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保育専門学校から子ども服の販売へ、「尊敬できる先輩と風通し」がつなぐバトン ナルミヤ・インターナショナル井野温子

 ショップスタッフインタビューで経歴をたずねると、1990年代生まれの女性のほとんどが「子どもの頃に、ナルミヤのブランドがきっかけで洋服が好きになりました」と答える。それほどこの業界に多大な影響を与えたのがナルミヤ・インターナショナルだ。その後の低迷を経て、百貨店依存に陥っていた体質を変えて18年2月期には再び子供服メーカー売り上げトップに返り咲いた。まさに、その“ナルミヤ世代”のそごう横浜店の井野温子ストアマネージャーに聞いた。

―ショップスタッフの取材では、井野さん世代の女性からは必ずといっていいほど「ナルミヤのブランドに憧れて……」といわれます。

井野温子さん(以下、井野):店頭に立っていても同じです。店の前を女子高生や20代くらいのお客様が通ると「メゾピアノだ」「私、着てた!」という声が聞こえてくることがよくあります。改めて、歴史があるブランドなんだなって思います。接客のときにも孫が生まれたというおばあちゃま世代の方が「自分の娘にも着せていたの。今も好きだから、孫にも着せたくて」とお話しされます。

―そうなんですね!確かにナルミヤが盛り上がっていたときから20年近く経っているので、子どもがいてもおかしくないですよね。

井野:お客様の中には長い方で10年以上のお付き合いがあるので、いつ赤ちゃんを連れてくるかなとドキドキしながら待っています(笑)。普段は名前よりも「お姉さん」と呼ばれることが多いのですが、そごう横浜店に異動してきたばかりの頃に一番初めに私のことを「井野さん」と名前で呼んでくれたお客様がいて、嬉しくて今でも覚えています。その子が当時、小学校6年生でそろそろナルミヤブランドは卒業かな?という年代でした。今でも館内で見かけると声をかけてくれるのです。今はすっかり大人になっていて……。

―それはドキドキですね(笑)。子ども服の接客では、日頃から何を心がけていますか?

井野:私は洋服を売りたいというより、お話しをしたいという気持ちで接しています。ジュニアブランドの場合は割とママともお話することの方が多いので、ママの意見とお子さんの意見を聞きながら提案しています。ベビーやキッズの場合はママと、ジュニアはどちらかというと子どもとお話しすることが多いですね。売り場によって、お客さまとの接し方が全く変わるんです。あとは、男の子と女の子でも接し方が変わります。女の子は自分で選びたがるのですが、男の子は割と椅子に座って、ママの買い物が終わるのを待っている感じです。

―なるほど(笑)。男性の買い物待ちは、幼少の頃から始まっているんですね。

井野:しかも、男の子のママはお話好きな方が多い印象がありますね。女の子の場合は、ママが割と服を選び、その間は私と女の子でおしゃべりする感じです。先日来店した4歳くらいの女の子とママは、フィッティングルームで私と女の子が待機して、ママが店頭から服を持って来て「これ着てみる?」「あれ着てみる?」とやっていました。何着がお買い上げされて帰られたのですが、後日ママが一人で来店されて「この前、お姉さんと話したのがとても楽しかったみたいで、家に帰ってからもずっとその時に話していました」と教えてくれたのです。それはうれしかったですね。

―それでこの業界を目指してくれるといいですね。井野さんが販売を始めたきっかけは?

井野:専門学校時代の先生に勧められたのがきっかけです。地元が静岡県下田市で本当に何もない場所で、ブランドの店も近くになかったのでファッションには興味はありませんでした。卒業後は飲食店でアルバイトをしていたのですが、先生に雑貨や子ども関連の販売の仕事をいくつか紹介され、ナルミヤでアルバイトすることになりました。最初の勤務地が渋谷109-2の店舗で、いろんな事に驚きしました。

―当時はまだ人気もありましたし、渋谷という場所にも圧倒されましたよね。では、接客の仕事をしてみてどうでしたか?

