ファッション

相澤陽介退任の「ホワイトマウンテニアリング」、パリ復帰の「ビューティフルピープル」それぞれがたどり着いた先【2026-27年秋冬パリ・メンズダイジェストVol.3】

2026-27年秋冬メンズコレクションサーキットの現地取材は藪野淳・欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターが担当しました。1月20日から25日は、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク。メゾンはクリエイティブ・ディレクターの交代ラッシュが一段落した一方で、公式スケジュールに15人もの日本人デザイナーが名を連ねました。24、25日のハイライトをお届けします。

両日に実施した「エルメス(HERMES)」「サカイ(SACAI)」「ダブレット(DOUBLET)」のショーリポートは別途掲載しているので、こちらもぜひご一読を。

「セリーヌ」は継続性の中で自由な着こなしを後押し

藪野:「セリーヌ(CELINE)」は、マイケル・ライダー(Michael Rider)の就任以来初となるメンズ単独のプレゼンテーションを本社で開きました。「(『セリーヌ』は)日中から夜までライフスタイルに溶け込むブランドであるべき」と考える彼は、毎シーズン異なるテーマを打ち出すのではなく、1つの物語が続いていくように継続性に焦点を当てた日常に欠かせないワードローブを提案。ニットやジーンズ、シャツ、スーツなどのテーラリング、トレンチコートから薄底のレザーシューズやシルクスカーフまで、着用者の相棒になるようなアイテムをそろえます。

例えば、シャツはスモール、ミディアム、オーバーサイズという3種の異なるフィット感を用意し、長めのカフスを配したシグネチャーデザインからエポーレットを配したミリタリーライクなものまでをラインアップ。日本製デニムを用いたジーンズも、ボーイフレンドやスキニー、ワイドなキュロットなど幅広いスタイルを打ち出します。また、スカーフはスタイリングを仕上げるアクセサリーとして打ち出すだけでなく、ジャケットの素材としても活用。手仕事による立体的な装飾やペイントを用いた特別なクチュールピースも、ステイプルなレザージャケットやデニムジャケットをベースにして、日常の中に贅沢な遊び心を加えています。

そして会場にハンガーにかけて並べたスタイリングも、それを“正解”とするのではなく、あくまでも”1つのアイデア”として提案。ワードローブの中にすでにあるものや受け継いだものに加えて楽しむことも念頭に置き、自由な着こなしを後押ししています。

パリ復帰の「ビューティフルピープル」が目指す“生活のためのデザイン”

本橋:「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」が、久々にパリ・ファッション・ウイークの公式スケジュールに復帰しました!テーマは「Système D – resourcefulness」。フランス語で“生活の知恵”や“臨機応変にやり抜く力”を意味する言葉だそうです。

熊切秀典デザイナーは、これまでブランドの代名詞として探求してきた「A面とB面(表と裏)」や「上下逆さま」といった構造的なコンセプトから一歩進み、「デザインのためのデザインではなく、生活のためのデザイン」へと明確に舵を切りました。

ランウエイで目を引いたのは、クラシックで洗練されたワードローブの中に隠された実用性。急な雨をしのぐための撥水レザーのコートや、厳しい寒さに耐えうるゴアテックス(GORE-TEX)を忍ばせたアウター群。源間大輔氏ディレクションの「フェニックス(PHENIX)」とのコラボアウターも存在感抜群でした。決してアウトドアウエアのような野暮ったさを感じさせず、ブランドならではの高度なパターンメイキングとカッティングによって、あくまでエレガントな都市生活者のための服として成立させていました。日常のふとした瞬間に役立つ“ギミック”を素材と仕立てで表現するのは、「ビューティフルピープル」の本懐。再びパリの地で、地に足のついたブランドの原点を感じさせながら、新たなフェーズを見せてくれたことは個人的に印象深かったです。

相澤陽介のラストコレクション 「ホワイトマウンテニアリング」の到達点

本橋:今シーズン、パリで大きな節目となったのが設立20周年の「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」です。立ち上げからブランドをけん引してきた相澤陽介デザイナーにとって、これがブランドを手がける最後のコレクションとなりました。テーマに掲げたのは、20世紀の抽象的なデザイン運動に由来する「ポスト デ・ステイル」。

