2025-26年秋冬シーズンのメンズ・サーキットがいよいよスタートしました。まずはイタリア・フィレンツェでメンズ見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」が、1月14〜17日に開催中です。職人の街であるフィレンツェに、世界中のすご腕ファクトリーや職人たち、そしてイタリアン・クラシコの職人たちが集い、「ピッティ」に行けばメンズドレスの大きな潮流が分かるほどの祭典でした。しかしここ数年は、ドレス系の主要ブランドがミラノやパリでの展示会に集中するため「ピッティ」を相次いで離脱し、規模は縮小傾向にあります。とはいえ、1年前の総来場者数は約2万人でメンズの合同展としては最大規模であることは変わらず、「ピッティ」は時代の変化に合わせてさまざまな取り組みを行っています。
第107回を迎えた今シーズンの目玉の一つが、ランニングに特化した“ニーズ アップ ランニング スペース(Knees Up Running Space)”でしょう。「ニーズ アップ」と英ロンドン発の多機能スペースで、ファッションやランニング、イベントなどを通じて人々をつなぐプラットフォームです。イタリアン・クラシコが主軸だった「ピッティ」がランニングを推していくなんて、数年前では想像もつきませんでした。変化しているとはいえ、「ピッティ」でググると今も個性的なスーツを纏う、恰幅のいい紳士が多くヒットするでしょうし、おそらく世間的なイメージもその紳士たちという印象が強いはずです。つまり、全然走らなさそうなイメージの人たちです。
まずはランイベントに参加
百聞は一見にしかずということで、この“ニーズ アップ ランニング スペース”が企画したランニングイベントに参加してみることにしました。集合は朝7時15分で、場所はシニョーリア広場。実は、個人的に「ピッティ」出張中には必ずシニョーリア広場を中心にランニングしていたので、ロンドンからの“ニーズ アップ”御一行を出迎えるぐらいの余裕で当日は臨みました。(そうそう、フィレンツェは街がコンパクトだから、ランニングにはいいよね。「ニーズ アップ」なかなか分かってる)ぐらいの気持ちで。日が昇る前の早朝から集まったメンバーは約30人弱で、アジア圏からは日本人3人のみの参加です。
「ピッティ」でわざわざ参加するぐらいですからランナーたちのスタイルはそれぞれ個性的でかっこよく、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」という王道メーカーのウエアも見かけたものの、ほとんどが日常着の延長線のようにカジュアルな着こなしでした。シューズは「ニューバランス(NEW BALANCE)」「オン(ON)」「ブルックス(BROOKS)」「ホカ(HOKA)」など。このスタイリッシュランナーたちはある程度予想できたので、自分は「オン」と「ロエベ(LOEWE)」のコラボアノラックで挑みます。ややファッションすぎて浮いてしまいましたが、フィレンツェでのランニングにおいてはおそらく先輩です。気にしません。
いよいよスタートすると、出だしは明らかにスローランと聞いていたペースではありません。キロ5分台で、フルマラソンでいうとサブフォー(4時間切り)のペースです。早朝なので気温は低かったし、自分たちが主催したイベントに30人以上も集まってテンションが上がっているのでしょうか。うんうん、スタートで飛ばしたくなる気持ちは分かるよ「ニーズ アップ」と、微笑みながら追走します。しかし、そのペースが一向に落ちません。むしろ、速度を増していきます。「あれ、全然スローランじゃないですね」と日本人同士で笑っていたのも束の間、日本人グループから微笑みは徐々に消え、無言になっていきます。後輩だったはずのスタイリッシュランナーたちは談笑を続けています。観光名所であるミケランジェロ広場への心臓破りの坂で、いよいよ自分の膝が上がらなくなるニーズダウン状態でピンチを迎えますが、「オン」と「ロエベ」の高価なウエア着てるランナーが離脱できないだろという謎の意地で何とか集団に食らい付き、絶景の広場まで登り切りました。苦しみの先にこそ、より絶景が心に染み渡る演出か。辛かったけど、ありがとう「ニーズ アッ」……と感謝する暇もなく、再びサブフォーペースでゴールへと向かいました。
並ぶアイテムは新鮮だったが
その後は「ピッティ」会場内の“ニーズ アップ ランニング スペース”で展示ブースを披露します。新進ブランドのランニングウエアやギア、アクセサリーを「ニーズ アップ」がキュレーションし、デザインやスタイルの側面から時代の変化を捉えます。8ブランドのアイテムを展示する中で、個人的に気になったのは「UNNA」のアパレルと、「ノーマル(NNORMAL)」のシューズでした。普段着でも違和感のないデザイン性の高さと、ロードランやトレイルランに適した機能を兼備し、立ち止まるゲストも複数いました。
集客は多くなかったものの、スーツ姿の来場者がアクティブなランニングアイテムを興味深く眺める姿は新鮮でしたし、アイテムの商談というよりも、ライフスタイルの提案という点では「ピッティ」に新風を吹かせる試みだと確信しました。ただ、「ピッティ」のゲストの多くはファッションアイテムを目的に来場しているため、「ニーズ アップ」が提唱するようなウェルネスやカルチャー、コミュニティー創出の価値を伝えるためには、ある程度の継続して提案していく必要性も感じました。変化を示す大胆なアクションと共に、継続性が今の「ピッティ」や世界の合同展には必要でしょう。歯を食いしばって坂道を上り切った先には、きっとミケランジェロ広場のような絶景が広がっているはずです。