ファッション

「ジル サンダー」のシモーネ・ベロッティが語る哲学 「ミニマルはシンプルとは違い、『繰り返し』にも意味がある」

PROFILE: シモーネ・ベロッティ/「ジル サンダー」クリエイティブ・ディレクター

シモーネ・ベロッティ/「ジル サンダー」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 「ジャンフランコ フェレ」や「ボッテガ・ヴェネタ」「ドルチェ&ガッバーナ」でキャリアを積んだ後、「グッチ」に16年間勤務。アレッサンドロ・ミケーレの右腕だった。23年、「バリー」のクリエイティブ・ディレクターに就任。25年に現職に就任 PHOTO:SHUNICHI ODA

ジル サンダー(JIL SANDER)」のクリエイティブ・ディレクターを務めるシモーネ・ベロッティが来日した。4月7日までは、伊勢丹新宿本店で2026年春夏コレクションのポップアップを開催し、限定アイテムも販売している。トップについて以来2回目の来日という彼に「ジル サンダー」というブランドをどう捉え、何を継承し、何を変えようとしているのか?話を聞いた。

「クオリティ」「純度」「厳格さ」に
「センシュアリティ(官能性)」を加えたい

WWD:「ジル サンダー」のクリエイティブ・ディレクターに就任して1年が過ぎ、この間に2回のコレクションを発表した。これまでを振り返って、今の率直な気持ちは?
シモーネ・ベロッティ「ジル サンダー」クリエイティブ・ディレクター(以下、ベロッティ):旅はまだ始まったばかりで、今もすごく興奮している。これまでのコレクションのフィードバックは概ねポジティブで、ブランドとして正しい方向に進んでいると思う。皆さんには、「新しさ」を見つけてほしい。ブランドが象徴するのは「クオリティ」や「純度」、それにある種の「厳格さ」だが、私はそこに「感情」をプラスしたい。自分から声高には主張しない。ただそれは繊細なディテールとなって現れているから、着ると気づきがあって、また着たくなる。そんな新しい要素を加えたいと思っている。その中で1つ意識しているのは、センシュアリティ(官能性)だ。

WWD:「ジル サンダー」は元来、センシュアルだと思う?特に創業デザイナーの頃の「ジル サンダー」は、官能的というより、純粋さや厳かさという印象が強いが。
ベロッティ:厳格なまでの純粋さを軽やかに見せるため、「ジル サンダー」は元来、肌を見せることが多かった。過去の広告ビジュアルなども、腕やウエストなどを見せている。私はそこに、ある種の官能性を感じた。「ジル サンダー」は、体をスタイルの一部として見せているからモダンなんだ。もちろんタートルネックを着たり、ボタンを一番上まで留めたりもスタイルコードだが、「ジル サンダー」には「オープン」というスタイルコードもある。軽やかなのに官能的、加えてエレガントというのは、とても難しい。でも私は今、その挑戦、理想のバランスを追求することを楽しんでいる。

WWD:そこで最初のコレクションは、厳かさを感じるほどに削ぎ落としたスタイルにスリットなどのディテールを加えた。
ベロッティ:最初のショーは、「正確さ」を意識した。まずはゼロから良いベースを作り、発展させていきたかった。シルエットは、細くて長い。「ジル サンダー」に求められる「正確さ」が問われるシルエットだ。一方のセカンドコレクションでは、背面にたっぷり生地を加えるなど、より動きが楽しめる。背面のディテールだから正面からは見えないけれど、それが楽しい。

膨大な情報に晒されている今、
本質を選ぶためのミニマリズム

WWD:長らく「ジル サンダー」はミニマリズムの旗手とされてきた。一方、前任のルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie and Luke Meier)夫妻は、ミニマリズムを強調せず、後半はエモーショナルなコレクションに転じていたように思う。あなたば「ジル サンダー」をミニマルなブランドだと思う?もしそうなら、あなたにとってのミニマリズムの定義とは?
ベロッティ:ミニマリズムの定義は、簡単じゃない。時に「シンプル」と混同されがちだが、私のクリエイションはシンプル、つまり単純なものでは全くない。「今は、どんな時代だろうか?」「そこで生きる人たちは、どんな働き方をしているだろうか?」「そんな人たちは、洋服に何を求めるだろうか?」「それを『ジル サンダー』らしく表現したら、どうなるだろうか?」「一方で、新しさも加えられているだろうか?」ーー。脳内では常に自身に問いかけ続け、アイデアを探し、ストーリーを紡いでいる。もちろん、時にはミスもある。そんな過程は、シンプルとはむしろ正反対だ。
一方で私も含め、これまでのファッションは少し騒々しく、人々は今膨大な情報に晒されている。その中にはノイズも多い。人々はその中から本質的なものを選びたい、ベターを選択したい、時を経ても変わらない価値を探したいと思っている。その意味で見て心地よく、触れて気持ちよい洋服は魅力的で、そこに意味を見出す人は増えているだろう。だから私は、そこに小さなサプライズをプラスしたい。冒頭で話した通り、着ると気づきがあるから、また着たくなる洋服を作りたい。現実の世界は完璧ではないから、時には矛盾を感じるようなサプライズでもいいだろう。そんな工夫は、結果的にはミニマルな洋服の中の繊細なディテールとなって現れている。

WWD:ミニマルなスタイルの中で、新しさを表現し続けるのは、簡単なことではない。
ベロッティ:追求するのは、新しさだけじゃない。私たちは、新しさと同時に、「繰り返し」にも魅了される生き物だ。例えば私には、多分2000回読んでも飽きない本がある(笑)。その本は、ファースト・コレクションのインスピレーション源になった。特に(創業デザイナーのジル・サンダーが活躍した)1990年代、私が「ジャンフランコ・フェレ(GIANFRANCO FERRE)」で働いていた頃は、まだネットも一般的ではなく、毎月のイタリア版「ヴォーグ(VOGUE)」を読んでは強烈なインスピレーションを得てきた。今でも当時の雑誌を読めば、新しい気づきがあるだろう。あの頃の美学を現代に蘇らせることもできるはずだ。
今は無数のインプットに晒されているというか、見つめられている、ともすればスポイルされているのかもしれない。だからまず、私はあの頃に学びを得たいと思っている。きっと、今を生きる人たちにも共感してもらえるエモーションが存在するはずだ。

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