PROFILE: 篠原諒太/経済産業省製造産業局生活製品課課長補佐、山下大貴/経済産業省製造産業局生活製品課課長補佐

2年間の進捗。枠組みを敷き、コンソーシアムが動き出した
WWD:2024年に「繊維製品資源循環ロードマップ」を策定してから2年が経った。経産省として、この2年間の手応えをどう評価しているか。
篠原諒太 経済産業省 製造産業局 生活製品課 課長補佐(以下、篠原):ロードマップを策定し、ガイドラインも整備して、国としての全体的な枠組みを敷けたことは、この2年間の成果の一つだと思っている。繊維to繊維リサイクル処理量・廃棄衣料品削減・環境配慮設計GL普及・情報開示率という4つのKPIについてもフォローアップを進めており、取り組みを前進させられているという手応えはある。
WWD:繊維to繊維リサイクルに焦点を絞ると、現時点での最大の進捗は何か。
篠原:官民連携の「繊維to繊維リサイクル技術開発コンソーシアム(CFT2)」が立ち上がったことだ。国として必要だと判断した技術に対して、大手企業も含めた体制を組み、一貫したロードマップに取り組む姿勢が打ち出された。これは大きな進捗といえる。ケミカル・綿・ウールなど、それぞれの専門企業が初めて一つのコンソーシアムで技術を持ち寄った。通常の企業活動と日本の企業構造においては、成し得なかったこと。CFT2に加えて、各個別企業でも別の技術開発が進む動きを耳にしており、全体の動きとして心強く感じている。
WWD:進捗を妨げる障壁があるとしたら、それはどこか?

篠原:それはいずれの工程にもある。リサイクルの技術的課題と経済性のいずれも重要かつ課題があり、アパレルがそこにどう価値を見いだしてゆくか、そして消費者の意識がどう変わってゆくかについても極めて重要。サステナブルファッションの文脈は我々経産省だけではなしえないので、環境省、消費者とも連携しながら取り組んでゆきたい。
WWD:技術的な障壁はどこにあるか。
山下大貴 経済産業省 製造産業局 生活製品課 課長補佐(以下、山下):技術的課題は「繊維製品が混紡品であること」に尽きる。混紡品といってもポリエステルとナイロン、綿とウールなどさまざまで、かつ化学繊維と天然繊維とではリサイクルの手法が根本的に異なる。もっと言えば織りと編みの構造によっても複雑さは異なり、縦糸と横糸で素材が分かれている場合もあれば、一本の糸の中に綿とウールが混ざっているものもある。合わさったものをどう分解するかは極めて難しい。
WWD:日本のものづくりはこだわればこだわるほど複雑になる傾向があり、それが価値でもある。
山下:より快適な服を作ろうとするとポリエステルが入り、複雑になっていく。その複雑さを解きほぐす技術が、今の繊維リサイクルには求められている。これまで数百年の繊維製造の歴史の中でより良いもの、より快適なものを求めて進化したこと海外からも評価されてきた繊維だから、リサイクルの最適解は、極めて難しい問い。しかし逆に言えば、それができれば世界の競争力になり得る。
WWD:リサイクル繊維がバージン材より高コストになるという経済性の課題に対して、政策的にどのようなアプローチを取っているか。
篠原:観点は二つある。一つは生産コストを下げること、もう一つはコストは下がりきらないとしても、それを許容できる需要を作ることで、この両面を追求している。
需要創出については具体的には、省庁の制服といった官公需からリサイクル繊維の需要を起こして民間市場へ波及させていくアプローチを考えている。国や自治体が環境配慮製品を優先的に調達することを定めた「グリーン購入法」の調達基準を改定する。公共調達の基準にカーボンフットプリントの算定・開示と回収・再使用システムの構築を新たに加える形で、自分たちが必要とするものを、制度の中に組み込んでいく。
WWD:積極的に取り組んだ企業が得られるインセンティブ設計は考えられるか。
山下:資源有効利用促進法の環境配慮設計「認定制度」も一つの方向性として考えている。認定を受けた製品・企業には一定のインセンティブが与えられる仕組みであり、一般衣料品への適用を経産省の資源循環小委員会で検討している。
欧州規制は「入り口」。サーキュラーモデルへの転換が本質
WWD:欧州ESPRの繊維向け規制が本格化しつつある今、規制対応を超えて、日本固有の強みを競争力につなげる可能性をどう見るか。

