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デジタル版パリコレ オートクチュールの映像を勝手に採点 最高点は「ディオール」と「V&R」

 世界的な新型コロナウイルス流行の影響で、パリコレ史上初となるオンラインでの2020-21年秋冬オートクチュール・コレクションが7月6~8日に開催されました。店頭に並ぶプレタポルテの洋服とは異なり、限られた人のために仕立てられるオートクチュールはファッション業界で働く人にとっても遠い存在に感じるものですが、今回はオンライン開催ということで、皆が平等に同じタイミングで発表を見ることができる初めての機会でした。「WWDジャパン」編集長の向も日記形式で動画をリポートしましたが、ここではオートクチュールを生で見たことがない取材班が感動した動画、イマイチだった動画を勝手に採点してみました。

■採点基準
・クリエイション……コレクションそのものの美しさ
・映像美……映像の美しさ、カメラワークなどのクオリティー
・ストーリーテリング……コレクションの内容がうまく伝わったか、物語の分かりやすさ
・尺……映像の長さ。発表内容に対して長すぎず、短すぎないか。飽きずに見られたか
・インスピレーション……時代性や面白さを感じたか
・拡散力……SNSでのPR施策。話題を作れたか、誰かにシェアしたくなったか

◎、○、△の3段階評価/星5点満点

【ドラマ・ストーリー性の強い動画部門】
ディオール(DIOR) ★★★★★
“群を抜くクオリティーの高さとファンタジーの世界観”


クリエイション◎/映像美◎/ストーリーテリング◎/尺◎ 14分42秒/インスピレーション○/拡散力○

記者のコメント:ミニチュアのクチュールドレスは職人たちの高度な技術の証しで、これまでもアトリエで制作されてきた。そんなメゾンの歴史とのつながりとファンタジーな世界観が融合されていて、ブランドらしさの表現における完成度の高さを感じる作品。セリフのないストーリーにもかかわらず約14分間飽きずに見られた(藪野)/この短期間で映画のようなクオリティーの映像を作り出すことができるのは本当にすごい。ミニチュアから本物のドレスになっていくというメゾンのモノ作りを裏テーマにしているのも共感できる。発表に合わせてインスタグラム上でARフィルターを提供、セレブリティーが感想を述べる動画をアップするなどSNS拡散力も強い。ただ、多様性が重要視されるこのご時世で、白人のみのキャスティングには違和感があった(大杉)/「ディオール」衣装提供という無音のショートムービーを鑑賞した感じ。群を抜くクオリティーの高さとファンタジーのある世界観は本当に美しくて、見応え十分でした(皆合)/絵本の中の世界を具現化したような繊細で神聖な映像に見入ってしまった。「ディオール」の最近のコレクション会場ではフェミニストの詩などを掲示したりと伝えたいメッセージが明快だったが、今回はダークファンタジーを得意とする映画監督の力量ももあって、美しくも絵画のように何重にも隠されたメッセージがあるかもしれないと思わせ、さらにそれを探り当てたいと冒険心がくすぐられた。発表の直前にインビテーションを模したVRフィルターを公開したのもプラスポイント。編集長には紙のインビテーションが届いたが、誰でも見られるコレクションだからこそ、皆が皆インビテーションを受け取れるわけではないからVRで提供しようという発想が新しい(丸山)

フランク ソルビエ(FRANCK SORBIER) ★★★★☆
“コロナを擬人化したダークファンタジー”


クリエイション○/映像美◎/ストーリーテリング◎/尺○ 11分39秒/インスピレーション◎/拡散力△

記者のコメント:3ルックしか出てこなかったが、映像がダークな雰囲気で、個人的に好みかつメタファーも多くて面白かった。"IL MEDICO DELLA PESTE"というタイトルは、ペストの医者という意味。動画では黒装束の女性が自由の女神像をぐるぐる巻きにしていることから、彼女は新型コロナウイルスを表現していて、人々から自由を奪っている存在。ストーリーは昔のイタリアの医者が着けていた仮面を着けた男が彼女と対峙し、最終的にコロナは馬になって女性を襲おうとしているという、かなりピンチなところで終わる。最後女性が屋内に逃げようとしているのも、コロナから逃れようと家に籠るこの状況と似ている。プレリュードはフランス語で前奏曲という意味だが、この話の続きの動画は9月に公開されるそうだ。(丸山)/コロナを擬人化したダークファンタジー。退廃的な映像が美しく、せりふなしのショートフィルムを見ているような感覚で見ることができる。しかし、スローモーションの11分間の映像は少し尺が長く感じてしまったのと、(ソルビエの作風ではあるが)ビクトリア朝風の衣装にコスプレ感が否めない(大杉)

【モノ作りドキュメンタリー+α部門】
ラルフ & ルッソ(RALPH & RUSSO) ★★★★☆
“手仕事と最新のデジタルを融合 アバターと世界遺産を巡るデジタルツアー”


