むことを見越し、アパレル各社は新製品の発注をかなり絞り込んでいるのではないか」。
米国内での生産は「現実的ではない」
第一次トランプ政権の際、中国との貿易戦争が激化していくのを目の当たりにした米国のアパレルおよびスポーツブランドは、長期的な戦略としてサプライチェーンの分散化に取り組み、中国依存からの脱却を目指した。しかし生産拠点の移転や拡大には多額の費用がかかる上、一定の品質や生産能力を維持しつつ、多様な生産工程に対応できる工場の確保は容易なことではなく、想定通りに進んでいないケースも多い。
また、ハーマン=シニア・バイス・プレジデントは、今回の場合はどこに移転すれば関税リスクを回避できるのかが分からないことも大きな問題だと指摘。「一般的に中国からの移転先として候補に上がるのは、ベトナム、バングラデシュ、カンボジアなどだろう。しかし、いつこれらの国に高い関税が課せられるか分からない中で、多額の資金をかけて移転はできない」と話す。残る解決策はトランプ政権が狙う米国内での生産だが、同氏によれば、これは前述の生産能力の問題や、技術が集積されていないなどさまざまな理由で現実的ではないという。
「米消費者の財布が直撃される」
なお、中国は米国にとって重要な輸出先でもある。米国は世界最大級の綿花輸出国であり、2023年における輸出相手国のトップは中国だったほか、米国産テキスタイルおよびアパレル製品の輸出先としても3位だった。しかし、中国政府は4月12日、米国からの全輸入品に課す関税を84%から125%に引き上げる“報復関税”を発動。今後、中国市場で米国産の原料やアパレル製品は売れにくくなるだろう。
米国の靴業界団体フットウエア・ディストリビューターズ・アンド・リテーラーズ・オブ・アメリカ(Footwear Distributors and Retailers of America)のマット・プリースト(Matt Priest)=プレジデント兼最高経営責任者は、トランプ関税について「悪い意味で歴史に残る、前代未聞の事態だ」と話す。シューズメーカーの多くは中国への依存度が高く、パニックに陥っているという。「調達先を変えるのは容易なことではないし、変えるにしても時間がかかる。中国のサプライヤーに発注済みのオーダーをキャンセルしたほうがいいのか、今後のプライシングをどうすべきなのか、関税の影響でこれまでの倍近くの価格となることを顧客にどう説明するのかなど、誰もが右往左往している。確かなのは、米国の消費者の財布が直撃されるという一点のみだ」。