ファッション

アメリカ生活で思い出す「アジア人とゲイ」︎ エディターズレターバックナンバー

※この記事は2020年7月3日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

アメリカ生活で思い出す「アジア人とゲイ」︎

 アメリカにいた頃、「アジア人は、ゲイと同じ“くくり”なのか」という体験を度々経てきました。例えば私がトートバッグを持ってF.I.T.(ニューヨーク州立ファッション工科大学)に通えば、クラスメートは「トートバッグを持つ男の子は、ゲイがアジア人のどちらかよ!!」と驚きました。「へぇ、そうなんだ」と素直に驚き返し、以後しばらくトートバッグで通学し続けました(笑)。いちいち反応する彼女は、確か南部の田舎町出身で、妙に納得したのを覚えています。どちらもステレオタイプな先入観に縛られていた、という話です(苦笑)。

 ゲイ向けのライフスタイル誌「OUT」で下っ端として働いていた頃は、上司から度々「乱暴なくらいに言い切ってしまえば、アメリカでモードに興味がある男性は、ゲイかアジア人がほとんどだよ」と主張され、妙に納得した記憶があります。私も当時の上司同様乱暴に言い切れば、白人を中心としたアメリカ人には「マッチョ」なカルチャーが潜んでいます。「男らしくあれ」という価値観です。だから体を鍛えるし、スーパーボウルやNBA、大リーグなどのスポーツをビール片手に楽しむし、モードには興味のないフリをすべく「オールドネイビー」のTシャツを選ぶ(かなり乱暴に括っています)。比してアジア人とゲイは、そんなカルチャーにそこまで縛られておらず、モードに興味を持つ人が少なくない。それは、遠からず、です。

 とは言え、ゲイに似た傾向もある(かもしれない)アジア人が、ゲイと一緒に“くくられる”ことを潔しとはしないことを表明した“事件”もありました。これも私がアメリカにいた頃、男性向けのライフスタイル誌「DETAILS」(すでに休刊)が巻末に掲載した「Asian or Gay?」というページが大炎上したのです。この「~~ or ーー」というページは、「~~」と「ーー」にスタイル上の共通項を見出し、「こんなアイテムを持っている人は、~~かーーのどちらかかもね!?」とクスリと笑わせます(15年を経た今振り返るとアブナイ企画ですね)。そこで「こんなスタイルの人は、ゲイかアジア人かもね!?」と訴えたら、大炎上。「アジア人は、みんなゲイじゃない!!」という当然の反応から、「そもそも、どっちでも良くない?」という企画そのものをバッサリ切り捨てた意見までが噴出し、「DETAILS」のオフィスにはアジア人が集結。スタッフに卵を投げるなどの抗議活動は数日続いた記憶があります。結局「DETAILS」は、この人気企画を終了しました。アジア人の怒りの背景には、やっぱり人種で一般化された上で差別・区別されてきた経緯があるのでしょう。なのに再び、乱暴に一般化されたことにキレたのです。余談ですが、「DETAILS」のこの企画、タイトルは度々「~~ or Gay?」だったと記憶しています。今思えば、やっぱりモードへの興味が強いゲイを読者としたかったのでしょう。

 「OUT」で働く前にインターンしていた出版社では、直属のメンターがアジア人の女性でした。初日に「あなたの英語は、ネイティブの数段下。だから、記事を書けるなんて思わないで」というジャブを喰らい、以後もメッチャ厳しかったのを覚えています。何度もキレそうになりましたが、その彼女の上司から「アジア人の彼女が、出版社で編集者のポジションを獲得するのは大変だったハズ。虚勢を張らなきゃ、生きていけなかったんだよ」と教えてもらい、「なるほど」と思いました。BLM運動が社会を変えそうなムードですが、問題はBlackに限りません。Asianも、GayのLivesもMatterなのです。

 そう考えると、下のリンクで紹介する、GayとAsianの造語「Gaysian」は、考えざるを得ませんね。小柄なアジア人や柔和な人も多いゲイを、上述したアメリカならではの「マッチョ」なカルチャーという基準で差別・区別しています。リンク2本目の記事で黒人トランスジェンダーが語る通り、BLM運動があらゆる差別の解消につながればと願うし、その先陣に立つのは区別・差別してきた白人なのでしょう。

 日本の、こうした根深い問題って、なんでしょう?最近は、そんなことを考えます。

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