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ビームスがバーチャルでスナップ誌 ゴーグルの中のストリートを一冊に

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ビームスはVRコミュニケーションプラットホームVRChatに開設した自社ワールド「トーキョームード by ビームス(以下、(以下、トーキョームード)」を舞台に撮影されたVRフォトをまとめ、ZINE(ジン)「トーキョームード スナップ(TOKYO MOOD SNAP)」を制作した。初回として約50部を印刷し、関係者に配布。バーチャル空間で高感度なファッションを楽しむ人々の姿を、ビームスらしさを感じさせる原宿的空間でとらえた写真群は、一見2DのCGだが、実際は奥行きのある3D空間。カメラマンのアバターがロケーションを選び、被写体(アバター)とリアルタイムにコミュニケーションをとりながら撮影している。バーチャルファッションの“今”をとらえており、アバター文化の機微に富む。制作の経緯やビームスがやる意義について聞いた。

「ファッションをバーチャルの中でどう展開するか。しかもビームスはセレクトショップ。自社ブランドだけでなく、『みんなが何を着ているのか』を見せることにも意味がある」とビームスクリエイティブの木下香奈事業開発2部 VR担当。2020年12月、ビームスが世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」に初出展した際に初めてVRに触れ、以来、広報と兼任しながらVR事業を推進してきた。

ファッション勢が映える写真を撮りにくるワールド

「バーチャルマーケット」出展の際には、販売スタッフがバーチャルショップ内でリアルタイム接客を行うなど、積極的にメタバース事業に取り組んできたビームスだが、24年にはオリジナルワールドを開設。それが「トーキョームード」だ。VR映画スタジオのカデシュ・プロジェクトと協業し、新橋や裏原宿を思わせるワールドを実現。ビームスのショップはもちろん、居酒屋や飲食店、ゲームセンターやコンビニ、ミュージックホールなどが軒を連ねる路地や河川沿い、高架下の空間など、東京の猥雑さを音やさまざまなギミックと共に再現した。

そもそもVRChat内には星の数ほどのワールドが有象無象にあるが、人が集まるのは、ほんの一握り。定期的なイベントの開催など、「来たい」と思わせる仕掛けや魅力が必須で、そうしたものがないと、あっという間に“過疎バース(誰もいないメタバース空間)”になってしまう。ビームスは、ショップのみにせず、街ごと作ったところがポイントだ。さまざまなイベントを行っているのはもちろんだが、リアリティーがある東京の街を感度高く作り込んだことで、おしゃれな写真を撮りたいガチなバーチャルファッション勢の支持を集めている。これまでの来訪者は2026年2月時点で22万人。企業が作るワールドとしては出色の数字だ。

制作したZINEは全40ページ。同ワールドで撮影されたファッションスナップ29点と、同ワールド自体を舞台に撮影されたVRフォト12作品で構成されている。「24年に『トーキョームード スナップ』という動画シリーズを始めた。一度は中断したが、富士フイルムと縁があり、『こういうZINEを作りたい』という話から、今回の企画へとつながった」と経緯を語る。

参照したのは、「レイ ビームス(RAY BEAMS)」40周年でスナップ誌「FRUiTS」のコラボ書籍「FRUiTS × Ray BEAMS スペシャルブック」だという。原宿の街を舞台にビームスの服を着ている、着ていないにかかわらず、ファッションを楽しむ女性たちをリアルにとらえた一冊だ。

ファッションスナップは、VRChatでリアルクローゼットに近いバーチャルファッションを楽しむ定期集会「リアクロ集会」を25年9年に同ワールドを会場にして行った際に、2人のVRフォトグラファーが撮ったものと、Xで公募した同ワールドで撮影されたファッションスナップの中からVRチームのメンバーで選んだ。「まず直感的に“刺さる”ものを抽出し、その後、全体のバランスを見ながら整えていった。リアルクローズを主軸に、ビームスらしさを感じさせるスタイルを優先。VRならではの極端にファンタジックなものはあえて外し、男性・女性アバターの比率やテイストの幅も考慮した。同系統ばかりにならないよう、多様なストリートファッションを提示することを意識した」。

富士フイルムとの協業でフォトコンも

後半に収められたワールド自体を舞台に撮影されたVRフォト12作品は、富士フイルムのメタバース空間「House of Photography in Metaverse」と「トーキョームード」のコラボ企画として25年夏、それまで夜だった「トーキョームード」を1カ月限定で昼にしたタイミングで行ったフォトコンテストの入選作品だ。「カメラワークや世界観表現へのこだわりが際立ったものが集まった。その熱量は本当に“ガチ”。撮影方法も実にユニーク。自分でカメラを設置し、ジャンプの瞬間を撮る人や、複数人が登場している写真も実は一人で撮影しているケースがある。VRならではの技術と労力が詰まっている」。

オンラインサービスを活用し、一冊約4900円で制作。紙質やサイズにもこだわり、雑誌らしい光沢と厚みを選んだという。ビームス周りのバーチャルファッション勢と富士フイルム周りのバーチャルフォトグラファー勢の粋が詰まった一冊が完成した。「手にしたとき、『街と被写体がそこに実在している』と感じられたことが何よりうれしかった。ゴーグル越しではなく、紙面で見ることで実在感が増した」。

ビームスのVRチームは当時5人。全員が兼務だ。石田夏美ビームスクリエイティブ ビジネスプロデュース1部 プロデューサーは、「VRの画像なので、見る人によっては“ただのグラフィック”に見えてしまうんじゃないかという不安があった。でも出来上がったものを見ると、ちゃんとリアルな空気感が詰まっていて、私たちが目指していたイメージにかなり近い形になったと思う」と満足そう。

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