ファッション

BTSカムバックライブ「アリラン」衣装制作秘話 ジェイ・ソンジオの独占インタビュー

韓国の7人組グループBTSは3月21日、メンバーの兵役による活動休止を経て、約3年5カ月ぶりにカムバックライブ「BTS THE COMEBACK LIVE | ARIRANG」をソウル・光化門(クァンファムン)広場で開催した。

アルバム「アリラン」のデビューという意味でも歴史的な夜となったが、ステージ上のビジュアルでも大きなインパクトを残した。ステージ衣装を手がけたのは、韓国人デザイナーのジェイ・ソンジオが率いる「ソンジオ(SONGZIO)」。今回のステージのために、伝統的な要素と前衛的なデザインを融合した特別コレクションを制作した。

“リリカル・アーマー(Lyrical Armor)”と題した同コレクションは、韓国の伝統的な衣装と朝鮮王朝初期の甲冑をモチーフに、彫刻的なシルエットとモノクロカラーパレットで再構築したもの。メンバーごとにビジュアルストーリーに沿ったキャラクターをイメージして制作され、単なる衣装の枠を超え、パフォーマンス全体の物語を形作るコレクションとなった。

7人が光化門広場の特設ステージに立つ、わずか2時間前。チームが衣装の最終調整を行う中、ソンジオは米「WWD」のインタビューで、同コラボレーションの制作プロセスや世界的アーティストの決定的瞬間に立ち会うことの挑戦について語った。

米WWD:このプロジェクトへの参加は、事務所のハイブ(HYBE)からオファーがあったのでしょうか?

ジェイ・ソンジオ(以下、ソンジオ):BTSのカムバックが発表された約2カ月前に、ハイブから連絡がありました。

彼らにとって、今回のカムバックは非常に重要なものでした。アルバムのタイトル「アリラン」は、韓国最古の伝統民謡のひとつでもあるからです。そのため彼らは、単に韓国出身というだけでなく、美意識においても“韓国らしさ”を体現するブランドを探していました。私たちは、常に韓国的な美意識を打ち出してきたブランドのひとつであり、このコラボレーションはとても意義のあるものであったと思います。

米WWD:コラボレーションは具体的にどのように進められたのですか?過去のコレクションからの選定だったのですか?

ソンジオ:特定のリファレンスは提示されませんでした。彼らからは、「個々のメンバーを軸にした、テーマとストーリーが欲しい」とだけ言われて、それは正直かなり大変でしたね。いくつかの初期スケッチを描いて、大まかなストーリーを共有しながら、かなり長い時間をかけてデザインのやり取りを重ねていきました。

ステージや演出に関する情報も多く共有してもらいました。実は、今回のコラボレーションはメンバーの衣装だけではなく、バックダンサー、楽器奏者、歌手を含めた約80人分を手掛ける壮大なコンセプトデザインでした。

BTSメンバーごとのキャラクター設定も

米WWD:各メンバーの個性を衣装に落としこむために、どうアプローチしましたか?

ソンジオ:最初にこの物語を考え出したとき、このコレクションに“リリカル・アーマー”というタイトルをつけたのは、コレクション全体をこのコンセプトで作り上げる意識を強く持っていたからです。個々のメンバーについて掘り下げる前に、まず“感情的な癒やし”を落とし込むことが重要だと感じていました。というのも、結局のところ音楽はすべて感情に関わるものだからです。そして、悲しみや切望といった意味を含む韓国独自の感情概念“ハン(han)”を表現したかった。韓国では、激動の歴史を背景に、誰もがこの“ハン”を内に抱えていると言われています。古くから数えきれないほどの戦争や困難な時代を経験してきた中で、人々は常にこの悲しみを乗り越えてきました。だからこそ私は、BTSのメンバーがある種のヒーローや戦士となり、この激動の時代を戦い、より明るい未来へと導いていくようなストーリーを描こうとしました。

彼らを英雄的な姿として描きたいと考えたことから、まず“アーマー(甲冑)”のアイデアが生まれました。どうすれば鎧のような服を作れるかというところから始まったのです。その後、メンバーと会議を重ねる中で、服自体のパフォーマンス性も非常に重要であることが分かり、より流動的なデザインが求められました。そこで、最初の“アーマー”というコンセプトと流動性をどう融合させた結果、“リリカル(叙情的)”というアイデアにたどり着きました。幸いにも、韓国の伝統衣装であるハンボクは、とても軽くて流れるような素材感で、自然なドレープがある。こうした流動的なシルエットやデザインに、鎧のようなディテールを掛け合わせることで、コレクションを作り上げていきました。

このストーリーの中で、それぞれのメンバーには固有の強いイメージを設定しました。リーダーとしてカリスマ的な存在感を持つRMは物語の“ヒーロー”。とてもエレガントな雰囲気を持つジンは“アーティスト”。プロデューサーとしての側面を持つシュガは“設計者”。ダイナミックでパフォーマンス力溢れるj-hopeは、“ソリグン”と名付けました。“ソリ”は韓国語で音、“グン”は人を意味し、歴史上の民謡パフォーマーに由来する言葉です。柔らかい雰囲気と豊かな表現力を持つジミンは、“詩人”。そして、端正な魅力を持つVは“ソンビ”。これは韓国の歴史における貴人や紳士を指す言葉です。ダイナミックなイメージを持つジョングクは、“ヴァンガード(前衛)”としました。

米WWD:各メンバーはどの程度意見を出し合ったのでしょうか?それぞれの個性に合った衣装を作るために、どんなやり取りがありましたか?

