ファッション

下北沢最安値の“110円古着”はなぜ可能か? 藤原輝敏スティックアウト社長に聞く

 何度目かの古着ブームにより、がぜん注目を浴びている下北沢。“若者が大挙し、かつその多くが買い物袋を持っている”ことは以前伝えた通りだ。その際に声を掛けた10代女性が持っていたのが「スティックアウト」の買い物袋だった。彼女たちが買い物したのは税込770円均一の「スティックアウト700」(1号店)だったが、取材後に調べて110円から古着をラインアップする3号店(「スティックアウト100」)が今年2月にオープンしていたことを知る。“下北沢最安値”をうたう古着店は少なくないが、常時一定量の110円商品を並べる店はまれだ。藤原輝敏スティックアウト社長に話を聞いた。

WWD:まずはスティックアウトの“自己紹介”をお願いしたい。

藤原輝敏スティックアウト社長(以下、藤原):下北沢で3店舗を運営していて、1号店のオープンは2007年です。現在税込770円均一の「スティックアウト700」がそれで、20年に2号店である「スティックアウト3」を開店しました。“3”は税抜3000円以下の意味で、店頭には税込で770~3190円の商品を並べています。110~770円の古着をラインアップする3号店(「スティックアウト100」)をオープンしたのは今年2月です。

WWD:「スティックアウト100」における“110円古着”の比率は?

藤原:2割程度を心掛けています。

WWD:「スティックアウト100」の客層についても教えてほしい。

藤原:品ぞろえ、来客像どちらも男女比は半々で、年齢層は10~20代が中心ですね。

知られざる古着の供給源について

WWD:“110円古着”を実現するための供給源について聞きたい。

藤原:これからお話するのはあくまで当社のケースで、それが古着業界の唯一の方法ではありません。特に僕は古着店で修業を積んだわけではなく、独学な部分が多いので。

 まず仕入れ先には国外と国内があります。海外仕入れは当社の場合、世界的な古着の集積地であるタイのアランヤプラテートが供給源となっています。しかしコロナ禍で渡航機会が失われ、今は現地スタッフに依頼して輸入しています。国内仕入れは、さらに2つに大別できます。“ウェス屋(ボロ屋)”と呼ばれるものと、古着卸(古着問屋)です。“ウェス屋”は、家庭から出たゴミ(衣類)が原料です。それを行政が回収して、“紙屋”と呼ばれる業者に持ち込みます。

WWD:衣類なのに“紙屋”に持ち込まれる?

藤原:はい、ただしこれは行政によってまちまちかもしれないですね。“紙屋”が選別し、衣類はあらためて“ウェス屋”にという流れです。

WWD:そして“ウェス屋”から古着店(小売り)が買う?

藤原:ええ。およそ3つの料金形態が存在します。キロ値が1000~1200円の最上位のカテゴリーには「グッチ(GUCCI)」や「パタゴニア(PATAGONIA)」といった人気ブランドや、レザージャケットのような高額商品が混在します。これに続いてキロ値400円、200円などのカテゴリーが設けられています。

WWD:その下はない?

藤原:そうですね。その下は文字通りのゴミになるのかと。

WWD:一方の古着卸とは?

藤原: t(トン)単位の量り売りで、“信用買い”な部分が多く、中身は見ずに決定します。

WWD:中身が見れないということは内容物に偏りがあることも?

藤原:はい。それもあって、当社で仕分けして店頭に並べられるのは15%ほどです。

WWD:残りの85%は?

藤原:当社は、古着卸に戻します。“ウェス屋”に売ることもできるんですが、毎週古着卸に買い付けに行くので、不要な物を持って行って、また買って帰ってくる方が性分的に楽なんですよね(笑)。

WWD:スティックアウトの場合、どの程度の量を買う?

藤原:毎週2、3トンです。僕は中型免許を持っているので、4tトラックで東京郊外をピストン輸送しています。

WWD:社長自ら?

藤原:アルバイトを入れて25人程度の小さな会社ですからね(笑)。社長といったって、デスクで座っているわけにはいきません。“ウェス屋”は埼玉、神奈川、千葉あたりに多く、そこまで行って買い付け、川口市の本社倉庫に持ち込んで仕分けします。僕で週に2往復くらい。ほかのスタッフも入れて、週に10往復くらいはしています。秋冬シーズンはかさばる服も多いので、配送費を安くあげるため、乗用車で下北沢の店舗まで商品を持ってくることもあります。

WWD:古着卸と“ウェス屋”、それぞれのメリット・デメリットについてあらためて聞きたい。

藤原:古着卸のメリットは、なんといっても安さです。t単位の量り売りで、かつ条件がある(内容物が見れない)ため、仕入れ値は“ウェス屋”の10分の1ほど。それに、こちらにも「ディオール(DIOR)」や「プラダ(PRADA)」などラグジュアリーブランドが入っていることがあります。そのあたりは宝くじ感覚というか(笑)。デメリットは、買ったものを当社サイドで仕分ける必要があるので、そこに人件費が掛かることですね。それに仕分けは誰でもできるわけではなく、目が利かなくてはなりません。

 “ウェス屋”のメリットは、“ウェス屋”側で仕分けをしてくれる点です。ジーンズ、ダウン、スカートといった具合にジャンルごとになっているので、狙って買い物ができます。サイズや状態を確認できるのも利点ですね。しかし、“ウェス屋”での売買も100~200kg単位なので、あくまで“ある程度”です。デメリットは、より多くの量を売買する古着卸に比べて割高ということです。

WWD:つまり値段を取るか、時間と手間を取るかの違いである?

藤原:そうですね。中長期的な店舗運営のためには古着卸での買い付けを続けることが必要で、ただしその場合は中身は分からないし、商品の偏りもあるので“ウェス屋”も併用しています。

本題、“110円古着”はなぜ可能か?

WWD:そのあたりに“110円古着”の秘密が隠されていそうだ。

藤原:秘密というほどのものはありません(笑)。時間と手間を掛けるに尽きます。強いて言うなら、古着小売りは一般的に“ウェス屋”で買い付けることが多く、古着卸からt買いするのは珍しいかもしれませんね。その分、売値を下げることができます。ただ、1次流通量が多い(結果としてゴミに出される量も多い)女性物が多くなってしまいがちで、つまりメンズ商品が枯渇気味です。

WWD:ほかに、“明日のスティックアウト”になるために必要なものは?

藤原:誰でもすぐになれますよ(笑)。でも、そうだなぁ、倉庫やトラック、その運転手や駐車場も必要ですね。というわけで、あくまで郊外型のビジネスモデルといえるのかもしれません。いずれにしても、僕らはゴミの中から宝を探し出すことにやりがいを感じています!

WWD:最後に、今後のビジョンについて聞きたい。

藤原:来年めどで、下北沢駅の北口に4号店目の出店を考えています。

WWD:既存の店舗で例えるなら、どの業態に近いものになる?

藤原:2号店(「スティックアウト3」)ですね。スティックアウトの中ではブランド名が立っていたり、少しトレンドを感じさせるアイテムを集約している業態です。それでいて価格は770~3190円。

WWD:“110円古着”の値段を、さらに下げることはない?

藤原:110円で売れないものは50円でも10円でも売れないと思います。“要らないものは無料(タダ)でも要らない”、令和のお客さまはとても賢明ですよ。

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