ファッション
連載 小島健輔リポート

アパレル在庫問題に究極の答え 「商品ライフサイクル管理」で無在庫化をめざせ【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレル企業の長年の悩みの種である在庫問題。抜本的な解決策はあるのだろうか。詳しく考察してみた。

 過剰在庫と需給ギャップで値引きと残品のロスに苦しむアパレル業界だが、その一方で欠品による機会ロスも少なくないと思われる。過剰と過少の需給ギャップを少しでも解消すべく、さまざまな在庫管理アルゴリズムが使われているが、在庫の最適化は在庫管理アルゴリズムと在庫運用だけでは実現しない。商品計画段階、調達(生産)設計段階、販路仕分け段階、配分基準設定段階、初期配分段階(補給は自動化)、偏在補正段階、消化促進段階のステージごとに発動すべきスキルがあるし、それら一連するPLM(商品ライフサイクル管理)※1.を戦略的に構築すれば、ほぼ無在庫で需要に応え売り上げを伸ばすマジックも可能になる。

※1.PLM(Product Lifecycle Management)…商品の企画・開発から生産・物流、流通・販売、二次流通、廃棄までライフサイクル全体の流れを戦略的に管理・運用して品質とブランド価値、利益とキャッシュフローを最大化するマネジメント体系

商品構成の継続性とクラスター管理が必要

 アルゴリズム在庫管理の基本は、投入からの経過に伴うクラスター、品番、SKUごとの売り上げ数量の推移から週次の消化進行を予測し、予定販売期間で売れ残る数量を計算して警告リストを表示したり、エリア内の消化回転が遅すぎる(余る)店舗から速すぎる(欠品する)店舗へのSKUごとの移動点数を算出して店間移動のリストを表示したりすることだが、実効性を得るにはいくつか前提が必要だ。

 まず、商品構成が毎年大きく振れることなく、該当商品と比較できる前年、前々年の販売進行データが蓄積されていることが大前提で、商品構成が流動的ではデータが意味をなさない。当然ながらコロナ禍で営業が制限された期間のデータは使えないから、それ以前にさかのぼって比較する必要がある。

 ユニクロのように同一商品がわずかのディテイール変化とSKU構成変化で継承される場合は正確に追えるが、全くの同一商品でなくてもアイテムの下の「クラスター」(例としてプリーツスカート、スエットパーカなど)で継承管理されていれば、アバウトにはなるが何とか使える。当然ながら、数値データだけでなく日々の天候と最高気温、最低気温、祝祭日とイベントがエリアごとに記録されていないと実際の比較はできない。

 データがそろっていても計算式の設定が的確でないと使える指標が出てこないから、標準設定して毎週、自動表示するものをベースに、そこから目的に応じてリスト表示を組み替えたり、状況に即した計算式を入れてほしいリストを算出したりする必要がある。アルゴリズムと言うと大げさに聞こえるが、ちょっと複雑なエクセル計算式に過ぎないから、在庫管理/DB.※2.セクションに慣れたスタッフが居れば即応できる。

※2.DB.(Distributor)…一般には在庫を所有して配送する卸業者(所有しない卸御者はBroker)を意味するが、チェーンストア運営では調達した在庫を多数の店舗に最適配分・補給・移動する在庫運用責任者を指し、値入れの歩留まり(粗利益率)をマーチャンダイザーやバイヤーと連帯して評価される

在庫運用の仕組みと計算づくの店舗布陣が不可欠

 使える形式にデータを加工できても、在庫運用の仕組みと店舗布陣が整っていなければ実効は望めない。自動的な欠品振替や定期的な月度(一般に第3週)の偏在補正に加え、シーズン末の前々月には大規模なエリア内移動(店舗直送)を仕掛けることがあるし、シーズン末の前月にはエリア間移動が必要になることもある。効果的なタイミングや手順、在庫を集約する店舗の受け入れ枠設定や搬出店のピッキング人時量シフトなど、何年も積み上げた経験則がないと、手間取るだけで期待したほど成果が出ない。

 エリアごとに売り切る大型高効率店がないと在庫の集約消化が成り立たないから、出店布陣がそれを前提に仕組まれている必要があるし、EC受注品のローカル店出荷などOMO※3.と合わせてテザリング※4.体制ができていればスムースに運用できる。消化不振店から移動SKUを効率的に抜き上げるには番地管理VMD体制が不可欠で、欠いたままではスマホのRFIDレーダーアプリを使ってもピッキング人時量がかさんでしまう。

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