ファッション

アパレルの「DXファストサプライ」が開くSF的近未来 小島健輔リポート

有料会員限定記事

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。デジタルテクノロジーの進歩に伴い、アパレルの生産や供給の体制は従来と全く異なるベクトルに向かいつつある。まるでSFのような近未来は訪れるのだろうか。細かく検証してみよう。

 アパレルDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速度的普及で、完成度・コスト優先のスローサプライとリードタイム短縮優先のファストサプライの優劣が逆転しつつある。AI(人工知能)とDXを駆使して小ロット生産を高速反復するならリードタイムロスは劇的に圧縮できるし、リアルな3D・CGを使ったSNSやECで販売を先行し越境直送物流時差を活用すれば、リードタイムをマイナス化して需給リスク(=在庫リスク)をゼロにすることもできる。そんなSFチックな仕掛けが広がれば、見込み生産のギャンブルだったアパレルのビジネスモデルも一変するのではないか。

スローサプライかファストサプライか

 アパレルのサプライには、リードタイムが長くなって需給ギャップが拡大しても完成度やコスト圧縮を優先する「スローサプライ」、完成度やコストを多少は犠牲にしてもリードタイムを短縮して需給ギャップ圧縮を優先する「ファストサプライ」、この2つのスタンスがある。

 完成度や付加価値を志向する「スローサプライ」では企画〜開発に時間を要して発注までの企画リードタイムが長くなり、バイオーダーのオリジナル素材にこだわれば仕掛かりリードタイムも長引き、大ロット生産でコストを圧縮したければ遠隔地大規模工場の閑散期を狙って生産リードタイムも極端に長くなり、物流リードタイムも長くなる。高級ブランドの国内自社工場生産でも、操業率と生産効率を優先すれば南アジアの大規模工場と大差ない生産リードタイムになってしまうケースも聞く。

 企画から市場投入までのリードタイムに比例して需給ギャップは大きくなるから、見込み生産した商品は販路運用(マルチ販路DB.※1.)や売価変更で売り減らしていくしかなく、トレンドや天候の変動、類似品の氾濫などで値引きや残品のロスが容易に肥大し、粗利益を食い潰してしまう。そのロスを見込んで価格に上乗せすればお値打ちが損なわれ、さらなる消化不振という悪循環に陥る。当然ながら商品のBS計上(国内倉庫納品時または店舗向け出荷時が大半)から販売までの在庫回転も長引き、売掛金回収(商業施設やECモールの売上金預かりとキャッシュレス決済が負担)までのキャッシュフローも遅くなる。

 「スローサプライ」でもユニクロの「ジャストサイズ」のように、初期ロットは遠隔地の大規模工場で低コストに大ロット一括生産しても、期中のSKU(色・サイズ)在庫バランス補正追加生産は同一素材を使って近接地(おそらく中国沿海部)の中規模工場で小ロット反復生産する、という「二段構えサプライ」で多少は需給ギャップを埋められる。それでも全て解消できるわけではなく、在庫負担が重く消化に時間を要する先行作りため「ダム型サプライ」の欠点は残る。

 リードタイム短縮を優先する古典的「ファストサプライ」では、(1)汎用素材・部材や出来合いの意匠素材から選択する、(2)手持ちのパターンや生産仕様を活用する、(3)小ロット生産を反復する、が基本で、ソウルの東大門市場の流通素材を選択して一晩か二晩で一反潰しロットを持ち帰るハンドキャリーSPAなどその完璧な原形と言えよう。流通素材と言っても結構、新鮮な意匠性があって値頃だから、韓国や日本のローカル市場で小規模な商売を回すには十分だ。ギャルファッションの発展期には毎週、東大門市場に通うバイヤーも少なくなかったし、韓国では今日も活用するローカルブティックが多く、店舗販売では目立たなくなっても専業ECでシステム化され大規模化している。

 そんな都合の良い「ファストサプライ」が成り立つには現物素材の潤沢な流通と都市市場に近接した縫製工場の存在が不可欠で、わが国でも1980年代前半までは成立していたが、アパレル生産の海外移転とともに意匠素材生産はバイオーダーに移行し、ファストテキスタイルの流通市場は衰退していった。今日でも韓国や中国では汎用素材だけでなく意匠素材も潤沢に流通しており、広東省など中国沿海部では大都市近郊の中小縫製工場集積も健在で、そんな「ファストサプライ」背景から「シーイン(SHEIN)」など中韓の越境ECアパレルが台頭したと思われる。

 ついでながら、「H&M」などグローバルに肥大したファストファッションSPAはコストを抑えた大ロット一括生産が実態で、大ロットゆえ素材調達にも縫製にも時間を要してリードタイムが長く、グローバル企画ゆえに各国市場での需給ギャップも大きく、高頻度に投入しても消化ははかどらず、「H&M」はコロナ前でも3回転に届いていなかった。ロットを抑えた(「H&M」より1ケタ少ない)DX連携垂直分業でファストにサプライする「ザラ(ZARA)」はともかく、ファストファッション=ファストサプライでないのが現実だ。

この続きを読むには…
残り3977⽂字, 画像1枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

表と裏の古着市場 米リセールECと日本の“川上”を徹底調査

「WWDJAPAN」1月17日号の特集は「表と裏の古着市場」です。中古品市場はのみの市や古着店、リサイクルショップなどの実店舗を中心に昔からあるビジネスですが、時代に合わせて大きく変化しています。特に米国の若者はサステナビリティへの関心も高く、節約やおしゃれのためだけでなく、環境保護の観点から古着を選ぶ人も多いそうです。

詳細/購入はこちら