米コンプレックス・ネットワークスは12月7~11日に、ストリートの祭典として世界的に知られる「コンプレックスコン(ComplexCon)」をデジタルで開催する。デジタル版を「コンプレックスランド(ComplexLand)」と名付け、これまで提供してきた物販や音楽ライブ、フードなどをバーチャル空間で展開。新型コロナの影響でさまざまなイベントが中止になり、混雑や行列を伴う「コンプレックスコン」も開催が困難となった。そこで新たに浮上したのが、バーチャル空間で行う“バーチャルコンベンション”だ。「コンプレックスランド」を検証する。(この記事はWWDジャパン2020年10月19日号からの抜粋に加筆しています)

WHAT’S ComplexCon?
「コンプレックスコン」とは、米コンプレックス・ネットワークスが主催するD2Cイベントだ。同社はスニーカーやファッション、アート、フード、テレビゲームなどを取り上げるウェブメディア「コンプレックス」の関連会社。“コン”とはコンベンションの略で交流の場を意味し、2016年にスタートした「コンプレックコン」はストリートとスニーカーの祭典として、これまでにLAのロングビーチで4回、シカゴで1回開催された。
ファッションだけでなく、パネルディスカッションやアートインスタレーション、フードなどの多彩なコンテンツが集結。村上隆やファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)がホストを務め、フューチャー(Future)やT-ペイン(T-Pain)、キッド・カディ(Kid Cudi)ら人気ラッパーの音楽ライブが行われることも人気に拍車をかけ、300ドル(3万1500円)もするVIP入場チケットが一瞬で売り切れるほど。会場限定アイテムのドロップ(発売)には、ブース毎に長蛇の列ができ、ときには暴動が起きるほどの熱狂ぶりで話題だ。
会場となるLAのコンベンションセンターは東京ドーム(4万6755平方メートル)の約半分の広さ。17年は、イベント全体の商品売上高が2日間で2000万~2500万ドル(約21億~26億円)、入場者数が6万人、出展者数が160ブースを記録し、世界最大規模のコンベンションとして広く知られることになった。
2つの世界を行き来する
プラットフォーム
“バーチャルコン”が
新しい市場を作る
「コンプレックスコン」が注目を浴びたのは、そこに集まるコミュニティーが魅力的だったからだ。村上隆の“スーパーフラット(アートのハイとロウの境界を曖昧化する概念)”という思想に影響を受けた「コンプレックスコン」の創設者であるマーク・エコー(Marc Ecko)が、「アディダス(ADIDAS)」や「ナイキ(NIKE)」などの有名ブランドとインディーズブランドを同じ会場に並べ、一般客と同じ場所にラッパーやデザイナーといった有名人を集めた。もちろん物販がメインではあるが、買えるか買えないか分からないレアスニーカーの行列に並ぶ体験そのものが大切だった。
「コンプレックスランド」はアバターを使った“バーチャルコンベンション”だ。売り方もそれぞれで、自販機もあれば接客もあり、火山から飛び出すドロップ(発売)も可能だという。バーチャル内で購入したモノは、洋服から食品まで自宅に配送できる。コロナ禍で大ヒットしたオンラインゲーム「フォートナイト(FORTNITE)」のように、チャット機能を使って友だちとコミュニケーションもできる。ECモールで洋服を探すだけでは味わえない体験が待ち受けているはずだ。
エコーは、過去の「WWDジャパン」のインタビューに「インターネットは人間味がないなと感じていた。(ウェブメディアである)『コンプレックス』はブランドとして大きくなったが、より成長するには、ネット上よりもリアルであることが大切ではないかと考えた。リアルで生まれたコネクションや発言はデジタルでは置き換えられないものだ」と立ち上げ当時の思いを語っている。奇しくも新型コロナでフィジカルを伴う「コンプレックスコン」は中止せざるを得なくなったが、当時とは打って変わってデジタルの影響力が強大になった。リアルとバーチャルの世界を本当の意味でフラットにできれば、「コンプレックスランド」が新しいプラットフォームを作る可能性もあるだろう。
「コンプレックスランド」を知る
10のキーワード
【1】入場無料
