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連載 エディターズレター:FROM OUR INDUSTRY 第275回

「ヤバいほど悪くない」状況は、ヤバい エディターズレター(2021年4月9日配信分)

※この記事は2021年04月09日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

「ヤバいほど悪くない」状況は、ヤバい

 その昔アメリカで働いていた頃(インターンに毛が生えた程度のアシスタントですw)、携わっていた雑誌の編集長から「来月号の売り上げが芳しくなかったら休刊だ」という最後通牒を受けたことがあります。ようやく掴んだ仕事がなくなるかもしれないショックは決して小さくありませんでしたが、それ以上に印象的だったのは先輩たちの変わりようと、結果、誕生した雑誌でした。

 それまでと、全然違うのです(笑)。もはや第二の創刊でした。いきなり新連載が始まったり、反対に突如終わったり、ずっと白人モデル1人だった表紙は白人と黒人、アジア人の3ショットに変わりました。とは言え、それでも売れ行きは微増にとどまり、結果、雑誌は休刊。私はクビになりましたが(笑)、キン肉マンで言うところの「火事場のクソ力」のパワーを感じました。

 考えればアメリカって、そういう勢いがありますよね。「ヤバい」って感じた時の大英断と瞬発力、そこには見習うべきが多いと思っています。“「ヤバい」からの大英断”で私が思い出すのは、ラルフ ローレンです。2017年、3年前にオープンしたばかりのニューヨークの5番街にあった旗艦店を、おそらく違約金も含めて400億円以上負担して数週間でクローズしたときは、正直「どれくらいヤバいんだろう?」と思ったものですが、その大英断と、そこからのシフトには目を見張るものがありました。DX、ラグジュアリーへの傾倒からファミリーという価値観のアピールへのシフトチェンジ、復刻と定番で若年層&かつてのファン層に再アプローチなど、矢継ぎ早の新戦略は日本においても顕著。気付けば今春、私たちが百貨店に好調ブランドを聞いたビジネスリポートでは、「ポロ ラルフ ローレン」の名前がバンバン登場しています。「ヤバい」という危機意識の強さ、大胆な止血、そこからの復旧ではなく復興は、私にとって1つのお手本です。

 ということで大事なのは「ヤバい」という危機意識を、いかに素早く、そして強く持てるか?だと思う今日この頃。相変わらず旧態依然な場面に遭遇すると「はぁ……」と思って顔に出てしまうのは悪いクセですが、最近は「この危機意識の違いはどこから?」と考えます。

 答えの1つは、「まだ、中途半端に、2、3年は頑張れそうなくらい、悪すぎるワケじゃない」という現状なのかな?と思います。歯切れの悪い言葉の羅列ですが、事実だと思います。私がアメリカで携わった雑誌は、「もう、最終段階で、次はないくらい、悪い」だったワケで、結果、成果は収められませんでしたが「第二の創刊」につながりました。ラルフも、おそらくまぁまぁ厳しい現実に直面し、結果、英断的止血から復興までを短期間で手中に収めています。「まだ、中途半端に、2、3年は頑張れそうなくらい、悪すぎるワケじゃない」が「もう、最終段階で、次はないくらい、悪い」だったら、どうなるのでしょう?

 「まだ、中途半端に、2、3年は頑張れそうなくらい、悪すぎるワケじゃない」って思っちゃうときは、「じゃあ、4、5年後は?」と考えたいな、と思います。予想する未来は、多分「悪すぎるワケじゃない」よりもさらに一段階「悪い」状況ですよね?それを想像したら、「火事場のクソ力」を手に入れられるだろうか?そんなことを考えるのです。

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