クリエイション○/映像美◎/ストーリーテリング◎/尺◎ 6分23秒/インスピレーション◎ /拡散力△

記者のコメント:コロナ禍を経て、恋しくなった“旅行の楽しさ”を動画を通してうまく表現していた。前半はアトリエの丁寧な手仕事やデザインプロセスを紹介し、後半はアバターにドレスを着せて、中国の万里の長城やインドのタージ・マハル、ヨルダンの遺跡ペトラなどの世界遺産、観光地を巡るデジタルツアー。職人技を守りながらも、デジタルならではの挑戦に好感を持った(大杉)

ラウル ミシュラ(RAHUL MISHRA)★★★★☆
“作り込み過ぎない制作背景と自然の美しさの表現”


クリエイション○/映像美◎/ストーリーテリング○/尺◎ 7分31秒/インスピレーション◎/拡散力△

記者のコメント:コロナを機に生態系からインパイアされた自然の美しさを表現。刺しゅうなど繊細な職人の手仕事を見せつつも、途中で職人のスマホがちらっと映るなど、作り込み過ぎずリアルでよかった。ドレスと合わせたマスクを提案するなど時代性も感じられた(大杉)

グオ・ペイ(GUO PEI)★★★☆☆
“インスピレーションからシルエット、ディテールも十分に伝わる10分間”


クリエイション○/映像美◎/ストーリーテリング◎/尺○ 9分56秒/インスピレーション◎/拡散力△

記者のコメント:予想以上によかった。前半はデザイナーがインスピレーションや制作背景について語る映像で、後半は複数のモデルが実際の服を着て動く映像。後半の映像は、インスピレーション源のパリにある国立自然史博物館に並ぶ動物の標本のようにモデルが静止して並ぶところから始まり、いろんなカメラワークや回転台を生かして、服のシルエットやディテールも十分にわかる内容で飽きずに10分間見ることができた。やはり、パンデミックやロックダウンを経験して、自然や生態系に思いを馳せるブランドが全体的に多い(藪野)

ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)★★★★☆
“世界中のクライアント一人一人とオンライン上での対話”


クリエイション◎/映像美○/ストーリーテリング◎/尺○ 4分12秒/インスピレーション◎ /拡散力○

記者のコメント:従来のクチュールコレクションとは一味異なる新プロジェクト「フェイス トゥ フェイス(Face to Face)」のお披露目。世界中のクライアント一人一人とオンライン上で対話をして、一枚の白シャツとその思い出をもとに特別な一着へと仕立てていく。とても贅沢な体験でありながらも、シャツというリアルなアイテムであることからとても身近で、日常で着用することができるデザインから大胆なアイデアまで、中里デザイナーの仕事の奥深さを感じられた。またインスタライブでは一緒に発表を視聴するデジタルパブリックビューイングを行い、中里デザイナーの思いを聞くことができるなど、参加していて楽しかった(大杉)

【パフォーマンス部門】
アザロ(AZZARO) ★★★☆☆
“まるでミュージックビデオ、クチュール映像だということを忘れてしまう”


クリエイション○/映像美◎/ストーリーテリング○/尺○ 4分49秒/インスピレーション○/拡散力○

記者のコメント:オリヴィエ・ティスケンス(Olivier Theyskens)による新生「アザロ」のデビューコレクション。ゴールドのスリットドレスを着たベルギー人歌手シルヴィ・クロイシュ(sylvie kreusch)が暗闇の中で風に吹かれながら歌い出す映像で、まるでミュージックビデオ。クチュール映像だということを忘れてしまう(笑)。曲もキャッチーで、クロイシュがとてもかわいい。ティスケンスはメゾンの歴史を研究して、メゾンの歌手や女優たちとの結びつきを現代風に表現しようとこの発表方法を選んだそう(大杉)

【無観客ショー部門】
ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)★★★★★
“激動の今の時代を表す愛のクチュール”


クリエイション◎/映像美◎/ストーリーテリング◎/尺◎ 5分20秒/インスピレーション◎/拡散力◎

記者のコメント:生配信で見た直後、感動して5回も再生してしまった。丁寧に一着一着のドレスの解説していた昔のクチュールショーを、現代流にアレンジしながらもユーモアが利いていて、見ている人たちを笑顔にする発表だった。“チェンジ(change)”をテーマに激動の今の時代を表す「悲しみと怒り(A feeling of sadness and anger)」「相反する感情(Signaling our conflicting emotions)」「愛の発散(Radiate Love)」の3つのグループで構成されたコレクションで、おウチ時間にラグジュアリーを感じさせるバスローブドレスや、最新トレンドのアクセサリーとしてマスクを登場させるなど、今の時代性を捉えている。絵文字を使ったドレスなど、過去のコレクションとの連動性も感じられるのもよかった。ナレーターが歌手のMIKAというのもサプライズ。最後には「人々は年齢、肌の色、性別、人種、宗教、セクシュアリティーに関係なく、愛される価値がある」というメッセージで締めくくられとても温かい気持ちになった(大杉)/これまでもくすりと笑わせてくれるユニークなクリエーションとストレートなメッセージでSNSユーザーの心をつかんできたが、今回もSNSウケしそうな予感。激動の2020年を生きるわれわれの変わりやすい感情をストレートに表現しつつ、最後は愛の大切さを説く。今回はSNSで注目を集めるようにきちんと仕掛けていて、動画の最初に出てきた「change」のタイトルをインスタグラム のVRフィルターで提供したほか、同コレクションを世界のインフルエンサーに送り、早速着用してもらっていたのも、より多くの人にコレクションを見てもらう機会になったようだ。最新コレクションを着用したのは歌手のリタ・オラ(Rita Ora)、ヴァーチャルインフルエンサーのnoonoouri、ドラァグクイーンのミス・フェイム(Miss Fame)で、リタ・オラはユニセフのアンバサダーであったり、noonoouriはバーチャルな存在ながらサステナビリティやBLMについて積極的に投稿している。さらにダイバーシティーを尊重するという意味でミス・フェイムという、世界にポジティブな"チェンジ"をもたらしそうな人選になっていた(丸山)

