ファッション

子どもの頃からの夢「社会貢献」を店頭で マザーハウス足立志織

 東京・立川駅の北地区に2020年4月開業した「立川グリーンスプリングス」は、物販や飲食店のほか、宿泊施設、オフィス、多機能ホールなどが連なるオープンエアーの複合施設だ。昭和記念公園に隣接して自然を感じる、いわば「市民の憩いの場」という場所に、マザーハウス立川グリーンスプリングス店はある。店舗面積は「マザーハウス」としては最大の80坪(約264平方メートル)で、全カテゴリーのアイテムを展開している。足立志織店長は、こどもの頃のホームステイ体験をきっかけに社会貢献に関心を持ち、「マザーハウス」で販売の仕事をしている。販売職と社会貢献について話を聞いた。

―マザーハウスと言えば『途上国から世界に通用するブランドをつくる』の理念を掲げ、バッグを通して社会貢献できるブランドと認識しています。やはりそこに惹かれて入社したのですか?

足立志織さん(以下、足立):マザーハウスのことは大学在学中に知りました。インターン先のスリランカで、服飾製品を途上国で作り途上国に貢献するビジネスをしたいと話をしていたら「それならマザーハウスという会社があるよ」と教えてもらったのがきっかけでした。当時はまだ、スリランカで事業展開をしていなかったのですが、ちょうど入社した頃にスリランカでモノづくりが始まりました。

―そもそも、途上国と関わる仕事がしたいというのは?どういうきっかけで、いつから考えるように?

足立:ずっと誰かの役に立ちたい、社会に貢献したいという思いが強くありました。小学6年生の時に、母の薦めでスリランカに国際交流でホームステイした経験が大きいです。当時は海外に行くのも初めてですし、ましてやスリランカがどんな国かもよく分からず行ったのですが、ホームステイ先の家族ともとても仲良くなることができました。この時には国境や国の経済規模の違いなどに関係なく、人は仲良くできると感じたのです。でも、その後ホストシスターから「通学のためにお金を送ってほしい」と連絡があり、それがとてもショックで……。それから途上国のことや貧困について、より身近に感じるようになりました。

―国境を越えて友達ができたと思っていたのが、お金をきっかけに考えさせられる出来事があったんですね……。お金は送金したのですか?

足立:いえ、送りませんでした。送金を断ったら、その後連絡が取れなくなってしまって…。その理由を聞きたくて何度か手紙を送っていたのですが、返事はもらえず。大学のインターンでスリランカに行ったときにも会おうとしたのですが、結局それも叶わず、今に至ります。SNSでつながっていますが、うまくコミュニケーションは取れていません。私の実家はそこまで裕福ではありませんし、ホームステイしていた時には自分の家庭環境と大きな違いを感じていなかったのに、そう言われた時はショックでした。国が違うので多少は生活レベルが違うとは思うのですが、その差も越えて本当に仲良くなれたと思ったので、小学生ながら当時は色々考えさせられました。

―それはとてもショックでもあり、考えさせられますね。でも、それから社会貢献について考えるように?

足立:そうです。将来はアパレル関係で途上国とビジネスすることを目指していたので、ビジネスやモノづくりの勉強のために服飾系の商社を希望しました。モノづくりについて調べ、商社でもモノづくりに携わっていった先に社会に対して良いインパクトがあるのだろうかと考えるようになったのですが、結局はそれに納得できない自分がいて、一旦就活をリセットして、マザーハウスに卒業ギリギリで内定をいただいたのです。

―今でこそSDGsや持続可能なモノづくりをしていこうという動きにはなっていますが、5~6年前は今よりもまだそういった考えを持っている人は少なかったと思います。

足立:正直言うと今でもモノを作るということについての疑問はあります。

―それはどんな?

足立:モノはそんなに必要なのか?ということです。

―モノによって精神的に満たされる量は人それぞれ違うので、永遠の課題ですよね。

足立: 大学で学んだ結論として、途上国とビジネスすることで社会問題を解決できる可能性はあると感じました。衣食住やサービスなど色んな業種の中でもファッションなら、社会問題などを知らない人にアプローチできるのではないかと思ったのです。食でもファッションでも、わざわざフェアトレードの商品だからといって手に取る人はまだ少ないと思いますし、食品よりファッションの方がデザインが気に入れば、多少価格が高くても「これが欲しい」という気持ちで価格の壁を越えることができる。たまたま、手に取った商品が社会や環境に配慮した商品だったというストーリーがファッションならば作りやすいのではないか、と。商社では、自分の中でどうしても会社の利益を大きくすることがゴールに見えてしまい…。マザーハウスの入社の決め手になったのは、理念や思いがあるところで働けると思ったからです。

―入社して、今は店頭に立つようになりましたが、この仕事はどうですか?

