ビジネス

名門レナウンの破綻 昭和のビジネスモデルを温存したツケ

 レナウンの経営破綻を「コロナ倒産」と表現することに違和感がある。同社の業績は30年近くにわたって低迷してきた。数年おきに人員整理と事業縮小を繰り返しても収益性が回復することはなく、赤字とわずかな黒字を行ったり来たりしていた。消費増税と暖冬に加えて、親会社・山東如意科技集団の子会社への売掛金を回収できない異常事態によって2019年12月期は67億円の最終赤字に陥っていた。コロナは引導を渡したに過ぎない。

 レナウンの凋落を振り返って感じるのは、企業が変化しないことのリスクである。

 同社のビジネスモデルは、大まかにいえば30年くらい変わっていない。現在の主力ブランドは「ダーバン(D’URBAN)」「アクアスキュータム(AQUASCUTUM)」「シンプルライフ( SIMPLE LIFE)」「エレメント オブ シンプルライフ(ELEMENT OF SIMPLE LIFE)」「インターメッツォ(INTERMEZZO)」「エンスウィート(ENSUITE)」「アーノルドパーマー タイムレス(ARNOLD PALMER TIMELESS)」など。百貨店や量販店向けのブランドが大半で、顔ぶれは1990年代とほとんど同じなのだ。ブランドが変わらなくても顧客の新陳代謝が進めば問題ないのだが、同社の場合はそのまま高齢化している。

主力ブランドが高齢化 新ブランドも開発できず

 平成の時代、ファッション業界では2つの大きな潮流があった。一つはSPA(製造小売り)の台頭。製造から販売までを一気通貫管理することで、中間コストをカットし、価格競争力を高める。店頭の客の反応を商品企画に素早く反映させる。2000年以降のショッピングセンター(SC)の開業ラッシュにのって、SPAは業界の主流になった。もう一つはECの浸透。こちらは説明不要だろう。コロナ危機を受けてますます重要性が増している。

 レナウンはどちらの潮流にも乗れなかった。SC向けの「アーノルドパーマー タイムレス」に全体をけん引するほどの力強さはない。売上高に占めるECの割合は3%。そもそも自社ブランドは顧客が高齢化しており、ECを利用する人たちが欲しいと思う商品がない。若い世代を狙ったブランドを育てようと試みてもうまくいかず、この10数年は既存事業を守るだけになっていた。結果として昭和のビジネスモデルが温存され、過去の遺産を食いつぶす状態だった。

 レナウンはかつてグループ売上高3000億円の日本最大のアパレル企業だった。1960年代には“レナウン・ワンサカ娘”のテレビCMで一世を風靡し、70年代以降もアラン・ドロン(Alain Delon)や高倉健を広告塔に起用してブランドイメージを高めた。米人気ゴルファーを起用した「アーノルドパーマー」では、傘のマークによってワンポイントマークの一大ブームを作った。90年代には、のちに多額の負債の要因になる英ブランド「アクアスキュータム」を約200億円で買収した。5月に米国本社が経営破綻した「J.クルー(J.CREW)」を日本に持って来たのもレナウンだった。

 進取の気性に富んでいたレナウンの社風は、長い低迷によって現状維持に傾く。いまレナウンの社内で良い時代を経験しているのは50代以上の社員だけ。それ以外の大半の社員は悪い時代しか知らない。過去の成功体験にこだわりすぎる企業は問題だが、成功体験を知らない縮小均衡の企業からはチャレンジ精神が失われる。

「保守的な選択をしてきてしまった」

 経営陣もそのことは自覚していた。09年から10年間にわたって社長を務めた北畑稔氏は「お客さまの変化が想定以上に早いのに、その時々の商品や企画で保守的な選択をしてきてしまった」と反省の弁を述べたことがある。北畑氏の後任として19年5月に社長に昇格した神保佳幸氏は「負けグセがついている社内の閉塞感を変えたい」と就任会見で話していた。

 10年にレナウンが山東如意の傘下に入った際、中国企業によるショック療法で経営が変わると期待されたが、目に見えるほどの変化はなかった。「アジアのLVMH」を目指すとした山東如意は近年、欧米ブランドの相次ぐM&A戦略が仇となって財務状況が急速に悪化した。レナウンをサポートするどころか、対立する場面が目立つようになっていた。19年末、レナウンは山東如意の香港子会社から売掛金の回収が滞る異例の事態になり、大赤字を計上した。今年3月の株主総会では山東如意の動議によって社長の神保氏、会長の北畑氏の続投が否決された。東証1部上場企業とは思えない迷走のところにコロナ危機に見舞われ、白旗を上げざるをえなくなった。

 レナウンと同様に老舗アパレルとして括られるオンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングスなどは、痛みを伴うリストラを断行しながらもデジタル時代に向けた自己変革に取り組んでいる。それらに比べると、レナウンはあまりに旧態依然として、ビジョンを描く力に欠けていた。

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