【イメージムービー部門】
シャネル(CHANEL) ★★★☆☆
“手の込んだクチュールピースをまとった豪華なモデルたちをゆっくり見たかった”


クリエイション◎/映像美○/ストーリーテリング△/尺△1分22秒 /インスピレーション◎/拡散力○

記者のコメント:「一瞬で終わってしまった」というのが第一印象。先月発表された2021年クルーズ・コレクションが7分間だったため、長編もあるのかと期待してしまった。撮影はスウェーデンの写真家ミカエル・ヤンソン(Mikael Jansson)、モデルは去年「ザ・ファッション・アワード」でモデル・オブ・ザ・イヤーを受賞したアダット・アケチ(Adut Akech)や、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)のミューズとして知られるフレジャ・ベハ・エリクセン(Freja Beha Erichsen)の現ガールフレンドであるリアン・ヴァン・ロンパエイ(Rianne Van Rompaey)、人気モデルのエディ・キャンベル(Edie Campbell)の3人の豪華な顔ぶれ。ヤンソンによるルック画像も美しいが、変形ツイードセットアップや手の込んだビジュードレスなどをもう少しゆっくり動く姿で見て見たかった。その一方で、アップルミュージックでこのコレクションのイメージを音でも楽しめるプレイリストを出していたのは嬉しいサプライズだった(大杉)

イリス ヴァン ヘルペン(IRIS VAN HERPEN) ★★★☆☆
“期待値が高く、想像の範囲を超えないものでガックリ”


クリエイション○/映像美○/ストーリーテリング△/尺△2分57秒 /インスピレーション○/拡散力○

記者のコメント:奇想天外なアイデアを、伝統的な職人技と最先端の技術を融合して表現するブランドなだけに、見る前から期待が高かった。石が動き出して花の形になっていくSF映画のような場面から始まり、その花のモチーフをあしらったドレスが登場。花の形のように立体的で美しい白いミニドレスなのだが、同じドレスを映し続ける映像は物足りなさがあった。公式サイトに上がったイリスのインタビューを見てみると、「次はVRを使ってリアルのショーを行いたい。私はいつも3Dで表現しているけれど、映像になると2Dになってしまうことが悩ましかった。VRを使えばもっと多くの人の感情をかき立てられるはず」と語っており、本人も葛藤があったように感じられた(大杉)/オートクチュール・ウイークの中で毎回楽しみにしているブランド。普段から3Dプリンターを使ったデザインを取り入れていたりと、クチュール参加ブランドの中でおそらく最も3DやCG技術に長けていると思われるからこそ今回のオンラインでどんな発表になるのか期待に胸を膨らませていた。しかし、映像は想像の範囲を超えないもので、期待していただけにガックリ。でもその後いろんなブランドの発表を見て、皆大変な状況の中「イリス」は頑張っていたと実感。ちなみにモデルは人気HBOドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」で魔女役を演じたカリス・ファン・ハウテン(Carice van Houten)。ドラマの魔女のイメージが強かったのですぐに気付かなかったが、透明感のある映像と彼女の神秘的な雰囲気はぴったりだった(丸山)

【番外編:え、もう終わり!?ティザー部門(採点なし)】
メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)

記者のコメント:「メゾン マルジェラ」20年春夏のファッションショーで力強いウオーキングを見せて話題をさらったモデルのレオン・デイム(Leon Dame)らしき人物が登場。サーモグラフィーのような加工がかっこいいが、47秒で終了!!しかし、これはティーザー映像の一つということでご安心を。4日間に分けてコレクションを明らかにしていく仕掛けで、7月16日に全貌が明らかになる(大杉)

ヴァレンティノ(VALENTINO)

記者のコメント: 宙に浮いた布がゆらゆら、ドレスが風になびく映像が映し出されてわずか40秒でエンドロールに。こちらも7月21日に行われるライブパフォーマンスのティーザーだという。写真家で映像監督でもある巨匠ニック・ナイト(Nick Knight)とのコラボレーションとのことで期待が高まる(大杉)

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員