ファッション
特集 メンズ・コレクション2025-26年秋冬

「プラダ」野生の本能呼び起こすハイパーミックス 饒舌なラフ、寡黙なミウッチャ

プラダ(PRADA)」共同クリエイティブディレクターのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)は今、“本能”を呼び覚ますことに夢中なようだ。2025−26年秋冬メンズ・コレクションは、“壊れない本能(UNBROKEN INSTINCTS)”をキーワードに掲げた。25年春夏シーズンのウィメンズ・コレクションでは、アルゴリズムに影響されずに人間の生まれ持った感性による自己表現を称え、同シーズンの「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、少女時代の本能への回帰がコンセプトだった。今回の“壊れない本能”について、ラフはこう説明する。「真剣に考えすぎず、感性に従ってコレクション制作に臨んだ。現代の世界では、自然発生的に生まれてくる人間らしいアイデアをより尊重すべきだと思うから」。

没入感のあるセット

ショー会場のプラダ財団(Fondazione Prada)には、見る者の“本能”を刺激する目的で、まるで映画のように没入感のあるセットを設営した。手掛けたのは、レム・コールハース(Rem Koolhaas)率いるAMOだ。単管パイプを使った仮説の足場で3フロアの立体的なセットを組み、足もとのコバルトブルーのカーペットには、オーストラリア出身の衣装デザイナーであるキャサリン・マーティン(Catherine Martin)がデザインした、アール・ヌーヴォーの花模様を描いた。ベルリンのナイトクラブのようなインダストリアルな雰囲気と、20世紀のフランスの舞踏会を想起させるフロアは、現実には交わることのない組み合わせである。会場に響き渡るのは、16日に死去した映像監督デヴィッド・リンチ(David Lynch)作品の挿入歌である、マイケル・ナイマン(Michael Nyman)の“Memorial”や、アンジェロ・バダラメンティ(Angelo Badalamenti)の”The Pink Room”のサウンドトラックだった。「一年前からこれらの曲をショーで使用したいと思っていた。このタイミングでの彼の訃報は偶然だった」とラフ。

感性に任せた多要素ミックス

パイプが入り組んだ空間に対し、ショーはシンプルなスタイルで幕を開けた。イカリのチャームが首元で揺れるブラウンのニットTシャツとブラックのスラックスを合わせ、足元をコットンキャンバス地を用いたフラワーモチーフのカウボーイブーツが飾る。シルエットは、ボクシーなテーラリングやオーバーサイズのコート、タイトなボトムスで作る逆三角形が中心。フワフワのシアリングやカーフヘアの装飾は今季を象徴するキーパーツで、アウターの襟とフードに加え、ブルゾンやボタンダウンシャツの下にも動物の毛を採用したトップスを忍ばせる。保温性の高いファーを備えたコートを素肌の上に纏う非論理的なスタイリングからは、妙に艶かしい人間性と官能性が香り立っていた。毛足の長いファーのショールは無造作で非対称なカットで、毛皮を装飾品としてではなく、寒さから身を守るためだけに使用していた野生の装いを想起させる。コレクションを通じて、人類の起源を辿るかのように。

タータンチェックのモチーフに、英国の壁紙やテーブルクロスに用いられるレトロなフラワーモチーフで英国要素を差し込みながら、袖のフリンジやクレセントポケットでトリミングしたセーター、ほとんどのルックの足元を飾ったウエスタンブーツでカウボーイのニュアンスも加えた。「カウボーイブーツがたくさんあったとしても、カウボーイブーツのように見せたくはない」と、ラフはあえて矛盾させたアイデアを説明する。グランジ風のガウンが登場すれば、グラムロック風のシルクのスキニーボトムが続き、終盤もパジャマやラウンジウエア、純白のタキシードと、要素に一貫性はない。無作為なスタイリングこそ今季の精神であり、アーカイブから踏襲したイカリやベースボール、バスケットボールを模したジュエリーにも明確な意図はない。あえて理由を言うなら、「本能的に引かれたから」。それがデザインにおいては十分な理由だと言わんばかりに、最後まで無秩序で、不合理で、カオスなルックが続いた。

「自分自身を制限するべきではない」

饒舌に語るラフの横で、ミウッチャはただ一言、「本能と人間性、情熱、そして非常に保守的になりつつある世界を、自分の手で抵抗しなくてはならない」と口にした。続けてラフが、「物事は、一緒になるはずがないように見える場合でも、一緒になることがある。私たちは自分自身を制限するべきではない。私たちが目指すのは、温かく、人間的で本能的でありながら、ある意味で美しく家庭的にすること」と付け加えた。

異質なアイテム同士で構成するルックや、終盤のファーやレザーの切れ端をつなぎ合わせたパッチワークからは、例え不均衡なバランスでも、支え合えば新たな価値観を生み出せること、ひいては団結のメッセージさえも感じられた。予定調和の未来ではなく、予測不可能でも心で感じる感性に従うことが、混沌とした現代社会を明るい未来へと導く二人が出した答えのようだ。何を選択しようとも未来は常に不透明だが、確かなのは、物事の根底を揺さぶる疑問を投げかけるのが「プラダ」の本能であることだ。

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