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コーセーHD新社長は“コーセーを知り尽くした”澁澤宏一氏 「半分は小林コーセーの血が流れている」会見の一問一答

コーセーは10月31日、持株会社体制移行に伴う社長交代の緊急会見を本社で実施した。2026年3月27日付で澁澤宏一常務がコーセーホールディングス社長グループCOOに昇格し、現社長の小林一俊氏は、代表取締役会長グループCEOに就任する。社長交代は約19年ぶりで、創業家以外からの社長選出は初めてとなる。

澁澤常務は1984年に入社。国内の営業やマーケティング部門で17年を過ごし、当時小林社長がマーケティング本部長を務めていた時期に、直属の部下としてともに働いていた。その後、海外事業に携わり、グローバル展開や経営管理体制の構築において重要な役割を果たしてきた。最近では、ガバナンスやコンプライアンス、リスクマネジメント分野での貢献が評価され、まさに「コーセーを知り尽くした人材」として小林社長から信頼を受け、白羽の矢がたった。

澁澤常務は「(持続的な成長と企業価値向上を目指す)『ビューティーコンソーシアム構想』の具現化に向けて、経営執行の責任者、実行推進役として国内外の各事業を統括し、ガバナンスを効かせていくとともに、一層の連携を図りシナリオ効果を発揮させ、グローバル市場での成長加速、稼ぐ力の再構築、強い事業基盤づくりを指導していくことで、企業価値の向上を目指してまい進する」と力強く述べた。また、「小林社長と両輪となって、創業の精神をしっかりと継承しながら、失敗を恐れずに新たなチャレンジをしていく」と意気込みを語った。

メディアとの一問一答は以下の通り。

――いつからこの考えを固めたのか。

小林一俊コーセー社長(以下、小林):4、5年前から考えていたが、澁澤には今年の4月か5月頃に伝えた。彼は相当びっくりしていた。

澁澤宏一コーセー常務(以下、澁澤):話を持ち出されたとき、まさに晴天の霹靂。稲妻が走り、何度も聞き返した。「俺の気持ちは変わっていない。前から思っていたんだ」と言われ、こんな私でお役に立てるならと思い、その場で決断した。有無を言わさぬ雰囲気だったので(笑)。

――今回、創業家以外で引き継ぐ理由は。

小林:私も社歴が来年で40年となり、社長職は20年経つ。投資家やアナリストから後継者育成について質問されるようになり、常に考えていた。会社の規模が3000億円を超えると、一人の社長がすべてを把握するのは限界があると感じた。グループのガバナンスを強化し、成長を加速させるためには、このような体制が最適だと考えた。

澁澤:私は小林家とは姻戚関係はないが、創業80年のうち、40年以上コーセーで働いているので、半分は“小林コーセー”の血が流れていると感じている。小林社長とは長年の付き合いがあり、アルビオンやコーセーコスメポートなど各企業との関わりも深く、小林家とのつながりも多い。そういった意味では、「創業家」との関係に左右されることなく、自分の仕事を十分に進められると思っている。

――代表2人体制となるが、役割分担はどうなるのか。

小林:私は引き続き代表権があるグループCEOとして最終的な経営責任を担うが、業務執行の最前線では、イベントや行事が多く優先的に時間を費やしている。特にコロナ禍以降、海外に行く機会が減少した。グローバルでの成長に向け、M&Aや業務提携、海外市場の視察に時間を割きたいと考えた。業務執行は澁澤に任せ、私は舵取り役として連携を強化したい。

澁澤:私はグループ全体を見て、各事業会社がシナジーを生み出せるように統括する。「求心力」と「遠心力」のバランスを取り、企業価値を高めることを目標にしている。

持株会社が「求心力」を発揮し、経営の方向性を示す一方で、各事業会社がそれぞれの「遠心力」を生かしていく。「求心力」とは、創業家が80年以上にわたって築き上げてきた強みやオーナーシップによる力であり、これまでの持続的成長やスピーディーな意思決定のスタイルを維持しつつ、ホールディングスとしてのガバナンスを効かせ、シナジーを創出することを目指す。

