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“日本一急成長したティックトッカー”スタン・フカセ 「マーク・ジェイコブス」も注目する23歳

 “日本で最もティックトック(TikTok)のフォロワーが急増したインフルエンサー”として「ジャパン・タイムス(The Japan Times)」が報じた人物がスタン・フカセ(Stan Fukase)だ。「マーク・ジェイコブス(MARC JACOBS)」のソーシャルメディアキャンペーンに起用されるなどファッション業界でも注目を集めており、現在はユーチューブ(YouTube)を中心に活動し、チャンネル登録者数は50万を越える。

 フカセは日本が拠点ながら、英語での配信がメインのため、アメリカを中心とした海外での知名度の方が高い。特にZ世代には人気で、昨年は自身のファッションブランドも始動させた。幅広く活動する次世代のインフルエンサーに、ファッションのこだわりやキャリア、日本のLGBTQ+の現状について聞いた。

WWD:インフルエンサーになったきっかけは?

スタン・フカセ(以下、フカセ):計画していたわけではなく、たまたまでした。2020年に新型コロナウイルスのパンデミックに入ってすぐの頃に、暇だったので特に理由もなくティックトックを始めました。最初はみんなと同じように、ただ流行っているダンスなどを投稿して自由にやっていたら、「ジャパン・タイムス」に“日本で最もティックトックのフォロワーが急増したインフルエンサー”と報じられて、自分でもびっくり(笑)。それから少しづつドラァグについてや、海外と日本の生活を比較するティックトックなど、自分を表現するコンテンツを増やしました。

 その後、今のメインのプラットフォームでもあるユーチューブを始めました。現在はインスタグラム(instagram)も積極的に使っていて、ファッションも発信しています。最近では「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」の小泉智貴さんに2022-23年秋冬のショーに呼んでもらって、その時のスナップ写真が「WWDJAPAN」に載っているんですよ(笑)。ほかには、「マーク・ジェイコブス」のソーシャルメディアキャンペーンにも参加するなど、仕事の幅も広がっています。

WWD:英語で配信しているのはなぜ?

フカセ:ティックトックでは、当初は日本語で配信していました。でも自分がゲイでハーフであることから、「おかま」「外人」など差別的用語を使用した誹謗中傷がひどかったので、現在は英語だけで配信しています。日本語は母親と一緒に出演するときに使いますが、それでもタイトルや字幕は英語です。英語と日本語以外では、タガログ語とセブアノ語が話せて、中国語とスペイン語も勉強しました。

WWD:フォロワーや視聴者はどの国が多い?

フカセ:アメリカが一番多いです。そこにフィリピン、ブラジル、イギリスとオーストラリアが続く感じですね。日本は10番目ぐらいであまり多くはないです。仕事の案件などもアメリカが中心です。アメリカ・ロサンゼルスの事務所に所属しているのもそれが理由で、所属インフルエンサーで一番遠くにいると言われました(笑)

WWD:日本では街中で気付かれない?

フカセ:渋谷や原宿を歩けば声を掛けられますが、それ以外のエリアでは1日1回あるかな?くらい。土曜日の夜に新宿2丁目に飲みに行けば、10人以上に声を掛けられます。でも“ストロングゼロ”を持って酔っているときに視聴者に会うのはちょっと恥ずかしいですね(笑)。でもやっぱり、海外の方が気付かれることは多いです。旅行先のギリシャ、イタリアやオーストリアなどでも声を掛けられた時はびっくりしました。

止まらない“クロップトップ愛”とドラァグを通して辿り着いたジェンダーフリーなファッション

WWD:ファッションのインスピレーションやよく行くお店は?

フカセ:参考にしている人はエマ・チェンバレン(Emma Chamberlain)やベラ・ハディド(Bella Hadid)かな。ブランドなら「ヘブン バイ マーク ジェイコブス(HEAVEN BY MARC JACOBS)」や「ゴルフ ワン(GOLF WANG)」、オンラインストア「ユニフ(UNIF)」。

 あとは、親友と原宿の古着を見ることが定番で、安くて大きなキンジ(KINJI)で掘り出し物を探すこともあるし、1980~90年代のビンテージが中心のピンナップ(PIN-NAP)など、アイテムが厳選された店も好きです。

WWD:スタンさんといえばクロップトップのイメージがある

フカセ:冬でもクロップトップを着るくらい好き。

 12月に表参道のローソンに入ったら、店員さんが「いつもクロップトップ着ているお兄さんですよね?表参道歩いているのを見ています。寒くないんですか?」って言われました(笑)

 クロップトップが好きな理由の一つは、ジェンダーの規範を壊しているから。男性が着ることを“普通”とされてこなかったので。僕が着始めたのは、大学の友だちが黄色いクロップトップをプレゼントしてくれたのがきっかけです。すごく気に入って、もらってから1週間、毎日着ていました。気に入りすぎて、メルカリでミシンを買って、自分の持ってるTシャツを全部クロップトップにしちゃったくらい。これは裏ワザですが、キッズ用のトップスをクロップトップとして着ることもできますよ(笑)。

WWD:東京のファッションシーンについてどう思う?