ソンジオ:とてもたくさん話し合いました。正直、最初はここまでメンバーが関わってくれるとは思っていませんでした。最初の数点のスケッチを見た後は、衣装にそこまで時間をかけないだろうと考えていたんです。ですが実際には非常に積極的に参加してくれて、色やアクセサリーといった細部まで意見を出してくれました。メンバー一人ひとりとじっくり時間をかけて話し合いました。

米WWD:ライブ中の衣装チェンジはどのように対応しましたか?

ソンジオ:会場が屋外、しかも宮殿の中ということもあり、途中で着替えることができません。そのため最初から、衣装の中にトランスフォーム可能な構造を組み込むことがテーマでした。衣装の中には5層構造になっているものもあります。メンバーが1枚ずつ脱いでいくことで、一つの衣装を着るよりもずっとダイナミックな演出になるはずです。

米WWD:他のパフォーマーの衣装はどのように手掛けましたか?伝統的な要素と新しさをどう調和させたのでしょうか?

ソンジオ:パフォーマンス全体の衣装は、大きく2種類に分かれています。ひとつはダンサー向けです。オーガンジーのような薄い素材を縦方向に重ねた多層構造のデザインを採用し、動いたときに流動的な動きがより強く表現されるようにしました。この“縦”のアイデアは、当初からインスピレーション源でした。韓国の折り戸や折りたたみ窓に着想したもので、私たちはこれまでも数シーズンにわたって、その要素を衣服へと落とし込んできました。

楽器奏者やそのほかの民謡歌手の衣装は、2つのコンセプトを組み合わせました。ベースとなっているのは、韓国の民族衣装であるハンボクです。ハンボクは、丈の異なるローブ状のジャケットで構成される、最も伝統的な衣装の一つです。男性パフォーマーにはやや長めでオーバーサイズのものを、女性には非常にクロップド丈のものを採用しました。

そこに、私たちの最近のコレクションのデザインを掛け合わせ、パッチワークのアイデアを取り入れました。身頃は非対称な形にカットし、あえてかなりラフな裁ち方を施しました。さらに赤とリネンホワイトという2色を重ねることで、強いコントラストを生み出しています。ボトムスは、グリーンのドレープスカートやパンツなど、さまざまなバリエーションを制作しました。

WWD:このプロセスを通して、今後のコレクションに影響を与えるような学びはありましたか?

ソンジオ:このコレクションは、とても自由に取り組めた仕事でした。私は、韓国人デザイナーとして、常に自分のデザインに韓国らしさを取り入れようとしてきました。しかし、例えばパリでコレクションを発表する際には、多くの韓国的な要素を加えつつも、商業的な理由や見栄えのバランスのためにそれらを少し和らげることもあります。

ところが、今回のコレクションでは、とにかく“韓国らしさ”を全面に出さなければならなかった。すべてが、韓国、韓国、韓国。この約2カ月にわたるプロセスを通して、自分自身だけでなくブランド全体にとっても、大きな刺激となりました。今後のシーズンでは、この韓国的な要素をより大胆に打ち出していけると感じています。

ライブ直前まで続いたメンバーとの最終調整

米WWD:徹夜作業でしたか?直前まで何を調整していたのでしょうか?

ソンジオ:最終調整は、装飾的な細部の追加が多かったですね。“アーマー”らしさをさらに強調するためのスタッズを追加したりしていました。ジミンの衣装には伝統的な韓国のフリルが多く使われていて、通常フリルはツイード、レザー、リネン素材で作られます。しかし、彼は「もっとジュエリーのような質感にしたい」と希望したので、ブラックオニキスや金属製のジュエリーのようなパーツを縫い付けて、より装飾的に仕上げました。こうした細かい部分に関しても、メンバーは多くの意見をくれました。

昨夜は、ジョングクが自分の白シャツに韓国の山水画をイメージしてラフにペイントしてほしいと言ったので、急遽その加工を施しました。山水画を提案したのは、今回のコレクションのために特別に開発した生地に合うと思ったからです。コットンとリネンで作った手織りの生地で、ダメージ加工を加えたことで糸が滝のように連なって垂れ下がり、自然で有機的な感覚を表現しました。

あとはまあ、ショー前夜のように、みんな徹夜している感じですね。

米WWD:今後のコンサートツアーでも、引き続き衣装を担当することになるのでしょうか?

ソンジオ:私たちは現在、新しいコンセプトも構築中です。メンバーだけでなく、今回のようなステージ全体の衣装デザインも含めて考えています。いくつかのアイデアを検討しているところです。

米WWD:ショーに向けて、今の気持ちは?

ソンジオ:私たちの旗艦店には柱があり、通常は下から照明を当てているのですが、今回そのライトの色を(BTSのシンボルである)紫色に変えたところ、外にもたくさんのファンが来てくれました。このコラボレーションは最初から自分にとってとても意義のあるものだと思っていましたが、あまり浮かれすぎないようには気をつけています。

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