「WWDジャパン」8月17日号のハイジュエリー特集2020では、コロナ時代のハイジュエリービジネスについて7社トップから話を聞いた。通常は7月にフランス・パリで開催されるオートクチュール・ファッション・ウイークで新作ハイジュエリーを発表するジュエラーが多いが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でデジタル形式での発表に切り替えたところが多かった。ここでは、各ブランドの新作ハイジュエリーおよび、本紙のハイジュエリー特集で紹介できなかったインタビュー内容を盛り込み2回に分けて紹介する。前編は「カルティエ(CARTIER)」「ブルガリ(BVLGARI)」「ミキモト(MIKIMOTO)」「タサキ(TASAKI)」4社のトップに話を聞いた。
【カルティエ】
デジタルを通じて顧客との
ユニークでより親密な関係を構築
WWD:新作ハイジュエリー“シュルナチュレル(SURNATUREL)”の見どころは?
アルノー・カレズ(Arnaud Carrez)=カルティエ インターナショナル コミュニケーション&マーケティング ディレクター(以下、カレズ):世界各地の顧客に向けて新作ハイジュエリーをバーチャル・プレゼンテーションで紹介した。コロナ感染拡大で今年は対面のイベントの開催ができないが、世界中の顧客との関係を維持するために異なる方法をとるしかなかった。フランス・パリの映像スタジオから、“シュルナチュレル”のテーマに着想を得て新作のデジタルプレゼンテーションを行ったのは初めてのことだ。テクノロジーのお陰でわれわれの顧客は、自然に対する現実の制限から解放された「カルティエ」の唯一無二のビジョンに存分に魅了されたはずだ。
WWD:コロナによる富裕層の消費傾向やマインドセットの変化についてどう考えるか?
カレズ:顧客の消費傾向の変化は明らかだ。ソーシャル・ディスタンシングのため、顧客はよりデジタルフォーマットやオンラインプラットフォームを活用するようになり、自宅または自宅から近い場所で商品を購入している。デジタルイベントは対面のイベントの代役というわけにはいかないが、われわれの顧客とのクリエイションをユニークでより親密な方法でつなげる役割を果たしている。
WWD:コロナ感染拡大によるジュエリービジネスへの影響は?その対応策は?
カレズ:状況が刻々と変化する中で、ジュエリー業界にどのような影響があるか予測するにはまだ早い。過去数カ月、われわれは大胆でクリエイティブな方法で顧客や消費者とつながる方法を見つけ出さなければならなかった。その試みの一つが、4月に初めて開催したデジタルプラットフォームを活用した“カルティエのウオッチメーキングとの出合い”というプレゼンテーションだ。われわれは新作ハイジュエリーの紹介を通して、新しいプレゼンテーションのフォーマットを模索し続けるつもりだ。デジタル発信による“シュルナチュレル”に対する反応はとてもよく、刺激を感じている。
【ブルガリ】
美とポジティブさの象徴である
ラグジュアリーの原動力と
可能性を信じる
WWD:新作ハイジュエリー“バロッコ(BAROCCO)”の見どころは?
ジャン・クリストフ・ババン(Jean Christophe Babin)=ブルガリ・グループCEO(以下、ババン):130年以上にわたりクリエイションの着想源であり続けたブランド発祥の地イタリア・ローマから、かつてないほどインスピレーションを得たコレクションだ。永遠の都と呼ばれるローマを象徴する絢爛豪華なバロック様式の建築物やアートをモチーフに、新作ハイジュエリーの独創的なデザインに反映させ、エキセントリックで洗練度の高いコレクションになっている。バロックは16世紀末から17世紀初頭にかけてにローマで生まれた芸術様式で、新作ハイジュエリーは、その時代を象徴するアーティストのカラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)やベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini)などからもインスピレーションを得ている。色とカットの大胆な組み合わせの宝石を用いて卓越したクリエイションとクラフツマンシップが際立つコレクションで、「ブルガリ」の真髄が凝縮されている。
WWD:コロナによる富裕層の消費傾向やマインドセットの変化についてどう考えるか?
ババン:厳しいロックダウン期間が終了した後、中国市場では人々の購買意欲が非常に高まり、それが実績となって表れた。厳しい状況や困難、制限といった状況に対するある種自然な反応だと考えられる。このような状況であるからこそ、ラグジュアリーの本質を見てもらえるチャンスだと思っている。そして、美とポジティブさを象徴するラグジュアリーは必要とされ、顧客だけでなくメディアを通じて全ての人へ発信することが必要だと考える。ラグジュアリーはパンデミックの終焉後に再生の重要な役割を担えるはずだ。
WWD:コロナ感染拡大によるジュエリービジネスへの影響は?その対応策は?