足立:接客を通じて、お客さまの物語の一部になれるのが面白いです。一番嬉しかったのは、マザーハウスでバッグをお買い上げくださったことをきっかけに、その後の買い物の仕方が変わったと報告しに来てくれたお客さまがいたことです。

―どんな接客だったんでしょう?

足立:京都店に配属された時にことですが、いつも通りに接客をしていて、マザーハウスの事や先ほど話した社会貢献に関心を持ったきっかけなどを流れでお話ししました。もちろんバッグの良さもお伝えして、お客さまも気に入ってお買い上げくださったのですが、その後、そのお客さまからお買い物するときに「どこで、どうやって作っているんですか?」と質問してから買い物されるようになったと言いに来てくださって。それがとても嬉しかったですね。

―思いが伝わりましたね。でも一方で、接客だけでブランドのストーリーは伝わらないし、お客さまも聞いてくれないこともあるのではないかと思ったんですが、接客トークはどうされていますか?

足立:そういう時はお客さまの物語を想像するようにしています。観察して、どんなことに興味や関心がありそうか考えます。なぜこの施設に来たのか、立川に来たのか?なぜこの時間なのか?ここには仕事で?それとも休日だから?など、一言で言えば、その方のライフスタイルを想像して、この店にいる時間を少しでも有意義な時間にできるような会話を心がけています。

―なるほど。では、接客全般で心がけていることは?

足立:お客さまを想像することももちろんなのですが、一番はお客さまが主語であることかもしれません。「マザーハウス」や「自分」が主語になって話すのではなく、「お客さまは…」と考えることです。究極はブランドストーリーを知ってもらわなくても良くて思っています。知らない方が良いという方もいると思うので、いつも生産地の話をしなくてもいいとも意識しています。

―たまたま買ったものがフェアトレードの商品だったということですね。良いものを買ったと家に帰ってから調べてみたらフェアトレードのモノだったと。

足立:そうです!

―マザーハウスで働いたことで、子どもの頃の経験を払拭できたというか、自分が思い描いた社会貢献ができていると感じていますか?

足立:ファクトリービジットというマザーハウスの生産地に行く研修で、インドネシアで働く全ての職人の家を訪問しました。そこで職人さん全員に「マザーハウスと働いて変わったことはありますか?」と聞いたのですが、全員が全員「生活が変わった」と答えてくれて、その言葉を聞いて販売をしている意味があるなと思いました。例えば「キッチンがこんなにきれいになった」「子どもが大学に行けた」とか、工房まで長距離移動をしている職人さんは「バイクを買えた」とか。一人ひとりが生活がより豊かになったことと話してくれました。

―生産者さんの喜んでいる姿を目の当たりにし、一方で店頭でもお客さまが「良いものが買えた」と喜んで暮れているのを見ると「つながっている」と感じたのですね?

足立:そうです。

―マザーハウスでの経験を生かした将来のビジョンは?

足立:将来自分がどうするのか、ということに対してのハングリーさは今はなくて、ファッションと途上国をつなげるモノづくりの仕組みはマザーハウスでできているので、一緒に働く人が増え、生産地が増え、マザーハウスが拡大していくことで、自分の思いが実現できていると納得しています。立川店はこの広さを生かして、大人も子どもも楽しみながら学べるワークショップを開催しているのですが、最近はそこに集まる子どもたちと対話をして、何か気づきになるような仕事ができればと思っています。

苫米地香織:服が作れて、グラフィックデザインができて、写真が撮れるファッションビジネスライター。高校でインテリア、専門学校で服飾を学び、販売員として働き始める。その後、アパレル企画会社へ転職し、商品企画、デザイン、マーケティング、業界誌への執筆などに携わる。自他ともに認める“日本で一番アパレル販売員を取材しているライター”

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