ファミリーマートのアパレルブランド「コンビニエンスウェア(CONVENIENCE WEAR)」が快進撃を続けている。2025年度の売上高は約200億円を突破し、26年度には1.5倍の300億円を目指す。
2021年の始動から5年。現在、全国約1万6000店舗に展開し、日本の生活に欠かせない“ファッションの新定番”になりつつある同ブランド。クリエイティブ・ディレクターを務める落合宏理デザイナーに、急成長の舞台裏や26年春夏コレクションの狙い、そして自身のブランド休止を経て見据える未来を聞いた。
数字よりも、1万6000店舗から生まれる会話に価値がある
WWD:売り上げ規模が急速に拡大している。この現状をどう捉えているか。
落合宏理(以下、落合):数字というよりも、「1人のデザイナー」としての視点を大切にしている。北海道から沖縄、離島まで、1万6000店舗に自分たちがこだわり抜いたアイテムが置かれている。そこで人々がファッションを楽しみ、会話のきっかけが生まれる。その新しいファッションのコミュニケーションに計り知れない可能性を感じて、がむしゃらにやってきた。
売り上げに関しても、初期の30億円から10倍の300億円を目指すフェーズに入った。今回の26年春夏コレクションでその目標に挑んでいるが、「売れているから在庫を増やす」といった単純な手法ではなく、「コンビニエンスウェア」らしい地に足の着いたストーリーを丁寧に作っていくことが、目標達成への鍵だと考えている。
WWD:コレクションデザイナーの落合さんが、コンビニという“究極のマスプロダクト”を作る。戸惑いはなかったのでしょうか。
落合:むしろ逆。僕は昔から「ヘインズ(HANES)」の白Tのように、「大量生産だからこそ生み出された美しさ」に憧れがあった。工業製品としての機能を極めたものが、ある瞬間にモードやエッジの効いたものに昇華される。そのプロセスは、パリコレに挑むときの熱量と全く同じ。
ファミリーマートは、24時間、子供からお年寄りまで全員がお客さま。そんな多様な背景を持つ方たちのために作るデザインは、デザイナーとしてこれ以上ないほど充実感がある。まだまだやりたいことは尽きない。
「お客さまのピンチ(緊急需要)は、僕らのチャンス」
WWD:コンビニに置いてある衣料品といえば、かつては「雨が降ったから」「急きょ泊まりになったから」といった“緊急需要”がメインだった。
落合:緊急需要でいいと思っている。「妥協して買う」のではなく、雨が降ってファミリーマートに駆け込んだとき、そこに最高のアイテムがあれば、その買い物はポジティブな体験に変わる。発想を変えれば、お客さまのピンチはチャンスになる。
WWD:特にソックスは、累計販売数3000万足(21年3月〜25年10月)を突破した大ヒットアイテムだ。
落合:最近はインバウンド(訪日外国人)の需要も顕著だ。手軽さと手頃な価格から、買い物カゴ一杯にソックスを買う海外の方を見かける。元々インバウンド需要も視野に入れていたため、非常に手応えを感じている。
WWD:最新の26年春夏コレクションについて聞きたい。
落合:注目は、スポーツシーンや酷暑でも活躍する機能性を高めたアウターTシャツ(全2色、各1498円)と、着心地の良い綿麻シャツ(全2色、各2990円)。コンビニの棚に、細部までこだわり抜いたくるみボタンの服が並んでいる。この違和感こそが、ファッションの楽しさだと思う。
また、シチズン時計と共同開発した時計は1998円という価格にもこだわった。スマホを持ち歩けない受験生や子供たちが手にする「ファーストウォッチ(人生初の時計)」になるかもしれない。そうした「体験」をデザインすることも、僕らの使命だ。
WWD:売り場もどんどんアップデートされている。
落合:3月末から商品棚を従来の3台から3.5台分へと拡大している。吸水ショーツやノンワイヤーブラといった、ジェンダーやライフスタイルに踏み込んだアイテムも拡充した。こういったアイテムは単なる消耗品ではなく、家族やカップルで会話が生まれるような「文化」を作りたいという思いから開発している。
WWD:今「コンビニエンスウェア」に注力することに大きな意味を感じているのでは?
落合:今、日本のファッション産業は生産背景も含め厳しい状況にある。しかし、ファッションデザイナーの視点はファッション以外の領域でも必ず生きるはず。ファミリーマートという巨大なインフラの中で僕がもがく姿が、次世代のデザイナーにとっての新しい選択肢になればうれしい。
そして、「ファセッタズム(FACETASM)」の休止は「退いている」わけではない。このファミリーマートで得ている知見やファッションの広め方、可能性は、必ず自分自身のクリエイティブに帰ってくる。「コンビニエンスウェア」での挑戦は、僕にとっての確かな「進歩」だ。
WWD:ファミリーマートのクリエイティブ・ディレクターにNIGO®氏が就いたことも話題だ。
落合:僕の口からまだ多くは言えないけれど、ファミリーマートにNIGO®さんがジョインしてくれたことは純粋にうれしい。今後の展開を楽しみにしていてほしい。
WWD:では、今後の展望は?
落合:5年経ったが、僕にとってはまだまだ生まれたてのブランド。コンビニには基本的に接客がない。だからこそ、手に取った瞬間に「これは絶対に大丈夫だ」と信頼してもらえるプロダクトを追求し続けたい。また、今後は海外展開のリクエストにも応えていきたいと考えている。