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「まじめな経営者が会社をダメにする」 ワークマン土屋氏が初の著書で伝えたかったこと

 コロナ禍でも2ケタ成長を維持したワークマン。その仕掛け人である専務取締役の土屋哲雄氏が初の著書「ワークマン式『しない経営』」(ダイヤモンド社)を出版した。三井物産の商社マン時代に数々の新規事業で実績を作った土屋氏は、還暦直前にワークマンに入社。繊維ファッション分野の経験が全くなかった土屋氏が、どうやって作業服店の企業風土を変えたのかが詳細に書かれている。

WWD:昨年以上にメディアの露出が多い1年でした。

土屋哲雄専務(以下、土屋):特にテレビではたくさん取り上げてもらいました。1月から11月末まで東京のキー局だけで129番組。宣伝費に換算すると45億円に相当するらしいです。

WWD:過酷ファッションショーの開催(10月1日)と新業態「♯ワークマン女子」のオープン(10月16日)はニュース番組でも紹介されました。

土屋:ランウェイに雨や雪を降らせた過酷ファッショショーがテレビで取り上げられ、その興味の延長で「#ワークマン女子」に火がついたらラッキーだと考えていました。われわれが欲を出すと「とらぬ狸の皮算用」で終わることが多いのですが、今回は見事に当たりました。

WWD:土屋さん自身が時の人になり、10月20日には初の著書も出版しました。

土屋:お察しの通り、これも「#ワークマン女子」の出店のタイミングに合わせて書き始めました。ですから10月は過酷ファッションショー、「#ワークマン女子」のオープン、本の出版の3点セットで盛り上がりを作ろうとしたわけです。

WWD:どんな読者を想定して書きましたか?

土屋:特定の人を想定したわけではありませんが、しいていうなら世の管理職や経営者ですね。私が一番言いたかったのは、管理職や経営者は真面目すぎて会社をダメにしているということ。達成もできない中期経営計画を策定して、よせばいいのにそれを部署や社員にブレークダウンしてプレッシャーをかける。すると、優秀な社員ほど早くあきらめる。達成できるはずがないと分かるので、やっているふりをする。3年も経てば社長が変わってリセットされるので、それまで何とかやり過ごす。そんな空気が日本の企業には蔓延しています。

かくいう私も商社時代は経営企画室で中計を立案する側にいたこともあります。偉そうなことはいえません。この本に書いた「しない経営」は私の過去の反省に基づいたものなのです。

WWD:三井物産時代の経験はワークマンにつながっているのですか?

土屋:商社時代はさまざまな新規事業の立ち上げに関わりました。飽き性なので、すぐ新しいことをやりたくなってしまう。ただ私がやってきたのは、いずれも売上高100億円、利益10億円の規模。総合商社のモノサシでは小規模なビジネスに過ぎません。

対してワークマンは深掘り型の会社でした。私のように目移りせずに40年も作業服一筋でやってきた。入社して驚いたのは現場のスタッフのレベルの高さです。緻密な運用マニュアルや作業指示書などを若い社員が作っている。一つのことを愚直に深掘りする文化はすごいなと思いました。でも、これだけの仕事しているわりに給料は安い。ですから、年収の100万円のベースアップを5年でやると宣言し、そのために方針を発表しました。

WWD:本の大きなテーマである「データ経営」ですね。

土屋:私が入社した2012年の時点では、店舗在庫の数量データすらありませんでした。逆にいえば、深掘りのワークマンがデータを活用すれば、ものすごいことができるという予感があった。私をワークマンに呼んだ叔父の土屋嘉雄氏(当時ワークマン会長、ワークマンの親会社ベイシアの創業者)からは、「しばらくは何もするな」と言われました。小さいことをするな、商社時代のように100億円くらいの新事業を作られても迷惑だという意味だったのでしょう。ですから私は2年間ほとんど口出ししませんでした。

そのかわり社員の話をじっくり聞きました。(各エリアの店舗を統括する)スーパーバイザー(SV)の営業車に同乗し、1日3店舗くらいを回ります。私の目的は店舗の視察ではなく、助手席でSVと将来の目標や目下の課題について話すことでした。外から来た人間がいきなり劇薬のような改革を行なって現場はついてきません。まずデータ活用の効能を腹落ちしてもらうことが大切です。エクセルの勉強会から始めました。

WWD:AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が脚光を浴びる中、なぜエクセルなのですか。

土屋:AIはもっと安くて実用的になるのを待っても遅くありません。大事なのは立派なデータ分析ソフトを導入することではなく、データを活用して社員一人一人が自分の頭で考えること。AIでは相関関係は分かっても因果関係が分かりません。現場で困っている社員がデータを基に実験して、「なぜそうなるか」を発見するしかない。

例えば、ある社員が売れ筋なのに仕入れされていない製品を浮かび上がるツールを作りました。SVはこの結果を店長にみせればいい。エクセルなら習得すれば誰でも作れるし、更新できる。エクセルでかなりのことが出来るんですよ。外から傑出したデータサイエンティストを呼ぶよりも、全員がデータを土台に議論をすることがはるかに理にかなっています。

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