相澤さんは今回、これまでブランドの絶対的なシグネチャーであり、強みでもあった「独自開発のカラフルなテキスタイル」や「複雑な柄合わせ」をあえて封印しました。ランウエイに登場したのは、黒やチャコールグレーといったストイックなワントーン&モノクロームに統一したルックの数々。色彩を極限まで削ぎ落とすことで、アウトドアウエア由来のハイスペックな機能美、立体的で複雑なパターンの構造、そして何より、衣服の下で躍動する身体の動きそのものがくっきりと浮き彫りになっていました。

ブランドの原点を見つめ直すような求道的なクリエイションの果てに、ショーのラスト、相澤さんは缶ビールを片手に、リラックスした笑顔でランウエイに登場。チャーミングで相澤さんらしい幕引きです。会場中がスタンディングオベーションと温かな拍手に包まれ、胸が熱くなるフィナーレでした。

「カラー」は荒波の果てに希望の光を見つける航海の物語

藪野:「カラー(KOLOR)」は、堀内太郎クリエイティブ・ディレクターによる2シーズン目。「テーラリングはブランドのDNAの中でもとても強い要素。そこに新しい物語をレイヤーしたかった」と話すように、コレクションとショーにストーリー性をもたらすことでデビューシーズンよりも堀内さんの“色”が出たように感じました。

今季の着想源は、ロバート・エガース(Robert Eggers)監督のホラー映画「ライトハウス(The Lighthouse)」。「カラー」という船の舵取りを任された自身やAIによって変わる時代の波の中を生きる人々を、「新たな航海の途中」というイメージを重ねました。「映画は光に魅了され惑わされる物語だけど、本来、灯台は正しい道を照らす存在」と話す堀内さんが描いたのは、未来への希望。クリエーターにとって脅威になりうるAIについても、「否定的ではない。怖さもあると同時に興味もある」といいます。

そんなメッセージを込めたショーは、まるで荒波に揉まれてボロボロになったようなアイテムをドッキングしたテーラードスタイルやダークトーンからスタート。テーラリング、プレッピー、スポーツ、ワーク&ミリタリーをミックスしたレイヤード風のスタイルを軸に、徐々に鮮やかな色を差し込み、最後はネオンイエローのダッフルコートやワークウエアのディテールを取り入れたブルーのセットアップで幕を閉じました。

その中で今回特に印象的だったのは、キャッチーに解釈された海にまつわる要素です。その表現は、Tシャツやフーディーに見られた魚群で描いた「K」や灯台のグラフィックから、コートにあしらわれた魚モチーフの襟、救命胴衣風のパファーベストまで。蟹座の自分としては、カニやイカリのモチーフを取り入れたフェアアイルニットベストがツボでした。

「マリアーノ」が描く叙情的な“郊外のエレガンス”

本橋:「マリアーノ(MAGLIANO)」のパリコレデビューショーは、静寂の会場に響き渡る哀愁漂う「口笛」の生演奏という、アコースティックで生々しい演出からスタートしました。デザイナーのルカ・マリアーノが提示したのは、洗練されたきらびやかなパリの街並みとは対極にある、彼自身が愛してやまない“郊外(provincia)のエレガンス”です。

コレクションはどこか懐かしく、そして退廃的なムード。90年代風の肩幅を強調したオーバーサイズのテーラリングや、シェットランドウール、ハリスツイード、毛足の長いモヘアといった、粗野で手触りのある温かな素材がふんだんに使われています。特に印象的だったのは、労働者を思わせる武骨なタクシージャケットや重厚なオーバーコートの上に、繊細なスカーフやオーガンジーが無造作に巻き付いたスタイリングです。まるで、冬の冷たい霧や、吐き出す白い息が衣服にまとわりついているかのようで、非常に詩的。さらに、クリスタルグラスや家の鍵の束がだまし絵のようにプリントされたシャツなど、夜遊びの帰り道を思い起こさせるようなディテールも。荒々しさの中に、叙情的な人間味を感じさせるコレクションでした。

縄文のエネルギーと服が一体化する「ターク」

本橋:「ターク(TAAKK)」のデザイナー、森川拓野さんが今季掲げたテーマは「湧き上がる衝動」です。なんだか、激しそうなテーマですよね(笑)。彼が強く惹かれたという「縄文時代」の造形物が放つ爆発的なエネルギーや、日本人の根底に古くから流れる“作らずにはいられない”というプリミティブ(原始的)な情熱を、現代の服作りに重ね合わせました。

