ファッション
連載 コレクション日記

編集長はデジタルパリコレで何見た? 3日目は区役所の待合室で座して「マルジェラ」を見た

 こんにちは。「WWDジャパン」編集長の向です。今週は夕方から真夜中までデジタル上で開かれた2020-21年秋冬オートクチュール・コレクションを極めて真面目に取材しました。取材といっても場所は編集部で、歩きながら、スタバで、駅のホームで、自宅のソファでといろいろで、見終わった後は日本とドイツにいるチームで感想をチャットしました。長いパリコレ取材経験の中でもこんな形は初めて。発見が多く楽しかったですが途中から「これは取材?プライベート?」とややあいまいになったのも事実です(笑)

7月8日(水)
10:00(日本時間17:00)
渋谷区役所で取材を終え
「マルジェラ」を見る

 この日、長谷部渋谷区長への取材を終えたのが16:45。急いで渋谷区役所1階の待合室へ下りてスマホでスタンバイしました。17時からの「メゾン マルジェラ “アーティザナル” デザインド バイ ジョン ガリアーノ(MAISON MARGIELA 'ARTISANAL' DESIGNED BY JOHN GALLIANO)」を見るためです。役所で「マルジェラ」を見る日が来るなんて……不思議です。開始の10分前からユーチューブに入り、コメント欄で盛り上がるファンたちの会話を眺めて気持ちを高めました。私は、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)がデザインした1996年の「ジバンシィ(GIVENCHY)」の写真を見たときから、ジョンの才能のファンなのです。

 と、開始前に盛り上がったこともあり、17時に始まったムービーには正直拍子抜け。モデルのレオン・デイム(Leon Dame)らしきシルエットが浮かび上がったかと思うと、あっけなく終了しました。その間、約40秒です。チーン……。今回は導入であり、4回にわけて全貌を明らかにしてゆくとは聞いてはいましたけどね。インスタグラムに投稿するティーザーなら40秒でもよいけどね。コレクションの正式スケジュールに載せるならもう少し楽しませてくれてもよかったのに(泣)。などとブツブツ言うのもファン心理のひとつ。残り3回を見届けたいと思います。

11:00(18:00)
コロナに扮した
黒装束の女と仮面の男

 今季のデジタルコレに“ドラマ仕立て部門賞”があるなら、「フランク ソルビエ(FRANCK SORBIER)」に送りたい。「ペストの医者」と題したドラマは、黒装束の女性が自由の女神を縛り上げ、それを仮面の男がじっと見ているシーンからスタート。長いくちばしの仮面は、かつてイタリアでペストの治療にあたった医者たちが身に着けていたものです。つまり、黒装束の女性は新型コロナウィルスを意味しているのでしょう。

 不気味で不穏な展開は、コロナにより自由を奪われてゆく私たちの姿を描いているようです。ドラマのインパクトが強くて服には目が行きませんが映像それ自体が印象を残りブランド名がインプットされたのも事実です。

11:30(18:30)
良し悪しの印象の分かれ目は
“字幕”だった

グオ・ペイ(GUO PEI)」は取材チーム内で意見が分かれました。デザイナー自身が語りインスピレーションを明らかにしつつ、モデル着用で服をきちんと見せる構成が◎というスタッフの意見に対して、私は△。その違いは見ているデバイスの違いでした。

 デザイナーは中国語を話し、英語の字幕が出るのですが、歩きながらスマホで見ていた私の目には小さい字幕(しかも白抜き)がほぼ読めず。「良かった」というメンバーの感想を受けて、大きなPCであらためて見ると文字が読めてなるほどその良さがわかりました。映像で伝えるコレクションは言語も大切。字幕をつけるならできるだけ大きな文字でプリーズ!できればたとえ流暢でなくともデザイナー自身が英語で語った方が耳でキャッチできるのでより伝わります。ということを学びました。

13:30(20:30)
幸福なカップルが着る「ブシュラ
ジャラール」の仕立ての良い服

 「ブシュラ ジャラール(BOUCHRA JARRAR)」の映像の主人公は女性どうしのカップル(たぶん)。彼女たちは部屋で、そして森で見つめ・触れ合いとても幸せそうです。「ブシュラ」の服は仕立てが美しく、特にメンズライクなコートやジャケットといった重衣料と白シャツが魅力ですが、モデルがウオーキングするファッションショーではともすると厳格すぎる印象を受けました。ところが表現の舞台を部屋や森へ移し、感情溢れる表情のモデルが着ているのを見るとぐっと親近感が増して好感度アップ。ショーより服が素敵に見えた好例で。

16:00(23:00)
ドレスと絵文字のギャップが
カワイイ「ヴィクター&ロルフ」

 オンライン上で一緒に見ていた取材チームが全員一致で「カワイイ!」と声を上げたのが「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)」です。無観客ショー仕立てで、1ルックごとに渋い男性の声で解説が入ります。昔のオートクチュール風ですね。きれいなサテンのドレスには顔文字や天気絵文字、ハートなどSNSで見慣れた絵文字が散りばめられていてウイットが効いています。おもしろいことをクスリともせず大真面目な顔でやって見せるのがヴィクロルですよね。

18:00(1:00)
「ヴァレンティノ」を待てずに
ソファで寝落ち

 最後まで見届けようと思ったのに、ソファで寝落ちして起きたら「ヴァレンティノ(VALENTINO)」が終わっていました……。本番は、7月21日にイタリア・ローマからの生配信であり、今回はティーザーであると聞いていたので気が緩んでいたのも確か。実際、流れた映像は短いものでした。取材チームがスラックで盛り上がっているのを読んだのは3時も過ぎた頃。「ゴメン」と心でつぶやきそっとPCを閉じたのでした。

 3日間の取材を自宅で終えて思うのは、デジタルコレクションは見なければ見ないでなんとなく流れていってしまう。だけど本気で見ると得るものも多いということ。メディアが今後デジタルコレクションを本気で取材するなら時差との闘いが避けられないことも身をもって体験。明日からはゆっくり寝ようっと!

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