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ほしい商品の相談や検索、購入もAIが担う? 「エージェント型AI」が台頭するEC最前線

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検索エンジンにキーワードを入力し、表示されたリンク先で商品を選ぶ。そうした従来型のオンライン購買行動が変わりつつある。対話型AIの普及により、消費者はチャット形式で情報を取得し、比較や提案を受けながら購入を検討するようになっているのだ。では、AIはどのように商品を選定するのだろうか。米国で進む「エージェント型AI」活用の現状から、その影響を分析する。(この記事は「WWDJAPAN」2026年2月23日号からの抜粋です)

米国を中心に、オンライン購入の導線が変わり始めている。これまでのeコマースは、検索エンジンにキーワードを入力し、表示順位をもとにリンクを選び、商品ページへ遷移する構造で設計されてきた。ブランド側は検索結果で上位に表示されるためのSEO対策に力を入れ、商品ページではビジュアルやキャッチコピーを通じて世界観を訴求。ユーザーは一覧から選ぶことが前提だった。しかし、対話型AIの普及により、これまでのネットショッピングの常識が根本から覆されようとしている。単に質問に答えるチャットボットではなく、ユーザーに代わって情報を比較し、判断し、場合によっては購入行動まで担う「エージェント型AI」はAIが候補を絞り込み、リクエストに合うかを整理し、その商品を勧める理由まで提示する。商品の検索から発見、比較、提案までを一つの対話の中で完結させる構造だ。

米データ分析会社コアサイト・リサーチ(CORESIGHT RESEARCH)のジョン・ハーモン(John Harmon)=リテール&テック部門シニア・アナリストは、この変化について“AIネイティブ世代”に注目する。「今の高校生や大学生はグーグル検索を経由せず、最初からChatGPTで商品を探すケースが増加しており、AIとの会話を通じて買い物をしている」。検索エンジンを起点としない購買行動が、若年層を中心に広がっているという。同社が2024年12月に実施した調査では、米国内の消費者の13%がネットショッピング時にAIチャットを利用したと回答した。ただし、購入まで完結した割合は限定的だった。ハーモン=シニア・アナリストは「情報取得はAI内で完結しても、購入するには外部サイトに遷移する必要がある。この手間がハードルになっていて、コンバージョン(商品購入などの最終的な成果)にも影響している」と指摘する。一方で「この導線が内製化されれば、新たな成長機会になり得る」と分析した。

実際、その障壁を解消する動きは始まっている。オープンAI(OPEN AI)のChatGPTは、ハンドメイド品のECプラットフォームを運営するエッツィ(ETSY)や小売最大手のウォルマート(WALMART)、カナダ発のECプラットフォーム「ショッピファイ(SHOPIFY)」の一部加盟店と提携。チャット画面内で商品を選び、そのまま支払いまで完結できる仕組みの実験を進めている。ただし、ChatGPTのユーザー数は25年12月中旬の時点で約9億人に達しているものの、商品の購入に至るまでの割合は約2%にとどまっている。一方、約6億5000万人のユーザーを持つグーグル(GOOGLE)のAI「ジェミニ(GEMINI)」は今年、テキストや音声、画像を扱いながら、ショッピングカートの構築や事前承認済み購入の実行、購入後サポートまで担う「ジェミニ エンタープライズ フォー カスタマーエクスペリエンス(Gemini Enterprise for Customer Experience)」を発表した。AI自らが判断し、段取りを組み、実行するエージェントとしての役割が注目されている。アナリストら専門家は、26年がエージェント型AIの転換点になると見ている。

将来的には顧客とブランドのAI同士が直接対話も!?

ブランドにとっても、SEOに依存するモデルからAIを活用した設計への変換を検討しなければならない。特に重要になるのが商品データの粒度だ。サイズや寸法、素材構成、原産地、サステナビリティ属性といった詳細情報が、AIがユーザーに商品やブランドを提示する際の直接的な判断材料となるからだ。リテールインテリジェンス企業VLGEのエヴリン・モラ(Evelyn Mora)創業者は、「将来的には、顧客側のパーソナルショッピングAIと、ブランド側の販売員AIが直接データのやりとりを行うことも考えられる。商品情報にとどまらず、ブランド自体の歴史や情報も網羅的に蓄積したAIは、最終的にブランドのIP(知的財産)ともなる存在だ」と語る。「そうしたAIの構築と訓練は、社員や販売員の育成とほぼ同じだ。過去のパターンやシルエット、素材、キャンペーンなどのアーカイブを継続的に学習させなければならない」。多大な投資を伴うが、「いかに質の高いデータを用意し、結果として賢いAIを育成できたか」が競争力を左右するという。

一方、トレンド分析会社ネクストアトラス(NEXTATLA)は、AIと消費者の関係性そのものが変化している点に注目する。ルカ・モレナ(Luca Morena)最高経営責任者は「(ECにおいて)重要なのは技術そのものではなく、顧客との親密性だ」と話す。AI基盤の多くは共通インフラとして提供される可能性が高く、ブランドが独自に保持できるのは、顧客との関係性やストーリーの部分に限られるという見方だ。「だからこそ、ストーリーテリングの強化とブランド価値の発信は続けなければならない。検索前から『どのブランドを選びたいか』という意識を想起させられるかどうかが、差別化の鍵になる可能性もある」。

PVHがAIと組み、デザインから活用を推進

こうした潮流を背景に、ブランド側のAI実装も進む。ビューティ業界では、ロレアル(L’OREAL)がメタと提携し、24年にAIツール「ビューティ ジーニアス(Beauty Genius)」をローンチ。今年からは、月間アクティブユーザー数が約30億人を誇るソーシャルアプリの「ワッツアップ(Whatsapp)」と組み、アプリを通じて美容の専門家と直接やりとりができるようになる。「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP)は1月にオープンAIとの提携を発表。商品デザインからMD計画、在庫最適化、顧客エンゲージメントまでAI活用を広げるという。オープンAIは「AIによってアイデアをより自由に探求でき、プランナーはスマートな予測に切り替え、マーケターはよりパーソナライズされた顧客体験を提供できる」とコメントしている。

この動きは、eコマースの設計思想そのものを再定義しつつある。従来は検索結果での露出を競い、商品ページでの訴求力が問われてきた。しかしエージェント型AIの環境では、アルゴリズムが候補を絞り込み、比較軸を提示する。ブランドは“見つけてもらう”努力に加え、“選ばれるためのデータ設計”を求められる。誰がAIエージェントを制御し、どのデータを学習させるかによって、ブランドの見え方は左右される。情報が整理された形で提示される一方で、十分なデータを備えないブランドは推奨対象から外れる可能性もある。規模やテクノロジー投資の差が、そのまま露出機会の差につながる局面も想定される。

購買の主導権が検索エンジンから対話型プラットフォームへ移行するかどうかはまだ流動的だが、少なくともほしい商品の見つけ方は変わり始めている。AIはECサイト運営の裏方としてサポーター役にとどまるのか、それとも販売の中枢を担うのか。AI時代において、無数あるブランドから「どう見つけられ、どう選ばれるか」という設計そのものが問い直されている。アメリカで進むこの変化は、グローバルのeコマース戦略にも波及しそうだ。

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