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楽園か失楽園か? 「クリストファー ケイン」が描く三角関係の世界

 2月にロンドンで披露された「クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)」2020-21年秋冬コレクションのバックステージで、デザイナーのクリストファー・ケインは「なぜだか分からないんだけど、今季は“三角形”が要になった」と笑いながら説明していた。性や自然界をテーマに置く同ブランドは今季、男・女・自然の三角関係を図形で表現した。三角形の幾何学模様のコートがファーストルックを飾り、三角ブラのスリップドレスやショルダー部分を三角形にカットしたニット、三角形のポケットを施したコートやAラインドレスなど、各ルックに三角形を見つけることができる。艶やかなサテン地は肌を覆っていても色気を醸し出し、黒のレースやPVCの透き通る生地は露出度高めだが、全体的に下品さは感じない。

キリスト教の思想とリンクする三角形のアイデア

 ケインは着想源について「生意気でセクシーな三角ビキニや下着を見かけたところから始まった。三角形は自然界において最も強力な形状であり、“神の目”という意味もある」と語る。三角形はキリスト教絵画において、三位一体を表す一つのシンボルである。ケインは宗教的な内容については言及しないが、BGMで「エデンの園(The Garden of Eden)」のフレーズが繰り返し流れ、プレスリリースにアダムとイブの名称が出てきたことから、三角形はキリスト教の思想とリンクしていると考えられる。

 ショー後の囲み取材で、ジャーナリストのティム・ブランクス(Tim Blanks)は熱心に彼の言葉を引き出そうと宗教的な話を進めていた。深入りできるほどキリスト教に馴染み深くない筆者だが、“原罪”がコレクションの背景にあるのではないかと解釈した。“原罪”とは、キリスト教において、アダムとイブが神の教えに背いて禁断の果実を食べてしまったという人類最初の罪。欲望に負けた結果、禁断の果実の一口と引き換えにエデンの園を追放されるが、それは人間が自我を持ち、考え、選択し、行動する自由を手にしたことを表す。

女性が自分自身に誇りを持てる衣服

 男と女と欲望の三点が結ばれる三角形は、ケインにとって人類の根源的な欲求を示すモチーフであると同時に、コレクションでは女性の強さの象徴として示されていたように思う。女性性を打ち出すといっても、男性を誘惑するような性ではなく、女性であることを気負わずに自分自身に誇りを持てる衣服のように。モデルは必要以上の厚化粧をせず、少し不機嫌そうな顔で力強く長いランウエイを歩いていたのが印象的だった。

 ケリング(KERING)から独立した後のケインは明らかに自信をつけ、独自の世界観を表現できている。アダムとイブが楽園を追放された後のように、ケインは自我を持ち、考え、創造しているのだ。ショーの最後は、女性の官能的な声で「夢こそ地球上で最後の楽園(Dreams are the last paradise on earth)」というフレーズが流れた。ブランドの行く末が楽園か失楽園かを決めるのは、彼の夢にどれくらいのエンドユーザーが追随するかにかかっている。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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