山下:規制対応は本質ではなく、繊維産業のリニアモデルをサーキュラーモデルに転換するためのキーファクターとして捉えている。
資源の少ない日本において、リニアモデルは他国の材料・資源に依存する構造。サーキュラーモデルへの転換は、我が国の産業競争力そのものになり得る。入り口は欧州規制かもしれないけれど、日本でマスにすることで新たな価値にしてゆく。
WWD:たとえばインドで取れたコットンが日本でリサイクルされて糸として海外に出ていく、そういった可能性もこの先にあるというわけだ。規制対応を超えた動きとして、国際標準化の面ではどのような取り組みがあるか。
山下:欧州標準化委員会において、繊維の資源循環に関する標準が作られている中、ISOで今後議論される繊維の国際規格においても、日本の環境配慮設計の仕組みが取り入れられるよう、準備を進めている。JIS化と連動させることで、日本発の繊維資源循環モデルをグローバルスタンダードにしていく動きだ。規制対応の文脈とは異なる時間軸で動いている。
バケツリレーからの脱却。情報が循環を変える
WWD:サーキュラーエコノミー実現に向けた産官学連携のパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ(CPs)」は、どのような背景で生まれたのか。
山下:経済産業省は2020年に資源循環経済ビジョンを策定し、2023年には「成長志向型の資源自立経済戦略」を策定した。経済成長の新たなエンジンとして資源循環を位置づけ、産業政策・脱炭素・経済安全保障の文脈も含めて加速化を図っていくということだ。
こうした産業構造の根本的な転換を実現するには、政府・製造側・販売側・静脈側を含めたライフサイクル全体での連携、つまり協調領域の拡充が重要になる。そこで2023年に、野心的・先駆的に取り組む国・企業・業界団体・自治体・大学などを構成員とする産官学パートナーシップ「サーキュラーパートナーズ(CPs)」を立ち上げた。資源循環に関わる情報流通プラットフォームの先行ユースケースとしては、蓄電池のトレーサビリティ管理システムと規制化学物質情報および資源循環情報の流通システムであるCMP(Chemical and Circular Management Platform )が進んでおり、蓄電池についてはすでに一般社団法人を設立して運用し、CMPに関しては2026年度本格稼働ときいている。そして次の分野として、繊維が優先ユースケースとして位置づけられた。「資源循環ロードマップ」が完成していたこと、グローバルな規制と関係する産業であること、サプライチェーンの複雑さ、といった側面を総合した結果だと理解している。
WWD:そこから生まれた「サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォーム(CE情報流通PF)」は東レが主体となり事務局を務め、繊維産業のサプライチェーン全体で素材・製品情報を共有するデータ基盤の構想だ。これは、産業に何をもたらすのか。
山下:今は川上から川下へ、情報がバケツリレーで伝わっている。途中でこぼれ、消える。サーキュラーエコノミーの実現のためにはそれを変える必要がある。素材由来や製品履歴の情報を川上から川下、さらに回収・リサイクルの静脈企業まで、シームレスに流通させる仕組みが必要だ。「CE情報流通PF」はそこに取り組む。
ポイントは「協調領域」と「競争領域」の2つの領域が存在すること。まずは「協調領域」つまり業界全体で共有するインフラとして整備する。その基盤の上で情報をどう活用し、どう価値を創造するかは各企業の「競争領域」となる。この基盤ができることで、繊維製品の環境配慮、消費者への情報開示・価値の伝達、これまでできていなかった製造・販売側である動脈と回収・リサイクル側の静脈の連携、これらの構造を根幹から変える可能性があると思っている。
WWD:企業がそこに参加しメリットを享受するには、トレーサビリティや透明性への取り組みが欠かせない。2030年には「国内の主要なアパレル企業における情報開示率を100%にする」KPIを掲げているがまだそこには到底及ばない。これをどう高めるのか。義務化によって動かすのか、それとも別のアプローチか。
山下:義務化が目的ではない。プラットフォームが整い、使うことが当たり前になれば、開示しないことがデメリットになる可能性がある。そういう構造が整った時に、情報の有無ではなく情報の中身が問われる時代になり、数字は自然に動いていくと思っている。
このプラットフォームの基盤が整うことで、川上・川中メーカーが持つ環境配慮の情報が、川下・消費者まで届く経路が初めてできる。これまで見えにくかった自社の強みが可視化される。そこに期待をしている。
行動に移し・制度に落とし込んでいくタイミング
WWD:「環境配慮情報開示ガイドライン」ができた2年前は、アパレルへの浸透が進まないことへの危機感があった。
篠原:危機感は変わらず持ち続けている。欧州規制の期日も見えてきている中、その点は変わらない。ただ、危機感の質が変わった。2年前はロードマップもない状態だったが今は、CFT2の構想が進み、「CE情報流通PF」の議論が進み、ある程度やるべきことが見えてきた。行動に移し・制度に落とし込んでいくタイミングに変わってきているからこその、切実な危機感が残っている。
繊維産業全体について言えば、高度成長期からの変遷を経て、今ターニングポイントになりつつあると思う。アパレル企業の多くは依然、サステナビリティはまだCSRの一環であり、ビジネスに落とし込めているかどうかにはまだ差がある。繊維to繊維が実現しても、それが市場に出て継続的に循環して価値を出していくのは、政府が言えることではない。アパレルが示す、この服のかっこよさに紐づく世界、そこが出てきて回っていく世界だから、ぜひ踏み込んでいただきたい。ありきたりの表現にはなるがまさにピンチをチャンスに、そういった強みをしっかり活かして業界と連携しながら取り組んでいきたいと強く思っている。