ファッション
連載 YOUTH

バイト感覚で始めたモデル 現役大学生の源大がトップメゾンのショーを歩くまで Youth in focus Vol.9

 U30の若者たちにフォーカスした連載「ユース イン フォーカス(Youth in focus)」9回目はコロナ禍でモデルデビューし、瞬く間に国内外のショーでスポットライトを浴びる存在になった、22歳の源大にフォーカスする。

 2021年に彗星のごとく現れたメンズモデルが、現役大学生の源大だ。21年9月にランウエイショーに初登場すると、22年からは国内でめきめきと頭角を現し、6月にはミラノの「フェンディ(FENDI)」23年春夏メンズ・コレクションで海外デビュー。その後も「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」「ポール・スミス(PAUL SMITH)」「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などに起用され、23年春夏シーズンは国内外で15ブランドのショーを歩くという華々しい道を進み始めている。しかし「期待しないことが、自分には合ってるんです」という冷静な22歳が見据えるのは、意外な未来だった。

 源大はもともと、大学で植物などについて学びながら飲食店でアルバイトをする、ファッションが好きな普通の学生だった。「背が高いので、買い物に行った店でショップスタッフにモデルを勧められたこともありました。ただ当時の僕にとってはあまりにも遠い世界で、本気でやろうなんて考えたこともなかった」。しかし、コロナの影響でバイト先の店が休業になったことで、モデルの仕事を始めてみようと決意する。「飲食店が休業になっていなければきっとそのまま続けていたし、一般企業への就職活動もしていたと思います。自分がプロのモデルとして稼いでいる姿なんて想像もできず、その頃は新しいアルバイトの感覚でしたね」。

 モデルについて右も左も分からないままキャリアをスタートさせたものの、早速業界の洗礼を受けることになる。オーディションではなかなか採用されず、仕事の依頼は月に1本あるかないか。ブランド関係者が「当時から雰囲気は魅力的だったが、歩けないのが印象に残ってしまって」と言うほど、課題は明確だった。そして、仕事をつかみ取るために日々努力を続けた。「メンズのモデルは、歩き方を自己流で磨いていく人が多いんです。僕も、夜に近所の駐車場で音楽をかけながら歩き、それを動画に撮って研究しながら、自分だけの歩き方を見つける練習をしていました」。

転ばないことだけを考えた初舞台

 転機は、2021年9月の「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKE OKAZAKI)」のショーだった。オーディションを勝ち抜き、ランウエイショーデビューが決まった。しかし、ショー未経験の新人モデルにとって、「リュウノスケオカザキ」の奇想天外な巨大ドレスを着て歩くのは簡単ではなかった。「象徴的なドレスを着せてもらえるという緊張感と、シューズのヒールが10cmぐらいあったので、リハーサルで足をくじいてしまったんです。本番では転ばないように意識するので精一杯でした」。それでも、初めてのショーを終えると、今まで経験したことがない高揚感が心に刻まれていた。「たった10分前後のショーのために、たくさんのプロの人たちが一から準備して作り上げていく過程や、終わった時の達成感が心地よかった。ショーの楽しさに目覚めましたね」。

 2022年に入ると仕事量も増え始め、ショーへの出演を繰り返すことで課題だったウオーキングも徐々に自信をつけていった。「ショーモデルのお仕事をもらえるようになったのはうれしいです。でも、自分の歩き方を“見られるようになった”という程度で、まだまだ満点ではない。満足してしまうと、そこで終わってしまうので」。飲食店でのアルバイト時代は想像もしていなかったプロモデルとして自覚と野心が自然と芽生え、海外のショーで「自分が本当にプロとして向いているのか試したい」と、6月にミラノとパリへの渡航を決めた。

海外デビューはまさかのブランド

 モデルデビューして間もない新人が、人も環境も全く異なる海外のオーディションに初めて挑む緊張感は相当なはず。しかし源大は、自分らしいメンタルコントロールでその重圧を乗り切ったという。「受かったらラッキーぐらいな感覚でした。あまり期待しないことが、自分には合っているんです。前のめりになりすぎると、落ちたときに反動も大きい。1日に何本もキャスティングに行くので、落ち込んでいる暇なんてないから」。そんな自然体な姿勢が功を奏したのか、ミラノでいきなり「フェンディ」のショーを歩くことが決まった。本人にとっても予想外だった。

 常に冷静で、国内では徐々に実績を積んでいた源大も、「フェンディ」ほど規模が大きいブランドの現場は、これまでとは比にならない緊張感。「会場も演出も観客の数も、何もかもスケールが大きかった。鳥肌は立つし、足はブルブルするし、大舞台を楽しもうなんて余裕はゼロでした」。さらに、「リュウノスケオカザキ」のショーと同じく「靴がブカブカで、こけないように必死。ここで転倒したら、海外のショーにはもう呼んでもらえない。そんな緊張感からか、映像を見たらロボットみたいな歩き方をしていましたね」と、笑いながら振り返る。それでも「センターカメラの前に立ち、自分に注目が集まる瞬間は最高でした」。

 ミラノではその後「ジェイ ダブリュー アンダーソン」に出演。パリメンズでは「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」「クレイグ グリーン(CRAIG GREEN)」「ポール・スミス」などを歩き、7月には「サンローラン」のショーのためにパリからモロッコの砂漠へ飛んだ。9月のウィメンズのパリでも、自身が好きな「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のランウエイを勝ち取り、直後にロンドンで「ラフ・シモンズ」に出演するなど各都市を巡り、躍動のシーズンを終えた。

 このままさらなる高みを目指したい――そんな未来を描いているのかと想像していたら、源大はやはり冷静だった。「海外では新人モデルが一気にブレイクすることは珍しくない。その分、入れ替わりが激しいし、22歳はモデルとして若くはありません。次は、今シーズンの出演本数を超えるのは難しいと思っています」。その控えめな姿勢は決して弱気ではなく、情熱が少ないわけでもない。常に自然体でいることが、自分自身がモデルを楽しむ秘訣だということを知っているからだ。「海外では、有名ブランドのオーディションに自分がいるという状況だけですごく楽しかった。コレクションシーズンが終わってみると、次は今回出られなかったショーに出たいという目標が自然と沸いていました。モデルを続けられる限りは、今の仕事を精一杯楽しみたいんです」。

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