ファッション
連載 小島健輔リポート

ラグジュアリービジネスの秘訣はインフレスパイラル【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ラグジュアリーブランドが2021年12月期決算を発表した。コロナどこ吹く風で好業績を上げるLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、ケリング、エルメスの3社。なぜ強いのか。決算書を細かく分析すると見えてくるものがある。

 ラグジュアリー3社(LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、ケリング、エルメス)の2021年12月期決算が出そろったが、コロナ禍が長引いて業績が低迷するわが国ファッション業界の苦境を尻目に、各社ともコロナ前を大きく上回る増収増益でブランド力を見せつけた。この極端な明暗はいったい何に起因するのだろうか。3社の決算をさかのぼって探ってみた。

営業利益2兆2330億円を稼ぐラグジュアリー帝国LVMH

 LVMHは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」「フェンディ(FENDI)」「セリーヌ(CELINE)」などキラ星のようなラグジュアリーブランドを多数擁するファッション&レザーグッズ部門、「ティファニー(TIFFANY & CO.)」「ブルガリ(BVLGARI)」「ショーメ(CHAUMET)」「ウブロ(HUBLOT)」などを擁するジュエリー&ウォッチ部門、「モエ・エ・シャンドン(MOET ET CHANDON)」「ドン ペリニオン(DOM PERIGNON)」「ヘネシー(HENNESSY)」「シャトーディケム(CHATEAU D'YQUEM)」などを擁するワイン&スピリッツ部門、「ディオール(DIOR)」「ゲラン(GUERLAIN)」など多くのブランドを展開するパヒューム&コスメティクス部門、化粧品小売りの「セフォラ(SEPHORA )」や免税店の「DFS」、ハイファッションデパートに変貌した「ル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)」などを展開するセレクティブリテイリング部門から成る世界最大最強のラグジュアリー帝国だ。

 そのLVMHの21年12月期決算は、売り上げが前期から43.8%も伸びて642億1500万ユーロ(8兆3610億円)とコロナ前19年も19.6%上回り、営業利益は171億5100万ユーロ(2兆2330億円)と前期の2倍を超え19年からも1.5倍になった。営業利益が2兆円を大きく超えたのみならず、営業利益率は26.7%とコロナ前19年の21.4%を大きく凌駕し、11年の22.2%も超えて同社の最高益率を更新した。売り上げ27兆2145億円(21年3月期)のトヨタ自動車でさえ営業利益は2兆1977億円とLVMHには届かないから、とんでもない儲けようだ。

 最も伸びたのが20年末に158億ドルで買収した「ティファニー」の売り上げが押し上げたウォッチ&ジュエリー部門で、89億6400万ユーロと前期から2.67倍、19年からも2.03倍に拡大。営業利益は前期の5.56倍、19年からも2.28倍に急増し、営業利益率は18.7%と19年の16.7%も超えた。

 全社売り上げの半分近くを占めるファッション&レザーグッズ部門は308億9600万ユーロと前期から45.7%、19年からも38.9%拡大し、営業利益は前期の1.79倍、19年からも1.75倍に伸び、営業利益率は41.6%!(粗利益率ではありません)と前期の33.9%から7.7ポイントも高まって最高益率を更新している。そんな大儲けの決算発表から3週間も経たないうちに、製造コストや物流コストの上昇を理由に大幅な値上げに踏み切って顧客の焦燥感をあおるあたりに高収益ビジネスの秘訣がありそうだ。

ケリングの営業利益率はLVMHも凌ぐ28.4%

 ケリング(KERING)は「グッチ(GUCCI)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を擁してLVMHと競い合うラグジュアリーグループだ。そのケリング の21年12月期決算は、売り上げが前期から34.7%伸びて176億4520万ユーロ(2兆2974億円)とコロナ前19年を11.1%上回り、営業利益は50億1720万ユーロ(6532億円)と前期の1.6倍に回復して19年からも5%伸びたが、営業利益率は28.4%と19年の30.1%には届かなかった。

 売り上げや営業利益の伸びがLVMHに見劣りするのは、LVMHの「ティファニー」買収のようなビッグイベントを欠いたことに加え、売り上げの55.1%、営業利益の74.0%を占める基幹ブランドの「グッチ」の売り上げが19年比で1.1%増と伸び悩み、営業利益も5.9%減にとどまったためだ。売り上げの14.3%/営業利益の14.2%を占める「サンローラン」が売り上げで23.0%/営業利益で27.1%、同8.5%/5.7%を占める「ボッテガ・ヴェネタ」が売り上げで28.7%/営業利益で33.1%伸びても、全体を押し上げる勢いを欠いた。

 そうはいっても「グッチ」は97億3090万ユーロ(1兆2670億円)を売り上げて37億1460万ユーロ(4836億円)の営業利益を稼いだわけだが、営業利益率は38.2%と19年の40.1%には届かず、LVMHのファッション&レザーグッズ部門の41.6%にも及ばなかった。とはいえ赤字企業や1ケタ黒字企業ばかりのわが国アパレル業界から見ればどちらもケタ違いの高収益で、わずかな差を問う意味もないだろう。

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