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デフレ時代に「スタバ」が支持され続けた意味 エディターズレター(2021年6月30日配信分)

※この記事は2021年06月30日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

デフレ時代に「スタバ」が支持され続けた意味

 スターバックスコーヒージャパンが現在の1637店舗を2024年末までに2000店舗に増やすと発表しました。人材確保のために、22年春からは高校生のアルバイト採用を認め、高校卒業見込み者の社員登用を一部で始めます。

> スタバが24年末に2000店舗体制へ 高卒の社員登用、高校生のバイト採用も開始

 スタバは今年で日本上陸25周年。今や店舗数はコーヒーチェーンでダントツの1位です。記事によると、2位のドトールコーヒー1080店舗(5月末時点)を大きく引き離しています。

 この数字は少し意外な感じがしました。

 日本の飲食チェーンの分野別の最大店舗数は、ハンバーガーのマクドナルド、ファミレスのガスト、牛丼のすき家、居酒屋の鳥貴族といったように、低価格を売りにした店が覇権を握ることが多いからです。1990年代のバブル崩壊後、底なしのデフレに突入した日本のマスマーケットではそれが当たり前でした。アパレルでもこの四半世紀で店舗を増やし続けたのは、「ユニクロ」(800店舗以上)、「ファッションセンターしまむら」(1400店舗以上)、「西松屋チェーン」(1000店舗以上)、「ワークマン」(900店舗以上)といった低価格を武器にした業態ばかりです。

 一方、スタバの価格はコーヒーチェーンの中でやや割高です。いや正確にはスタバの成功を受けて、同じような価格帯を狙ったカフェ業態が次々に開発されたので、現在ではそれほど割高感はないかもしれません。ですが、96年に上陸した際には、多店舗化を前提にしたコーヒーチェーンで1杯200円以上の価格は難しいと言われていました。それを安売り競争に巻き込まれることなく、店舗数でも他を圧倒する規模に成長させた手腕は見事というほかありません。魅力的なメニューはもちろんですが、ペーパーカップやタンブラーを持ち歩くスタイルや、家でも職場でもない「サードプレイス」という概念を日本に浸透させました。スタバは日本に従来からあった喫茶店とは異なる、新しいコーヒー文化を作ったのです。

 スタバは現在グローバルで3万3000店舗を展開する世界一のコーヒーチェーンですが、米国以外で初めて進出したのが日本でした。当時スタバを日本に導入したのは、サザビーリーグ(「ロンハーマン」「エストネーション」「アフタヌーンティ」などを運営)の角田雄二氏と鈴木陸三氏の経営者兄弟です。海外のファッション、食、ライフスタイルを紹介する「目利き」として知られるサザビーリーグですが、スタバはその最大のヒット事例になりました。日本での大成功を受けて、グローバルでの出店拡大が始まります。サザビーリーグは2014年にスタバの日本法人の株式を売却して経営から退きましたが、日本に新しいコーヒー文化を根付かせるのに果たした役割は大きかったといえます。

 多くのビジネス書などでも指摘される通り、スタバの成功は単に美味しいコーヒーを提供したからではありません。コーヒーを通じた体験価値にこそ本質があります。だからこそ、日本中に店舗を行き渡らす普遍性を持ち得た。

 ファッション業界はデフレの波に巻き込まれ、低価格競争や値引き乱発の消耗戦に陥りがちです。低価格競争の土俵に乗らずにナンバーワンのシェアを確立したスタバには学ぶべき点が多いと思います。

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