フカセ:日本は海外と比べて“身だしなみ”のレベルが高いと思います。欧米ではオシャレな人と気にしていない人の差がすごくあるように感じるけど、日本ではより多くの人が身なりを気にしていると思います。「ユニクロ(UNIQLO)」のように低価格だけど素材や作りがいいベーシックアイテムが豊富だからかな。でも、だからこそ、“身だしなみ”のためではなくて、もっと個性のある楽しいファッションもしてほしい。

WWD:昨年、自身のブランド「バイ エクストラ(byEXTRA)」を始動した。どういうブランド?

フカセ:テーマは“clothes have no gender(服に性別はない)”。最初は、全てクロップトップのコレクションを発表し、今年に入ってアクセサリーのコレクションも制作しました。オンラインストアでも「メンズ」「ウィメンズ」などのカテゴリーはありません。

 ブランドを始めるにあたって、デザインを0から考えるのはもちろん、工場、配送センターなど全て自分で手配をし、ウエブサイトは兄に手伝ってもらいました。現在は、事務所が物流をサポートしてくれていますが、クリエイティブは自分で全て担っています。

 小さい頃から、服をデザインすることが夢でした。高校生の時にはTシャツなどのプリントオンデマンドサービスを使っただけの「ユニセックス(UNISX)」というブランドを作っていたくらいです。その時のブランド名も自分のジェンダー観を表していると思います。

WWD:「バイ スタン(bySTAN)」ではなくて「バイ エクストラ」の理由は?

フカセ:“エクストラ(Xtra)”は僕がドラァグをする際のステージネームです。そもそもドラァグをしようと思った理由は、“ウィメンズ”とされている服を楽しむ口実でした。男性が着ていると変な目で見られてしまうかもという不安があり、自分ではない女性のペルソナで着てみようと思ったんです。

 現在はドラァグをしなくても、着たい服をジェンダー関係なく着られていますが、それもエクストラのおかげだと感じています。このジェンダーフリーなブランドも彼女がいなかったら作ることはできなかったので、「バイ エクストラ」と命名しました。

LGBTQ+コミュニティーの1人として東京から発信を続ける

WWD:LGBTQ+に関するコンテンツも多く発信している。

フカセ:日本から英語で発信しているインフルエンサーは観光情報や伝統文化をメインにしていることが多いですが、僕はあくまで自分の日常を見せたいと思っています。なので、ゲイである自分の日常として、LGBTQ+当事者である僕から見た日本や東京を発信しています。

 LGBTQ+についての情報、日本に関する情報それぞれを英語で発信するインフルエンサーはいても、日本のLGBTQ+を発信するインフルエンサーは少ない。だからこそ、視聴者の興味も集まっているんだと思います。

WWD:日本のLGBTQ+の状況はどう思うか?

フカセ:視点によって捉え方が変わります。文化的にLGBTQ+の人々が生きやすいとは言えませんが、海外に比べて暴力的な犯罪などは少ない。LGBTQ+への暴力が少ない訳ではなく、全体的に少ない、というだけですが、犯罪が少ないことはそれ自体が利点です。

 とはいえ、僕もクロップトップを着て東京の電車に載った際、年配の男性にいきなりピアスを引っ張られ、顔を引っ掻かれて、「おかま」と叫ばれた経験があります。久しぶりに泣きましたね。でも、世界にはもっと頻繁に、もっと深刻な被害に合っている人がいるということも忘れないようにしています。目立たない格好をすれば安全なのかもしれません。でも、ありのままの自分でいることが、一種のプロテストなのだと気付きました。

 新宿2丁目のように、コミュニティが集まれる場所があるのもいいですよね。「世界で最も密集しているLGBTQ+エリア」だと聞いたこともありますよ。多くの人がLGBTQ+にフレンドリーであれば、密集したLGBTQ+エリアはそもそも必要ありません。実際に、欧米ではこういうエリアが少なくなってきているんです。でも、小さいけど賑わっている新宿2丁目はコミュニティ感が強くて素敵だなとも思います。

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