ババン:経済的、ビジネス的影響は区別なく全ての人に及んでいる。しかし、私はラグジュアリーの原動力と可能性を強く信じている。われわれは、立ち止まることなく経済活動の復興に貢献する活動を行っている。初期にはローマの医療機関やイギリス・オックスフォード大学への寄付を行い、コロナウイルスとの闘いを支援した。ビジネスに関しては、コロナ感染拡大の拡大阻止の基本を踏まえた上でコレクションの発表や戦略を再考し、デジタルをいっそう強化することで物理的に離れている顧客に情報をリアルタイムで伝え、つながれる環境を構築している。これは、新しい価値観と働き方であり、とても効率的で魅力的だと感じている。“バロッコ”に関しては、初めて専用アプリを通した発表を行った。顧客にアクセス権を発行し、アプリ内で自由に楽しめるフォーマットだ。コレクション全ての商品を24時間、年中無休体験できる。各ジュエリーの情報および360度画像、そしてカメラを通して仮想的にジュエリーを試着してポートレート撮影ができる試着拡張現実ツールも備えている。また、コレクションの背景やブランドの世界観を体験できるインタラクティブなコンテンツも充実させた。このアプリにより、顧客に高揚感と驚きを与える“バロッコ”アドベンチャーを提供している。今までとは全く異なるアプローチで効果的ではあるが、1億円以上のジュエリーを扱うという点では、困難なことや課題もあったのは事実だ。
【ミキモト】
サステナビリティが重視され
消費傾向は
“本物”と“多様性”へシフト
WWD:新作ハイジュエリーの見どころは?
中西伸一ミキモト社長(以下、中西):しなやかで美しい羽根を描いた“フェザー(FEATHER)”のコレクションをはじめ、「ミキモト」の普遍的な美とクリエイションを提供している。“フェザー”のモチーフは過去にも主にハイジュエリーで使用してきた。今回のコレクションでは、パール以外にダイヤモンドやジェイド、オパールなどを使用して新たな表現にチャレンジしている。また、今回のコレクションの“フェザー”は華やかなだけでなく平和で幸せを呼ぶイメージを盛り込み、時代を反映したものになっている。
WWD:コロナによる富裕層の消費傾向やマインドセットの変化についてどう考えるか
中西:コロナ感染拡大とともに、サステナビリティという価値が今まで以上に重視され、消費傾向は“本物”と“多様性”の方向に大きく変わりつつある。パールやダイヤモンドなどのジュエリーは次世代に継承できる持続性があり、普遍的なデザインは時代を超えたベーシックになる。「ミキモト」には、パールネックレスというどこにも負けない定番アイテムがあり、その価値がより評価される時代になった。品質に関するこだわりと普遍的なデザイン、企業姿勢への注目度はより高まり、ラグジュアリーブランドには欠かせない要素になると考える。
【タサキ】
消費意欲が低下しているときだからこそブランドの価値を磨き上げる
WWD:新作ハイジュエリー“リビング ネイチャー(LIVING NATURE)”の見どころは?
田島寿一TASAKI社長(以下、田島):「タサキ アトリエ(TASAKI ATELIER)」の新作の見どころは、ダイヤモンドとパールで有機的な曲線を描いた“オーロラ”と、ブルーからグリーンのグラデーションが美しい“フォレストヴァレー”が一推しだ。
WWD:コロナによる富裕層の消費傾向やマインドセットの変化についてどう考えるか?
田島:コロナが富裕層を含めた消費者全般のマインドセットに及ぼす影響の本質は、“知らないもの、よく分からないもの”に対する恐怖感だと思うので、ワクチンや治療薬ができれば再度消費に向かうはずだ。富裕層は一般消費者より早く消費活動を再開すると考えている。
WWD:コロナ感染拡大によるジュエリービジネスへの影響は?その対応策は?
田島:ジュエリービジネスに関しては、他の消費財とは異なり資産価値を認識できるものなので、買い物のリストから最初に削ろうということにはなりにくいだろう。富裕層に関しても、資産価値のあるジュエリーの購入に関しては他の消費財とは異なる動きがあると思う。この状況における最大のチャレンジは消費者との接点をどう保つかということ。デジタルを活用した販売チャネルを充実させたり、店舗の衛生管理を徹底して行うなど各社いろいろ取り組んでいると思う。消費意欲が落ち込んでいるときだからこそ、商品とブランドの付加価値を磨き上げることが大切だと考える。