
皆さん、こんにちは。「WWDJAPAN」の村上要です。2026-27年秋冬のパリ・ファッション・ウイークが終了しました。「WWDJAPAN.com」では注目ブランドを続々リポートしていますが、ここでは、そのほかのコレクションを一挙にダイジェストでご紹介。今回は私の頭の中を皆さんにご紹介するイメージでしょうか?編集長の“ひとりごと”に最後までお付き合いいただければ幸いです。今日は、3つのブランドについて呟きます。
ジュンヤ ワタナベ
続けているからこそ輝いた
ガラクタを集めたクチュール
「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」については、ことメンズに関しては変わらないことを批判する意見もありますが、「確かにシーズン毎の新しさは必要だけれど、変わらなくちゃいけないの?」というのが正直な感想です。積み上げ続けるからこそ、達成できるステージもある。今季は、そんな印象を強く受けました。
「The Art of Assemblage Couture(集めて作るクチュールという芸術)」と題したコレクションは、過去数シーズンの総決算のよう。工業製品に始まり直近は生活雑貨に至るまで、さまざまな異素材、元来洋服には使うはずがない工業製品などを“材料”に、実に美しいフラメンコドレスを作り上げていきました。
“材料”は、本当にさまざまです。樹脂で作ったであろうプロテクターから、「車の一部です」と言われたら「ですよねぇ」と言ってしまいそうな工業製品(バンパー⁉︎)、生活雑貨では三角定規や写真入れ、生地さえ洋服のために生まれたものだけではなく、シャワーカーテンなど、さまざまを使い、集め、1着の洋服に仕上げていきます。
これを美しく仕上げるには、相当な“理系脳”と、パターンに関する造詣が必要かと思われますが、渡辺淳弥さんはウィメンズでもこうしたアプローチを数シーズン、メンズに至ってはかれこれ20年以上続けているので、実現できるのでしょう。端的に言えば、ゴミから一点モノのクチュールピースが生まれました。究極のアップサイクルです。
演出も最高でした。ショーのオープニングは、イリーナ・シェイク(Irina Shayk)、フィナーレは マギー・マウラー(Maggie Maurer)が務め、モデルたちは長谷川白紙と細井徳太郎によるアコーディオンやバイオリン、ピアノのタンゴの中でウォーキングします。スーパーカッコいいので、これは是非写真ではなく動画をご覧になってください。往年のモデルの起用からも、古いからといって廃れるわけではない価値などを訴えているのでしょう。
セリーヌ
テンション&リリースな
マインドも表現したパリシック
さぁ、マイケル・ライダー(Michael Rider)による「セリーヌ(CELINE)」は、これまでのプレッピー路線を離れ、新しいパリシックを模索します。それは、端的に言えば少しエキセントリック。周りから見れば少し違和感のあるスタイルさえ、自信を持って着こなすパリジャンのアティチュードを描きました。というか、パリジャンは毎日パリシックを表現しようとしてないですよね、きっと。そんなノンシャラン、気取らないムードさえパリジャンの魅力と捉えて表現しているかのようです。
基本はフィット&フレア、マイケルはそれをテンション&リリースと呼ぶそう、なシルエットです。これはジャケットでもコートでも、ボトムスでも変わりません。トップスならウエスト、ボトムスなら膝の辺りで一回くびれ、そこから裾に向かってほんのり広がっていきます。そこにこれまでならスカーフやコスチュームジュエリーを圧巻のスタイリングセンスで組み合わせていましたが、今回はそれに比べるとシンプル。マイケルは、「歯切れの良いクラシックなスタイル」を目指したと言います。
「歯切れの良いクラシック」とは、なかなか興味深い理想像です。確かにクラシックってルールや蘊蓄が先行して、時に重厚だったり気難しくなったりしがち。それに対してマイケルが目指す「歯切れの良いクラシック」は、クラシックならではの厳格な洗練のムードは残しつつ、それを反対に崩すことでモダナイズしている印象です。つまりマインドでも、テンション&リリースというワケ。その中でフレアパンツは、「キレのある感じがする」として、スタイル作りのメーンピースとなりました。
マイケルの仕事は、正直簡単ではありません。フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の下で学んだマイケルは、彼女のエフォートレスなムードを盛り込みつつ、一方でエディ・スリマン(Hedi Slimane)が確立した良家の子女的なブルジョワジーも表現するという難題を課せられています。そこに、自分らしさまでプラスしようとしているのです。テンション&リリースは、フィービーとエディのまさに折衷案、そこに今季はクラシックのムードにひと匙のエキセントリックを加えることで、トラッドな洋服への造詣が深い自分らしさを忍ばせているのです。
エルメス
些細な変化に気づける美意識と、
変化をドラマティックに見せる色彩感覚
さぁ、今夏の最後は、「エルメス(HERMES)」。
「トワイライト」テーマにしたコレクションは、ナデージュ・ヴァンへ(Nadege Vanhe)=アーティスティック・ディレクターらしく、ヘルシーでありながら疾走感が強めで、いつもよりミステリアスなムード。安定のスタイルのカラーパレットが、カーキやビリジアン、ミリタリーグリーン、ミッドナイトブルーなどに変わると、途端に大人っぽくミステリアスなムードに転じるから驚きです。
「エルメス」のようにスタイルが毎シーズン激変するわけではないブランドのクリエイションを導くには、普通の人が見過ごしてしまう些細な美しさに気付けて、繊細に表現できて、(些細かもしれないけれど)それを勇気をもって「美しいんです」と発信できる着眼点や勇気が大事だと思っています。日本のデザイナーだと「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」の田中文江さんなんですが、世界レベルだったら断然「エルメス」。特に退任しちゃったけれどメンズを長年手掛けていたヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)だと思ってきました。今シーズンも昼と夜の狭間、影が生まれ、色彩が変化し、物事が昼間見たときとは違っている。なんなら朝焼けや夕暮れという、数時間前とさえ大きく異なっている。そんな当たり前の美しさやドラマに刺激を得て、1つのコレクションを生み出すことができるナデージュの美意識が発揮されています。
夜のアウトドアをイメージしたスポーティーな装いから、ほんのりミリタリーのムードを帯びて、今シーズンは乗馬のみならずモーターサイクルさえ思わせるディテールで強さを滲ませました。「自らの力で夜道を歩き、新たな世界を切り開く強い女性の服を作りたかった」と言います。時折差し込むレモンイエローは、道標となった星や月、もしくは車や電車のライトでしょうか?そんな詩的な世界を思わせるのは、上述の「普通の人が見過ごしてしまう些細な美しさに気付けて、繊細に表現できて、それを勇気をもって『美しいんです』と発信できる」着眼点と勇気の賜です。