新形コロナウイルスの感染拡大で、デジタル接客が広がっている。緊急事態宣言発令で店舗休業を余儀なくされてデジタル接客を始めたジュエラーが増加。物理的に対面で接客ができない状況下において、デジタル接客は売る側、買う側にとって便利なシステムだ。しかし、消費財と違ってデジタルで高額ジュエリーを販売するのはそう簡単なことではない。ここでは、「ショーメ(CHAUMET)」と「ブシュロン(BOUCHERON)」によるデジタル接客の現状についてリポートするとともに、その課題、そして可能性について探る。(この記事はWWDジャパン2020年12月21・28日号からの抜粋です)
パリ発「ショーメ」は5月11日、「サロン ド ショーメ オンライン(以下、ショーメ オンライン)」というサービスをスタートした。外出できない状況下で自宅にいながら、まるでブティックを訪れているかのようなサービスをLINEやZoomなどのアプリを使って提供するというものだ。スタート当初から好評で、利用者は新規や地方客が多い。特にマリッジリングについての相談が多く、約半数がオンラインで購入するという。
パリ発「ブシュロン」は5月25日に銀座店と心斎橋店で「ブシュロン リモートショッピング サポート(以下、リモートショッピング)」を開始。8月末には名古屋ミッドランドスクエア店でもスタートした。公式ホームページからメールやチャットを通して商品を購入できるというもので、クライアントサービスへ電話をすればショッピングの相談にも乗ってくれる。商品を見たいという場合には、知識豊富なブティックスタッフが要望に合わせた商品をフェイスタイムやTeamsを介して提案する「ビデオショッピング サポート(以下、ビデオショッピング)」も提供。利用状況は「リモートショッピング」の割合が高く、利用者はマリッジリングなど購入希望商品が決まっており、事前に十分情報を入手した後に連絡してくるようだ。一方で、地方客などには「ビデオショッピング」が好評。着用感の確認ができ、スタッフからパーソナルなアドバイスを受けられるからだ。ブライダルの需要が多いが、サイズの心配がないネックレスなどの需要もあるという。
ポイントはピント合わせ、2人体制で接客
接客される側の画面:リングに施されたディテールも丁寧に説明してくれる
接客される側の画面。リングの太さや着用感も見ることができる
接客は2人体制で。一人のスタッフがリングを着けて、もう一人がそれを映す PHOTO:CHIE FUKAMI
要望があれば、ショーメ銀座本店のブライダルサロンを映すこともある PHOTO:CHIE FUKAMI
使用するのはスマートフォンかPCで「ショーメ」ではLINE、「ブシュロン」ではフェイスタイムの割合が高いという。商品にカメラのピントを合わせるにはスマートフォンの方が便利だが、PCによる接客を希望する消費者もいる。ジュエリーはサイズが小さいので、相手にどれだけよく商品を見せられるかが一番のポイントだ。特にディテールや職人技を画面上で伝えるには、コツをつかむことが必要だ。
デジタル接客は「ショーメ」も「ブシュロン」も2人体制。別の商品や着用感を見たいという要望があるからだ。顔を見ながら接客ができるので、顧客の雰囲気を考慮に入れながら提案できるのがデジタル接客のメリットでもあり、それが購入につながるケースもある。
パーソナルなサービス提供が可能だが、サイズ選びが課題
事前に要望を聞いてそろえた“セルパン ボエム”のネックレスとリング PHOTO:SHUHEI SHINE
“セルパン ボエム”リング。ロードライトガーネット、PG。56万3636円©️BOUCHERON
“セルパン ボエム”ペンダント スモール。ダイヤモンド、YG。62万727円©️BOUCHERON
接客される側の画面、“セルパン ボエム”のリングが映し出されている PHOTO:SHUHEI SHINE
サイズの違うネックレスを重ね付けすることで、チャームのサイズ感が確認できる PHOTO:SHUHEI SHINE
PCでは、画面を反転させたり、工夫しながら商品を紹介する PHOTO:SHUHEI SHINE
接客される側の画面。チャームのディテールもよく見ることができる PHOTO:SHUHEI SHINE
デジタル接客のメリットは、安全で手軽、実際に商品を見せながらパーソナルなサービスを提供できる点。店舗がない地方客にとっては利便性が高く、ブランド側にとっても新規顧客獲得につながっている。また、海外からもサービスを受けられるという点もデジタル接客ならではだ。
難しいのは、リングのサイズ選び。デザインによりサイズが変わることもあれば、サイズ直しができない場合もある。「ショーメ」では、サイズが分からなかったり、不安がある場合は商品紹介だけし、来店を促している。「ブシュロン」では、公式ホームページにリングのサイズガイドがあり、サイズゲージを印刷するとリングのサイズが選べるようになっている。また、デザインごとのサイズ感を考慮に入れてアドバイスを行うなど、対面以上に入念な接客を行っているという。
デジタル接客にはリングのサイズ選びなどの課題があるものの、大きな投資をせずに新規顧客や地方客が獲得できるというデジタルならではの可能性がある。