「コンプレックスランド」へは、世界中のどこからでもスマートフォンやパソコンからComplexland.comにアクセスするだけで、“無料”で入場できる。参加者は登録し、アバターのルックなどをカスタマイズ。操作方法に関する説明を受けるだけだ。
【2】アバター
「コンプレックスランド」で主役となるのはアバターだ。参加者はサイトを訪れ、登録し、アバターのルックを選択。ポリゴン黎明期のようなクラシックなスタイルで、課金すれば着せ替えなどのカスタマイズが可能。「『コンプレックスコン』はD2Cに成功したが、『コンプレックスランド』では“ダイレクト・トゥ・アバター”に取り組む」という。
【3】エリア
マーケットプレイスはエリア別に分かれており、それぞれ建物の作りや看板といったビジュアルや雰囲気、催しが変わる。現時点で公開されているのは「サンセットラグーン(SUNSET LAGOON)」。「4つのワイルドエリアがある」とも発表されており、街以外に火山などの自然物があるエリアも存在するようだ
【4】Eコマース
ショッピファイと提携し、各ショップのECに直接つながる仕組み。発送は各出展者が行う。Botは、「コンプレックスランド」でも問題視されており、技術者がテストとセキュリティー対策を繰り返している。
【5】ドロップ
「コンプレックスコン」をはじめ、ストリートカルチャーでは行列に並ぶことも体験の一つだった。リアルな世界では列に並んでモノを手に入れる仕組みが完成されているが、「コンプレックスランド」では違う。“ドロップ(発売)”に特定の場所は関係なく、商品は火山から飛び出せるし、空から落とすこともできる。通知が届き、該当箇所から手に入れる。
【6】イースター・エッグ
ここでいうイースター・エッグとは、宝探しのこと。出展者によって、「コンプレックスランド」のどこかに商品などを隠すことができるという。
【7】音楽パフォーマンス
DJによるプレイリストを流す予定だというが、“STAGE”でどのようなパフォーマンスが行われるかは未定。過去の例から見てもギリギリで大物ラッパーの出演が決まることも。
【8】コミュニティー
個人プレーが基本だが、リアルなイベントに参加した時と同じようにコミュニティーとつながっている感覚を築くことも重要だ。機能についてはまだいくつかを模索中だとはいうが、チャット機能を持たせるとか。
【9】ダイバーシティ
「コンプレックスコン」では、ブラックカルチャーを筆頭にした多様なブランドや活動が目立っていた。「コンプレックスランド」でも変わらず、有色人種や女性などの多様な独立ブランドやアーティストの参加を予定している。
【10】テクノロジー
デザインやテクノロジー開発は米JAM3が担当する。“新しい形のグローバルな世界を再考する”をコンセプトに、体験を通してリアルとバーチャルの世界を行き来させる狙い。噂では、開発に数億円かかっているとか。
“チケットや移動は必要ない。世界中のどこからでも無料で参加できる”
WWDジャパン(以下、WWD):新型コロナウイルスによるパンデミックで「コンプレックスコン」はどのような影響を受けたか。
ニール・ライト「コンプレックスランド」コラボレーション・エクスピリエンシャル部門長(以下、ライト):早い段階から「コンプレックスコン」が開催の危機にあると分かっていたので、5月には延期を決定した。2021年には開催できると期待している。
WWD:「コンプレックスランド」には、これまでアドバイサーとして参加していた村上隆やファレル・ウィリアムスの参加はあるか?他に参加が決まっているアドバイザーは?
ライト:著名人がイベントに参加することは決まっているが、村上隆やファレル・ウィリアムスといったアドバイザーのポジションではない。その理由は「コンプレックスランド」と「コンプレックスコン」の運営の違いにある。
WWD:「コンプレックスコン」では入場チケットを販売していたが、「コンプレックスランド」での入場料は?
ライト:「コンプレックスコン」とは違って「コンプレックスランド」は完全無料。チケットや移動の必要はなく、世界中のどこからでもスマートフォンやパソコンからComplexland.comにアクセスするだけで参加ができる。どのくらいの人が参加するのか楽しみだ。
WWD:従来の「コンプレックスコン」のように、スニーカーが発売アイテムの目玉になるのか?
