中国政府は2月4日、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」と「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP以下、PVH)を“信頼できない事業体のリスト”に追加したことを明らかにした。同政府は、PVHが新疆ウイグル自治区で生産されたコットンを“不当にボイコット”している疑いがあるとして、調査を開始することを2024年9月に発表。25年1月、同社が“不適切な行為”を行っているとの仮決定を下している。
この背景には、20年6月に中国による少数民族ウイグル人への強制労働問題などが報じられたことから、多くの企業やブランドが新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引停止や、同自治区で生産された綿花の調達の中止を発表したことがある。米国は22年6月に、ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act以下、UFLPA)」を施行しているが、PVHはそれ以前の21年に同自治区からの調達を中止した。なお、UFLPAが施行されている以上、米国企業が新疆綿に対する姿勢を変えることは難しいだろう。
中国の“信頼できない事業体のリスト”とは
中国商務省は19年、“信頼できない事業体のリスト”を作成することを明らかにし、20年9月に公布。外国の企業やその他の組織および個人が、中国の主権、安全、発展の利益を害したり、中国企業や組織に差別的な措置を取りその権益を損ねたりした場合などに掲載の対象になるとしている。措置内容としては、中国と関係する輸出入活動や中国内での投資の制限あるいは禁止、関連する人員や運輸手段の入境を制限あるいは禁止、中国内での滞在資格や就業許可の制限あるいは取り消しのほか、罰金を科される場合もあり、状況の軽重により措置が異なるという。なお、これまで同リストの対象となったのはハイテク企業や軍事企業が多いようだ。
PVHは最悪のシナリオでは中国撤退も?
PVHは今回の事態を受け、「中国商務省の決定にとても驚き、非常に残念に思っている。当社は20年にわたって中国で事業を運営し、消費者に仕えてきた。また、全ての関連した法律や規制を厳に順守し、業界基準や慣例に基づいて事業を行っている。関連当局と引き続き連絡を取り、前向きに解決できるよう尽力する」との声明を発表した。なお、中国市場は、23年度におけるPVHの売上高のおよそ6%を、同じくEBIT(利払前・税引前利益)の15%程度を占めている。
また、PVHは米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)に提出した文書で、中国商務省による措置がどの程度のものになるのかは現時点で不明であり、その影響を推し量るのは難しいと説明。「措置内容によっては、中国内での生産、卸、小売事業に加えて、投資すら難しくなる可能性がある。その結果として中国市場から完全に撤退せざるを得なくなった場合には、余剰在庫や売掛債権の回収難など、さまざまな問題が浮上することが考えられる」と述べている。

株式市場は今回の事態を嫌気し、PVHの株価は一時3.5%安となったが、その後持ち直し、4日終値は前日比1.0%安の82.51ドル(約1万2789円)となった。
再び激化しつつある米中の貿易摩擦
今回の中国政府による動きを、米国への牽制の一環と見る専門家も多い。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は、自ら“関税男”と名乗る通り、以前から関税を政治の交渉カードに用いている。直近では、メキシコとカナダに課すとしていた25%の関税措置を1カ月停止することで両国と合意したことを明らかに。一方、中国に対する10%の追加関税は4日に発動。これに対し、中国は報復措置として米国の石炭や液化天然ガスなどに最大15%の追加関税を課すことを発表するなど、両国間の貿易摩擦は第1次トランプ政権時に続いて再び激化しつつある。なお、トランプ大統領と中国の習近平主席は近日中に会談を行うと見られている。