ショーに登場したのは、土器に刻まれた力強い紋様を思わせるような、立体的で複雑な刺繍を全面に施したセットアップや、廃材から作られたという野生的な迫力を持つファーアイテムたち。ですが、それらの土着的なモチーフを、決して野暮ったく見せない「ターク」ならではのテクニックが光っていました。

ブランドのシグネチャーである、生地の組成を徐々に変化させる独自のファブリック開発技術と、洗練されたテーラリング技術によって、モダンな日常着へと昇華していました。ヘアメイクも「奇をてらうのではなく、洋服とモデルが完全に一体化する」ことを目指したそう。

また今季は、ジュエリーブランド「4℃」とコラボレーションしたシルバージュエリーもルックのアクセントとして華を添えており、力強さと繊細さのコントラストが際立つショーでした。

現代社会に静かに抗う「ベッドフォード」のロマン

本橋:山岸慎平デザイナーが手がける「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」は、「Roman」というテーマのもと、非常に詩的で退廃的な美しさが漂うコレクションをプレゼンテーション形式で披露しました。着想源となったのは、何事も便利で効率的に最適化されていく現代社会において、あえて膝下までを覆う長いコートを纏い、街の風景に溶け込みながらも静かに抗う男の姿です。

コレクションを彩るのは、鮮やかな色合いをあえて避けた、どこかメランコリックなカラーパレット。霧のかかった夕焼けのような橙色や、ミッドナイトブルーに近い「黒ではない黒」、そしてクラシックな哀愁を誘うチェック柄が印象的でした。深いVネックからのぞく素肌や、歩くたびに空気をはらんで揺れるシルクやレーヨンといった流れるようなシルエットと緻密なレイヤードは、まさに「夢と現実」の葛藤の中で生きる人々に寄り添うような、優しさを感じ取れます。

「ベッドフォード」らしいセンシュアル(官能的)な色気は健在で、効率化が進みタイパ(タイムパフォーマンス)が重視される時代だからこそ、人の手による仕事の美しさや、無駄の中にあるロマンを信じる。山岸さんが近年のテーマに掲げている「オルタナティブ・エレガンス」、つまり従来の既成概念とは異なるエレガンスのあり方を考えさせられるコレクションでした。ただ、ちょっとショー会場が遠くて、暗かったのだけがもったいなかったですね(笑)。

メンズ始動から100周年を迎えた「ランバン」

藪野:「ランバン(LANVIN)」は、ピーター・コッピング(Peter Copping)がアーティスティック・ディレクターに就任して以来、男女合同ショーでコレクションを発表してきました。今季は、創業者のジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)が自身の世界観の拡大としてメンズライン「ランバン オム(LANVIN HOMME)」をスタートしてから100周年を迎えることから、初めてメンズだけのコレクションをルックブックで公開するとともに展示会を開催。ピーターによる「ランバン」が掲げる“究極のシック”を追求しながら、テクスチャー豊かな素材を生かした充実したラインアップでメンズのイメージをより明確化しました。

ピーターはジャンヌの作品や彼女が活躍した1920年代から得たさまざまな要素を現代に向けて再解釈していますが、なかでも今季は彼女が20年代に訪れたベネチアが大きな着想源となりました。例えば、メゾンのアーカイブとのつながりも深いベネチアの織物工房テッシトゥーラ・ルイージ・ベヴィラクア(TESSITURE LUIGI BEVILACQUA)の生地は、ワークジャケットやジーンズといった日常のワードローブに採用。現地で受け継がれる伝統工芸品ムラーノガラスは、抽象的なプリントとして表現しています。また、スーツには当初から「ランバン オム」を象徴する素材であったグレーのフランネルを使用。レオパードのファーカラーを配したコクーンコートは、20年代のシルエットをほうふつとさせます。そして、イブニングシャツにはクチュールドレスから着想を得た華やかな装飾、ニットにはアールデコにつながるグラフィカルなパターンを施すなど、エレガンスと遊び心を共存させています。

ルックでは踵を踏んで履くレザーのフラットシューズが多用されていましたが、展示会では新作スニーカーも充実。“カーブ”や“DBB1”といった既存モデルのアレンジに加え、トレンド感のある薄底のデザインが目を引きました。

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