井野:実家が宿泊業経営だったので、お客さまと話をするのは苦ではありませんでしたね。子どもの頃から知らない人が家に来る機会がとても多く、お母さんの後ろをついて行って「いらっしゃいませ!」とかやってたので(笑)。でも働き始めたときは、ノルマがあったわけでもないのに「売り上げを絶対取る!」みたいなノリで頑張っていました。接客も先輩のうしろに付いて、接客の仕方やママとの距離の取り方などを見て、自分に取り入れられそうなことは取り入れていました。ただ、あるとき私一人が頑張って売り上げを取るだけが仕事じゃないと気づいて、力が抜けてお店全体を見ること、マネジメントに目が行くようになりました。前のめりに頑張り過ぎていた気持ちが落ち着つきました。

―それはいつ頃から?

井野:横浜そごうに移動してきて、尊敬する先輩に出会ってからです。その方の下で5~6年ぐらい一緒に働かせてもらったことで、考え方が変わりました。プライベートでもよく相談にのってもらっていて、離婚のときにも、その先輩に証人にもなってもらいました。私の話を聞いて一緒になって落ち込んでくれるところもあるのに、一方でとてもさっぱりとした性格でそういうところは見習っています。何か店で問題があった時にはスパっと自分で判断はしますが、そうしたときにも一歩引いて「あの先輩ならどうしたかな?」と考えることもあります。

―素敵な先輩と出会えたのですね。その方は今?

井野:今は産休明けで、時短勤務で店頭に立っています。

―今でも働き方のモデルになっているのですね。その後、業績がどんどん低迷していくわけですが、ナルミヤで働き続けられた理由は?

井野:やはり一緒に働く人たちがすごくよかったからです。自分にとってプラスになる人たちばかりで。それに、本部もよく現場を見に来てくれました。ただ回るだけでなく各ブランドの売り場でスタッフに声をかけてくれてましたね。以前よりも接することも多くなりましたし、役職が上の方でも現場を見に来て、声をかけてくれるので、言いたいことも伝えられるようになりました。

―風通しがいい会社なんですね。

井野:そうですね。上の方は現場のことを知らないんでしょと思われがちですが、ナルミヤはそんなことないですね。連絡もまめにくれますし、お休みもしっかりとれています。自分のプライベートでやりたいこともちゃんとできています。

―以前は販売員の人手不足や、店長になると休日もあったようなものじゃないということを耳にしますが、そんなことはないと。

井野:それもないです。特に複数ブランドをそごう内に出店しているので、スタッフは基本的に所属ブランドが決まっているのですが、休みの調整も兼ねて所属外のブランドでも月に1日は店頭に立つシフト作りをしています。これは複数ブランドを展開しているからできることだと思いますが、他ブランドでも仕事をすることで所属ブランド以外にも目が向けられるようになりますし、スタッフ間の交流も増えます。

―ブランドの異動になっても、少し知っていれば気持ちが違いますしね。

井野:はい。一人で「売らなきゃ」と頑張っていた時は、スタッフに仕事を任せることもできなかったので考え方が変わりました。

―スタッフに仕事を任せられないという悩みも店長あるあるです。何かきっかけで任せられるように?

井野:ストアマネージャーに昇格した時ですね。前任者がキャリアのある方だったので、昇格直後は「私に同じことができるんだろうか?」と思いました。同時にSC向けだったベビートドラーブランドの「プティマイン」が百貨店に初出店することになり、会社的にも注目していたので猛烈に頑張りました。その期間の記憶が思い出せないほどです(笑)。その時にスタッフに仕事を任せようとなって頼んでみたら、みんな責任感を持ってやってくれていて「凄い!」と思いました。一番若手のスタッフは私よりもしっかりしています。自分の考えを持って仕事をしている姿を見て、それならみんなに任せてみよう、と。

―それでは最後に今後の目標を。

井野:本当に悩みがなくて、すごく楽しくて仕事もプライベートも充実しています。自分が仕事の楽しさを分かるような年齢になってきて、今はスタッフが仕事を楽しいんでいるかな?って、考えるようになりました。なので、スタッフが少しても楽しく働けるような環境を作っていきたいと思っています。確かに会社は売り上げを重視するとは思いますが、それでも楽しく働こうよと伝えていきたいです。

―ちなみにプライベートでは何を?

井野:4年ほど前から書道を始めたんです。仕事では子どもたちと触れ合い、趣味では100歳近いお年寄りと交流しています。

―それはプライベートも楽しそうですね。加えて仕事も楽しいと言えるのって素敵です!

井野:はい。このまま、この気持ちで働き続けていきたいです。

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