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ショッピングモール運営会社がブランドを買収する理由 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。経営破綻したフォーエバー21、ブルックスブラザーズ、J.C.ペニーなどの再建計画に登場するデベロッパー企業の狙いとは?

 J.C.ペニー(J.C.PENNY)が連邦破産法11条の適用を申請し破綻したのは5月のことだ。大きな企業だけに利害関係者が多くプロセスに時間がかかることが予想されたが、一方で時期が時期だけに赤字が膨らみ早急に対処しないとケガが大きくなることも見込まれ、債権グループが急ぎ調整したようで救済計画が発表されたのは9月のことである。

 買収で合意したのはモールを運営するサイモン・プロパティ・グループ(以下、サイモン)とブルックフィールド・プロパティ・パートナーズ(以下、ブルックフィールド)だ。サイモンは破綻したフォーエバー21(FOREVER21)とブルックスブラザーズ(BROOKS BROTHERS)の買収にも絡んでいるのだが、ショッピングモール運営企業がテナント企業を買収するという興味深い事例が続いている。

サイモンとブルックフィールドはどんな会社か

 サイモンは全米最大手のショッピングモール運営企業であり、最大の商業施設REIT(不動産投資信託)でもある。ブルックフィールドも同じく商業施設を運営する企業だが、オフィスなどショッピングモール以外も手がけており売上高はサイモンよりも大きい。J.C.ペニーはこの2社が所有するモール内に160店舗出店しており、モール運営企業がテナントを買収し救済する目的は、単純に考えればテナントが消えていなくなることによるダメージを防ぐということになるだろう。

 一般的にはサイモンとブルックフィールドが175億ドルのディール(取引)に合意したと報じられているのだが、実際は債権グループや金融機関も出資することになっており、両社が供出するのは3億ドルである。2社が筆頭となった救済スキームという表現が正しいだろう。両者の規模からすれば3億ドルは大きな投資というわけでもなく、“巨額を投じて核テナントを救う不思議なディール”というわけでもない。

 さて、このJ.C.ペニー救済計画、本稿を執筆している10月半ばの時点では裁判所より最終認可は下りていないのだが、これから追加の投資企業として絡んでくるかもしれないと噂されているのがオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、ABG)である。破綻したブルックスブラザーズを買収したのはスパークグループ(SPARC GROUP)という企業だが、このスパークはサイモンとABGが50対50で出資して設立された企業で、つまりひょっとするとブルックスブラザーズと同じ顔ぶれがディールに関与することになるかもしれない。

 このスパークによる破綻企業買収はブルックスブラザーズが最初ではない。16年のエアロポステール(AEROPOSTALE)、18年のノーティカ(NAUTICA)、今年に入ってからフォーエバー21、そしてブルックスブラザーズ買収とほぼ同時期にラッキーブランズ(LUCKY BRANDS)を手に入れている。

 はっきりした情報がないので推定だが、傘下のブランドを合算すると1000店舗を超えているはずである。破綻企業を買い集めて4ケタを超えるチェーンストアが存在するのだ。

本命は知的資産の運用

 ABGの本業はブランドのライセンシングである。「マリリン・モンロー(MARILYN MONROSE)」「エルビス・プレスリー(ELVIS PRESLEY)」「バーニーズ ニューヨーク((BARNEYS NEW YORK))」「ナインウエスト(NINE WEST)」等々、多数のブランドを所有しており、18年の時点で年商は4億ドルと報じられているが、今はすでに10億ドルを超えていると報じるメディアもある。

 サイモンがABGと組んだ最初の案件はエアロポステールで、当時は否定的な見解がほとんどだった。「モール運営企業が破綻したテナントを買ってどうするんだ」という論旨である。

 CEOのデイビッド・サイモン(David Simon)氏は今年の決算報告時に、16年に2500万ドルで買収したエアロポステールからはすでに1300万ドルの配当を受け取り、1億ドルの赤字が8000万ドルの黒字へと転換しているとコメントした。批判する投資家たちには「儲からないと思ったら買わない。そういう人たちはアマゾン(AMAZON)に書籍ビジネスだけやっていろと言うのだろう。コアビジネス以外に対してスマートな投資はできないというのは意味がない」と反論している。

 店舗だけで考えるからポテンシャルが見えないのだろうと私が気づいたのはABGのビジネスモデルが知的資産の運用だということを理解してからである。ブランドは知的資産だが、知的資産はそれだけではない。パテント、販売データ、システム、ノウハウ、顧客データといった無形資産の多くが知的資産で、つまりECとは知的資産そのものなのである。

 ECも含めた知的資産を破綻後に底値で買い、包括的に運用して利益を上げる。EC市場が急成長している今は、知的資産のポテンシャルがどんどん広がっているといってもよい。

 当然ABGやサイモンだけではない。リテール・Eコマース・ベンチャー(RETAIL E-COMMERCE VENTURES)という企業が、東海岸に約130店舗を展開するモデルズ・スポーティング・グッズ(MODELL’S SPORTING GOODS)の知的資産を360万ドル、ホームファニシングのピア・ワン・インポーツ(PIER 1 IMPORTS)の知的資産を3100万ドルで手に入れている。またサインライズ・ブランズ社は破綻したニューヨーク&カンパニー(NEW YORK&COMPANY)の知的資産を2000万ドルで買収している。

 著名な企業の破綻後に、店舗という目に見える資産を外して知的資産のみを安く入手し、成長しているEC市場で有効活用するという動きはこれから増えるだろうと思っている。

 知的資産の運用をビジネスとするABGと、固定資産の運用をビジネスとするサイモンが、合弁でスパークを設立し、ABGのノウハウで安く手に入れた知的資産から利益を生みながら、店舗という固定資産がそれを補助する。そのように理解すると分かりやすい。これでテナントが減ることを回避できればサイモンとしては大成功だろう。

 サイモンは子会社を通じでさまざまな企業に投資している。これからテナントとして育ちそうな企業や、モール関連のテクノロジーを開発する企業など様々で、スパークもバラエティーに富む投資対象の一つである。ショッピングモールというビジネスの変革の道筋を模索しているのだろうと私は考えている。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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