一方、「遠心力」は、各事業やブランドが持つ独自の個性を指す。その個性をさらに磨き上げていくことが重要だ。過度なガバナンスの強化がブランドの独自性を損なうことのないよう、各ブランドが個性を最大限に発揮できる環境を整えることが最優先課題。ブランド同士が切磋琢磨し、時には競い合いながらも、協力し合うことでシナジーを発揮し、重複する業務の無駄を省き、効率的な運営を進めることが不可欠だ。

――澁澤常務は社長としてどのような変化を求めていくか。

澁澤:まず、グローバル化を進めたい。コーセーは相当立ち遅れている。タルトの買収を契機に海外売上比率が一時50%を超えたが、現在は30〜40%にとどまっている。今後は海外比率50%以上を目指し、グローバルで利益を確保する体制を構築したい。また、グローバル化に向けた体制強化も進めており、10月からは日本ロレアル副社長を歴任した齋藤匡司氏が新たに加わり、力強く、パワフルに取り組んでいくことに期待している。

グローバル展開に加え、DXも進めていく。特にECの分野を攻めていきたい。コーセーは当初、取引先との関係を考慮し、EC事業の展開を抑制してきたが、今やそういう時代でもない。自社EC「メゾンコーセー」は堅調に売り上げを伸ばしており、アマゾンや楽天市場、アットコスメなどのリテーラーともいい付き合いができている。今後はこれらを有機的に統合し、さらなる成長を目指す。

――グローバル化においてM&Aの比率と既存ブランドを育てていく割合は。

澁澤:M&Aは縁だ。どんな規模のものが、どういう形で手に入るかはなかなか想定がつかない。ある程度、既存事業を伸ばすだけでは少し物足りないとも感じており、M&Aによって実績拡大に寄与させていきたい。

――M&AやDXの専門チームは拡充する予定か。

澁澤:M&Aのチームはまだそこまでではないが、DXについては強化していく。少なくとも私は「M&Aありき」ではないと考えている。私たちが目指している「ビューティーコンソーシアム構想」は、M&Aだけでなく、ライセンス提供やODM、販売の移譲、共同研究など、さまざまな形で企業同士が連携する枠組みをつくっていくのが根底にある。

たとえばミルボンとの連携では美容室ルートの開拓、マルホとの協業では医薬品分野の拡充が見込める。つまり、M&Aだけではなく、幅広い提携を通じて「ビューティーコンソーシアム」を築いていくことが重要だと考えている。今後もそうした取り組みを精力的に進めていく。

小林:海外案件の事業提携やM&Aは私が中心に見る。国内案件についても、これからまだまだ多くの可能性があると考えており、そうした取り組みは澁澤を中心に進めてもらう予定だ。

――「VISION2026」で2026年までに売上高5000億円を掲げている。事業成長のスピード感についてはどう見ているか。

小林:海外で成長していこうとすると、これまでのやり方ではなかなか難しいというのは、私自身も常々感じていた。反省点として、少なくとも2〜3年に1ブランドくらいは新たに加わってきているべきだったかなというのが一つ。また、グローバル化についても、日本の化粧品会社がアジアでは通用しても欧米では売り上げ、特に利益を出せない状況を競合を通して見てきたため、われわれも少し臆病になっていた部分があった。積極性が足りなかったと。ECについてももっと早く取り組むべきだった。

もう少し加速させておくべきだったという反省から、どんな体制がふさわしいかを考えた結果、現在の日本市場においてグループ各社がバラバラに動いているのは、無駄・ムラ・無理があると判断した。そこで今回の体制に変更したわけだ。明らかにこれまでよりスピードは上がっていると思うが、来年すぐ成果が出るかはやってみないとわからない。3月以降を楽しみにしてもらいたい。

最後に澁澤常務に座右の銘を尋ねると、「渋沢栄一さんが大好きなんです」と微笑みながら、渋沢栄一が座右の銘とした「吾日に吾身を三省す(われひにわがみをさんせいす)」を挙げた。

「毎日、自分自身を振り返り、反省する。本当にいい言葉だと思うのです」と穏やかに語った。

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