ファッション

現地買い付け歴20年の古着バイヤーが語る最前線パキスタンのリアル

 メルカリの普及に比例して、古着への抵抗は減少してきた。今や誰もが古着を手軽に購入して着る時代だ。中古・リユースビジネスに関する総合ニュースサイト「リサイクル通信」は、2020年のリユース市場の規模を2兆6000億円と予測する。それでは大量の古着はどこから来るのか?リユース業界最大手のゲオホールディングス(中古売上高約1066億円)の遠藤結蔵社長は「当社の商品は全て一般ユーザーからの買い取り品で、専門業者やオークションなどは利用していない」と話すが、一般的にスエットやジーンズなどのアメカジ古着は海外からもたらされる。そして、その古着の一大集積地となっているのがパキスタンだという。国連統計部の貿易データによると、パキスタンの18年の古着輸入量は約110万tで世界1位だ。古着店「デザートスノー(DESERT SNOW)」を東京・町田、下北沢、福島県郡山市で運営し、20年来パキスタンで買い付けを行う鈴木道雄デザートスノー社長に話を聞いた。

WWD:パキスタンで20年来買い付けを行う古着バイヤーは鈴木社長以外に存在する?

鈴木道雄デザートスノー社長(以下、鈴木):いない。いや、“いなくなった”という表現の方が正しい。政情不安などの理由から皆、撤退した。現在、パキスタンで継続的にバイイングを行うのは7~8社ほどで、うち特区に入れるのは2社だ。

WWD:特区とは?

鈴木:パキスタン最大の都市カラチの港湾地区に12~13年前にできたタックスフリー(無税)ゾーンを指す。そこを目指して欧米を中心に世界中から古着が集まる。古着はファッション業界にありながら、“製造費のかからない唯一のジャンル”といわれる。われわれは仕分け前の古着を“原料”、仕分け後を“製品”と呼んでいる。

WWD:“原料”がカラチに行きつくまでの流れを教えてほしい。

鈴木:欧米の古着は、寄付や廃品回収によるものが主だ。回収されたそれらはスリフトショップに品出しされ、そこに“ボロ屋(選別工場)”のバイヤーが入る。ボロ屋が買い付けたものを従来はアメリカ国内で仕分けていたが、人件費が高騰してカラチにやってきた。輸入関税が掛からないことに加えて、アメリカのボロ屋スタッフの時給が14~15ドル(約1500~1600円/8時間労働で約116ドル=約1万2400円)なのに対して、パキスタンだと多めに見積もっても日給5ドル(約530円)ですむ。古着の仕分けには何百人もの人手が必要なので、コンテナを船で運んでもカラチで作業した方が安くなる。

WWD:仕分けされた“製品”はその後どうなる?

鈴木:意外に思われるかもしれないが、Aグレード(状態の良いきれいなもの、つまり高価なもの)はアフリカに輸出される。そしてBグレードの古着はパキスタン(特区からパキスタン国内に古着を持ち込む際には税金が掛かる)や隣接するアフガニスタンやイランに輸出される。本当のボロはウエス(使い捨て雑巾)にされる。

WWD:カラチに持ち込まれた“原料”の中から、ビンテージと呼ばれるアメカジ古着が出る確率は?

鈴木:1%に満たない。かつては傷やダメージがあるものは一律に不良品と判断され、はじかれたものの中に希少価値の高いビンテージがあったが、“川上”でその価値に気付く者が現れ始めた。「WWD JAPAN.com」でも以前紹介していたが、パキスタン人ビンテージウエアコレクターのサリーム・ガンチ(Saleem Ghanchi)らが先駆者であり、特区誕生前夜の話だ。

WWD:なぜデザートスノーは特区に入れる?

鈴木:ひとえに“パキスタン人とのコミュニケーション”といえる。それを20年間続けてきた結果だ。現在もカラチにスタッフを交代で常駐させている。

WWD:これからの新規参入は難しい?

鈴木:特区内には40~50のボロ屋があるが、パキスタン政府は彼らにライセンスを与えており、これ以上増やすつもりはないと聞いている。

WWD:パキスタン政府は、なぜカラチに古着の選別工場を誘致した?

鈴木:雇用創出のためだ。しかし当初、特区では車のパーツを生産していた。それが汚水問題で閉鎖された。ボロ屋はそれを引き継いだ格好で、現在1工場で数百人が働いている。

WWD:人件費が安い国はほかにもある。なぜパキスタンが古着の一大集積地になったのか?

鈴木:衣料の関税も低かったことからパキスタンに古着が集まった。また世界には古着の輸入を認めない国も多い。中国ではウイルスの蔓延、ナイジェリアでは自国のアパレル産業が育たないという理由などで見送られている。

WWD:パキスタン以外に古着の集積地はない?

鈴木:フィリピン、マレーシア、タイ、インドにも同様の特区があるが、規模がまるで違う。悲しい話だが、かつてパキスタンは“世界のゴミ捨て場”と呼ばれた。しかし、今ではそれを立派に産業としている。これからも良質の古着を日本に届けるために、パキスタンでビジネスを続けるつもりだ。

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