ファッション

ビンテージバイヤー栗原道彦が語る ハードボイルドアメリカ買い付け物語

 23年のキャリアを持つフリーランスのビンテージバイヤー栗原道彦は、6週間サイクルで日本とアメリカを行き来している。アメリカではレンタカーでアリゾナ州からテキサス州までスリフトショップ(非営利のリサイクルショップ)を回る。1日30軒のペースで朝から晩まで。しかし「10軒以上何も買えないときもある」。夜、スリフトショップが閉まったら、7~8時間かけて次の州に移動する。宿泊は1泊45ドル~(約4860円~)の安モーテルで、「ドアの外では銃声やドラッグの取引」が日常だという。少しでも長く眠りたいときは「車中泊もある」ハードな道中だ。

WWD:ビンテージバイヤーの仕事とは?

栗原道彦バイヤー(以下、栗原):“フィルター”だと思う。どこまでさかのぼるかにもよるが、膨大な量の不用品の中から価値のあるもの見つけ出す作業は簡単ではない。それを代行するのが仕事だ。

WWD:買い付け先について聞きたい。

栗原:7~8年前からスリフトショップを回るようになった。スリフトショップへの古着の流入には大きく2つある。1つはドネーション(寄付)で、もう1つがエステートセール。家主が亡くなったり、引っ越しをする際に家中の一切合切を売る――これがエステートセールだ。Tシャツが50セント(約54円)、ジーンズが2ドル(約216円)、バンダナが塊で1ドル(約108円)など破格値で売られる。アメリカの家屋は広くてスペースがあるので、時間とともにため込まれたあれこれが放出される。

WWD:栗原バイヤーは23年のキャリアを持つ。買い付けるアイテムに変化はあった?

栗原:僕らの業界では、ビンテージデニムなどアメリカもので価値が体系付けられているものを“アメカジ古着”と呼び、1990年代や2000年代など時代が浅く、ただし一点モノとして価値が認められたものを“デザイン古着”と呼ぶ。後者はここ数年で需要が増え、スリフトショップで安く買えて利益率も高いので、ビンテージバイヤーの新たなそして重要な収入源となっている。

WWD:“アメカジ古着”はもう売れない?

栗原:そんなことはない。00年代はビンテージの価値が底を打った時代だが、その頃10万~20万円で売られていた「リーバス(LEVI’S)」のデニムジャケット“ファースト”が今や20~40万円、6万円前後だった“セカンド”が20万円弱まで高騰している。ただ、同時に“ファースト”や“セカンド”を「要らない」という若年層もいてビックリしている。着こなしにビンテージを組み込んだ人は“おっさん”なのだそうだ(笑)。

WWD:古着の価値観が変わった?

栗原:僕らが学生だった90年代は“1000円で買えるTシャツ”“3000円で買えるパンツ”といえば古着しかなかった。皆が古着を着ているから、古着の世界に入りやすかった。それがファストファッションの登場で大きく変わった。「新品がその値段で買えるなら」と“古着を選ばない人”が出始めた。インターネットの影響も大きく、情報が一気にあふれた。90年代は10代も40代も古着好きは同じ格好をしていたが、情報によってスタイルが多様化した。フィールドは広くなったが浅くなったとも言え、少なくとも深く掘る人が少なくなった。これは音楽や車にも言えることだと思う。ただ大きな変化はもっと別のところで起きた。

ネットとSNSによって到来した
“誰でもバイヤー時代”

WWD:大きな変化とは?

栗原:ネットオークションサイトの「イーベイ(eBay)」が急成長した00年代まで、ビンテージは日本でしか売れなかった。それが「イーベイ」を通じてアメリカやヨーロッパ、アジアで買われるようになり、さらにディーラーが客に直接売るようになった。ディーラー自体にも変化がある。90年代から付き合いがある“アメカジ古着”のディーラーは70代が中心で、亡くなった人もいる。一方で、非営利のリサイクルショップ「グッドウィル(GOODWILL)」のアウトレットには、10~20代のビギナーディーラーが張り付いている。穴が開いたり汚れた服が“ブルービン”と呼ばれる大きなカートに投げ込まれ、量り売りされている。彼らはインスタグラムの“#BLUEBIN”や“# GOODWILLFIND”といったタグを頼りに情報を集め、買い付けをしている。

WWD:新たな競合も増え、ビンテージバイヤーにとっては厳しい時代だ。

栗原:その通りだ。川上で価値に気付く人が増え、年々スリフトショップの値段も上がっている。ある意味で“アメリカにもうビンテージはない”とも言える。初めて渡米した若いバイヤーは「こんなに物がないとは思わなかった」と驚いていた。

WWD:そんな中で栗原バイヤーの秘策は?

栗原:僕は英語ができるので、スリフトショップでそれらしい人を見つけては声を掛け、スマホ写真や「イーベイ」やマーケットプレイスサイト「エッツィ(Etsy)」のページを見せてもらう。めぼしい商品があれば、彼らの家まで行って商品を買う。

WWD:一般客とバイヤーの違いが分かる?

栗原:商品の見方で分かる。競合が増え“玉数(アイテム数)”が減っているからこそ、自分で声を掛けざるをえない。

WWD:彼らが栗原バイヤーに売るメリットは?

栗原:手っ取り早く現金化できる。「イーベイ」や「エッツィ」のように手数料や税金も掛からない。ほかにも秘策ではないが、10年ほど前からダメージ古着をリメーク材料として「77 サーカ(77 CIRCA)」や「メゾン エウレカ(MAISON EUREKA)」に卸しており、大きなビジネスになっている。“アメカジ古着”もビームスなどセレクトショップ向けに卸をしたり、ポップアップを開催してもらったりしている。古着が好きだから、これからも仕事を続けたい。

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