ライト:目玉となるようなスニーカーのリリースは予定している。ただ、一番の楽しみは「コンプレックスランド」そのものにある。
WWD:既に参加を表明しているブランドやメーカーがあれば教えてほしい。
ライト:この数週間のうちに公表していくつもりだが、70を超えるブランドやリテーラー、アーティスト、レストランの参加が決まっている。参加形態は一つのアイテムのリリースから、ポップアップなど規模感はさまざまだ。
WWD:デジタル上では参加者に平等に購入権利があるのかが問われるが、Bot(自動化されたタスクを実行するコンピュータープログラム)対策や、公平性を保つための施策は?
ライト:「コンプレックスランド」を盛り上げる要素の一つはドロップだ。目玉となるアイテムは非公開で、開催中のどこかでランダムにリリースされる。事前に場所や時間を発表しないので、アバターで探す必要がある。そして、われわれは1カ月を使って、「コンプレックスランド」で起こりうるあらゆる問題をテストする期間を設ける。Bot対策は優先度も高く、第三機関と連携して対策を練っている。登録の段階で怪しいアカウントを摘出できるよう登録作業の設計を進めている。
WWD:近年、「ナイキ」が国外へのシッピングを禁止するなど、ブランドにより配送可能な範囲が異なると思うが、「コンプレックスランド」では、世界中から購入の権利はあるのか?配送は出展ブース次第?
ライト:私たちは全ての製品がグローバルにアクセスできるものになって欲しいと思っているが、配送可能な範囲は出展者に任せることになる。
WWD:イベントの売上高の見込み、入場者数のキャパの想定は?
ライト:売上高の見込みについてはコメントを控える。入場者数については、「コンプレックスコン」とはイベントの形態や参加方法が異なるので想定は難しい。チケットや移動も必要なく、ハードルはかなり下がっている。
WWD:立ち上げたプラットフォームを継続運営していく予定はあるか?
ライト:「コンプレックスランド」は来年以降も何度か開催されるとても面白いイベントになるはずだ。物理的なイベントにはスペースやキャパシティーに制限があるので、
「コンプレックスコン」を補うものとしても最適だと考えている。
“バーチャルコン”はOK?NO?
「コンプレックスランド」は出展者にどう映っているのか?「コンプレックスコン」に1回目から出展してきた「アトモス(ATMOS)」と、昨年までに2回出展した「オールウェイズ アウト オブ ストック(ALWAYS OUT OF STOCK)」に聞いた。
■OK派
3月に開催予定だった「アトモスコン」が中止になり、それをきっかけに会社としてもいろんなことを精査して、よりデジタルにマインドを寄せて行った。実際に店舗の売り上げをカバーしたのもデジタルでの売り上げ。それで分かったのは僕らのお客さんである若い子たちはデジタルに抵抗がない。洋服と違って自分のスニーカーのサイズも分かっている。
逆に一つ心配しているのは、デジタルで買うことに慣れ過ぎちゃうこと。今はスニーカーの並びも作れないので、コロナが終わったときに店舗が果たしてどうなるか、店舗の意味が試されると思う。
「コンプレックスコン」はこれまでLAかシカゴに行かないと参加できなかった。それがグローバルになったので、どの国のどのエリアにいても参加できる。そういうボーダレスな部分はデジタルの良さ。僕たちも「コンプレックスランド」に出展するが、5日間分の商品を用意するのは難しい。参加無料だし何十万体もアバターがいたら、一瞬で売り切れる可能性もあるだろう。やってみないと分からない点は多いが、まずはポジティブに捉えている。
■NO派
出展者としてのコンベンションの良さは、人と接しながら対面で売れることにあると思う。「オールウェイズ アウト オブ ストック」は服をリアルに触ってもらって良さを知ってもらいたいが、ウェブ上ではそれができない。それに、例えば何百というブランドが出展した場合は、ブランド力がものを言うだろう。それなら僕は自社ECで売った方がいいんじゃないかと考える。デジタルでは、転売すればお金になるようなモノは売れると思うけど、本当に好きな人に届けるのが難しいのではないだろうか。
僕も消費者として「コンプレックスコン」に参加していた時期もあるが、その場で買ったものを持ち帰られるうれしさもあったし、出展すれば、その場でしか出会えない海外のバイヤーらと出会えたりする醍醐味もあった。「コンプレックスランド」が、若い子たちの“転売屋さんごっこ”にならなければいいけれど。
ただ、アバターで買い物をするのは恐らく史上初めての試みだと思う。今っぽい売り方だし、非常に興味がある。想像を上回ってくれることを期待している。