ファッション
連載 YOUTH

「マーティン ローズ」が恋した20歳の日本人バンドマン 無名の学生がドレイクと共演するまで

 英ブランド「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」は、2021年春夏コレクションのムービーを1月に限定期間公開した。映像では世界中の老若男女の日常シーンが切り取られ、日本からはサラサラ髪のナイーブなムード漂う若者と、スリムな金髪の2人が登場。彼らの後にはインスタグラムのフォロワー数7600万以上を誇る世界的ミュージシャンのドレイク(Drake)がカメオ出演したため、その異質な存在感はますます際立った。この謎の2人は、インスタグラムのフォロワー数が600にも満たない無名バンド、サイコヘッズ(Psychoheads)のヴォーカルを務めるヒトシ・ヴァイオレット(Hitoshi Vioret)とギターのワイロウ(Yllow)。共に20歳の大学生だ。「マーティン ローズ」は、遠く離れたイギリスからどのようにして素人同然の若者2人を発掘し、モデルに起用したのだろうか。狂気じみたバンド名と2人のルックス、そしてバンドマンという3大警戒要素がそろっていたため、緊張感を持って取材現場であるワイロウの自宅に向かった。しかし玄関で出迎えてくれたのは、絵に描いたような好青年だった。

「最初はスパムメールかと思った」

WWD:「マーティン ローズ」の映像に起用された経緯を教えてください。

ヒトシ・ヴァイオレット(以下、ヴァイオレット):ブランドのキャスティングディレクターからインスタグラムのDMで「出演できるチャンスがあるから、オーディションを受けないか」と昨年の夏にいきなりオファーが届いたんですよ。

ワイロウ:イギリスに知り合いがいたわけでもないし、最初はスパムメールかと思ったよね。僕らが高校のときから流行していたブランドだったので、本当にビックリ。本当は半年以上前に撮影する予定でしたけど、延期が続いたので無くなるのかドキドキでした。

WWD:どういった部分が評価された?

ヴァイオレット:何なのでしょうね。世界中の国でキャスティングしていたので、日本人を探していたらたまたまキャスティング・ディレクターの目に止まったんでしょうか。デザイナーのマーティン・ローズは音楽が好きなので、僕らがバンドをやっていたのも大きいのかもしれません。

ワイロウ:でも僕らの後にドレイクが出るのは本番の映像で初めて知ったから、びっくりしましたよ。撮影中はどんな仕上がりになるかを知らされなかったので、本番を見たらかっこよくてうれしかったです。

WWD:撮影の様子は?

ヴァイオレット:まずはムード写真やイメージが送られてきて、それらを参考に撮影しました。当日はブランドのスタッフ4、5人からZoomで指示を受けながら、スマートフォンで撮影したんです。指示は「自由に盛り上がって!」だけ。だから本当にアドリブなんです。

ワイロウ:遠隔で指示をくれるスタッフも子どもの面倒を見ながらだったので、自由な感じで面白かったですよ。撮影場所は、サポートしてくれた工藤司「クードス(KUDOS)」デザイナーのアトリエでした。最初は全く気づかなかったのですが、部屋中にブランドのポスターが貼ってあって「おお、ここってあの『クードス』のアトリエじゃん!」って。

WWD:公開後の反響はどうだった?

ワイロウ:インスタグラムで外国人のフォロワーが増えましたね。まあ、70ぐらいですけど。でもあの映像だけで僕らのことをフォローするぐらいなので、相当な変わり者かもしれないね(笑)。

ヴァイオレット:確かに。あとはやっぱり知り合いから「サイコヘッズがドレイクの前かよ」とは突っ込まれますよね。

WWD:音楽に興味を持ったきっかけは?

ワイロウ:僕は父親がミュージシャンだった影響が大きいです。中学生の頃にハードロックカフェに連れて行ってもらい、ディスプレーされているギターと写真を撮ることがうれしかったんですよ。この金髪のルックスも、スタジアムロックに憧れた名残かも。AC/DCは今でも大好きですし。

ヴァイオレット:僕はこんな感じですけど、中学生まで野球部でした。でも高校生の頃にロックに目覚めてザ・フー(The Who)を聴き始め、ザ・ストロークス(The Strokes)やザ・リバティーンズを好きになっていきました。

WWD:バンド結成はいつ?

ヴァイオレット:僕が大学の新入生歓迎会で3人に声を掛けました。楽曲は全て僕が手掛けていて、インディー・ロックやガレージロック、70’sパンクを中心に、結成当初はジーザス&メリーチェイン(The Jesus and Mary Chain)から影響を受けて制作していました。現在は約20曲発表していて、下北沢を中心にライブ活動をしています。

「たんぽぽハウス」に通うバンドマン

WWD:ファッションで影響を受けた人は?

ヴァイオレット:ロックスターたちですね。今日はザ・ ビートルズ(The Beatles)がライブで着ていた衣装を参考にし、パジャマにファーコートを合わせています。

WWD:なるほど。ヴァイオレットさんが今日の取材に30分遅刻したのは寝坊ではなかったのですね。

ヴァイオレット:違います。忘れ物をしてしまって。たまたまパジャマなだけで、寝坊ではないです。

ワイロウ:彼はいつもこういう自由な感じなので。すみません。

WWD:では、服はロックのスピリットを感じさせる「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」、もしくは国内だと「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」や「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」などを買う?

ヴァイオレット:いえ、「たんぽぽハウス」ですね。もしくは「ハードオフ」。お金がないので、リサイクルショップでとにかく安くてかっこいい服を貪欲に掘り起こしています。ときにはクーポン券も使いながら。サイコヘッズのメンバー4人は、全て僕がスタイリングをしているんですよ。ロックバンドの過去の映像を参考に、自分のフィルターを通してメンバーの私物から選んでいます。

ワイロウ:彼は記憶力がハンパないので、本当に全員分の私物を完璧に把握していて怖いんです(笑)。新しいものを買ったらすぐに反応してくるし。

WWD:憧れのブランドは?

ヴァイオレット:「セリーヌ オム」や「ゴーシャ ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)」が好きです。ワイロウも好きだよね?

ワイロウ:エディ・スリマン(Hedi Slimane)のスタイルはバンドマンとして憧れます。「セリーヌ オム」2021年春夏の“THE DANCING KID”は最初ピンとこなかったのですけど、何回もショー映像を見ているうちにじわじわと良さが分かってきました。僕らは「ディオール オム(DIOR HOMME)」の世代ではないけれど、彼が「サンローラン」を手掛けている頃から夢中でした。ただ学校にもこういうファッションで通うから、知らない女子学生のインスタストーリーズに勝手に載せられるんですよ。まあ目立つのは当たり前なんですけど。

ヴァイオレット:その割に全くモテないけどね。

WWD:将来の夢は?

ヴァイオレット:ミュージックステーションに出演することです。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2024-25年秋冬パリコレ特集 デザイナーたちからの提案「何気ない日常を特別に」

3月18日発売号の「WWDJAPAN」は、2024-25年秋冬パリコレクション特集です。2月末から3月にかけて約100ブランドが参加して開催されたパリコレを現地取材し、その中で捉えた次なる時代のムード、デザイナーの視点をまとめました。ファッションデザイナーたちから届いた大きなメッセージは「何気ない日常を特別に」。戦争、物価高騰、SNS疲れと私たちを取り巻くストレスはたくさんありますが、こんな時代だ…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。