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「ジェイ ダブリュー アンダーソン」が示す新時代の女性像 アートのような“ヌーボー・シック”

 2月にロンドンで披露された「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」2020-21年秋冬コレクションのバックステージで、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は「新しい部屋の入り口に立たされたとき、どのような姿で足を踏み入れるべきか?美しく登場するために何が必要かを考えた」と話し始めた。2020年代という新時代の幕開けを前に、一度立ち止まって過去を振り返ったようだ。アンダーソンが同コレクションを「ヌーボー・シック(新しいシック)」と表現すると、取り囲んでいた多くのジャーナリストが納得したようにうなずいた。

アート作品とのシンパシーを感じる
彫刻のようなシルエット

 アンダーソンは今季、ボリュームとムーブメントで新しいシルエットを探求した。裾にギャザーを入れてバルーン状に広がるドレス、折り紙のように生地を折り畳んでバックとウエストに膨らみを持たせたドレス、パフを入れた曲線を描くショルダーラインと鋭い直線のレザー素材の襟のAラインコートなど、複雑に入り組んだパターンと仕立てによって衣服と体の間で奇妙に生まれる。その空間には、彼が熱中する彫刻や陶芸といったアート作品とのシンパシーが感じられる。

 実際に、現存する物体から着想を得たルックもいくつかあった。「子どもの頃、ビール会社ギネス(GUINNESS)の広告にいつも目を引かれ、金と黒のタイポグラフィーが素敵だと思った。ビールの空き缶を押しつぶすと、そこに新たなフォルムが現れる感覚からアイデアを得た」と、ドレープとねじりを利かせたゴールドとシルバーのドレスについて説明した。そのほか、“パンチバッグ”と命名したバッグは、その名の通りボクシングのトレーニングで使用するパンチングボールから着想を得たという。

 BGMがフォー・テット(Four Tet)の「ベイビー(Baby)」に始まり、「サークリング(Circling)」へと変わるショー中盤では、衣服の量感はますます増していった。ケミカル糸で編まれたドレスは歩くたびに波打ちながらメタリックな輝きを放ち、ビクトリアンブラウスとフリルがふんだんに飾られた衣服は踊るように揺れ、マーメイドシェイプのコートやニットドレスの裾の動きにも心を奪われた。異なる素材とテクスチャーで彩られた今季の生地は「過去に使用したものと新しく制作したものを組み合わせたコラージュ」だとアンダーソンは説明した。彼が最も気に入っているルックはショールカラーのタキシードセットアップやバイアスカットのサテンのロングドレス、透け感のあるドレスだという。それらは比較的シンプルで、シルエットで遊ぶ装飾的なルックを際立たせる存在であった。

今季は「とにかく“楽観的”なものを」

 ビクトリア朝のシルエットや1920年代のきらびやかな装飾といったレトロな側面をあわせ持ちながらも、現代的で洗練されたコレクションに仕上がった今季は、アンダーソンなりに実験だったようだ。「(ランウエイのような)見知らぬ人々で満たされた空間をモデルが個別に歩いていくことで、その空間にどのように交じり合うのか、衣服がどのように作用するのかを想像した。“人々の森をすり抜ける”というアイデアから始まっている」。これは彼なりの言葉で、2020年という新時代に女性がどのように歩みを進め、時代を生きていくのかを想像したのだろうと筆者は解釈した。

 特異な視点を持つアンダーソンから発せられる言葉は難解であるが、今季の指針はとてもシンプルな言葉で伝えられた――「とにかく“楽観的”なものを表現したかった」。彼は新しい部屋の入り口に立ち、明るい未来への明快な道標を私たちに示してくれているようだ。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける