2003年に公開された映画「アイデン&ティティ」。バンドマンだった峯田和伸は、この映画の主演に抜擢されたことを皮切りに、俳優としての道も歩み始めた。若葉竜也はこの映画を10代の頃に映画館で目撃し、「こういう映画に出たい」という希望を胸に、俳優業に向き合い続けてきた。26年、「アイデン&ティティ」の監督・田口トモロヲ、脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英が再集結し、1978年に起きた「東京ロッカーズ」というパンクのムーブメントにフォーカスを当て、青春音楽映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」(以下、「ストリート・キングダム」)を完成させた。峯田が演じるのは、シーンの目撃者で、写真家の地引雄一をモデルにしたユーイチ役。若葉が演じるのは、バンド・LIZARD(リザード)のボーカル・モモヨをモデルにしたモモ役。年齢もキャリアも違うが、同じ魂を持つ2人に、「ストリート・キングダム」と「アイデン&ティティ」について聞いた。
初共演の2人、出演の経緯
——「ストリート・キングダム」の出演オファーを受けたときの心境と、参加した理由を教えてください。
峯田和伸(以下、峯田):僕は、トモロヲさんがやるんだったら全部やります。もともと僕、この原作「ストリート・キングダム」を持っていて。トモロヲさんからそれをやると聞いて、楽しみで仕方なかったです。最初はバンドマン役なのかなと思っていたら、地引(雄一)さんの役だと言われて。でも、トモロヲさんから「やってほしい」って言われると、ものすごく説得力があって。きっとトモロヲさんの中には勝算があるんだろうなと思いました。僕はトモロヲさんを信頼してるんで、「はい、やります」ってすぐに言いました。
若葉竜也(以下、若葉):この映画が動き出しているのを知ったのは、もう何年も前でした。「あの頃。」(2021年公開)という映画の完成披露か初日の舞台挨拶に、プロデューサーの小西(啓介)さんがいらっしゃって、「こういう話があるんだけど」というお話をしていただいて。僕は「アイデン&ティティ」の大ファンなので、二つ返事でした。「ぜひやりたいです」と。
——お互いの配役も含め、共演することについてどう思いましたか?
若葉:峯田さんの出演は、オファーされた段階から聞いていました。役柄がどうこうよりも、「峯田さんと会える!」という感じでした。ファンなので(笑)。
峯田:最初は、誰がどの役をやるのかをまったく知らされず、純粋に台本を読んだんです。「モモって人、どういう感じなんだろうなー」とか勝手に想像したりして。撮影に入る前に「アイデン&ティティ」の公開20周年記念イベントがあって、僕が参加したトークショーを若葉君が見に来てくれて。そこで小西さんから紹介されて、「初めまして」で。そのときの感触が、僕の中ですごくよくて(笑)。
若葉:緊張しました。「サインください」みたいな(笑)。
峯田:後から「モモ役が若葉君になりそうだ」と聞いて、ピッタリだなと思いました。顔が似てるとかじゃなくて、若葉君から出てる“色”が、今回のモモにすごく合っているんじゃないか、という印象がありました。
それぞれの役へのアプローチ
——峯田さんがバンドマンではなく、バンドマンたちを見つめる人物を演じていることがとても新鮮でした。峯田さん自身は、どう役にアプローチしましたか?
峯田:僕はロックバンドをやってますけど、それ以上に、僕、ロックそのものが好きなんです(笑)。いろんな映画だったり本だったり、ロックにまつわるものがことごとく好きなんです。今回の原作も大好きだったから、映画化されると聞いただけで気持ちが高まりました。しかも、トモロヲさんが監督で、宮藤さんが脚本で、大友さんが音楽で。これで自分の全部を終わらせられるくらいの気持ちで、と言ったら大袈裟ですけど、どんな役だろうがこの映画で存在しきる、という意気込みでした。
——地引さん本人からヒントはもらいましたか?
峯田:撮影に入る前に地引さんとお会いして、「この写真のとき、こういう感じだったんだよ」とか、いろんな話を聞かせてもらって。そういうエピソード一つひとつに、ロックファンとして「うわ〜! すげえ!」と興奮して、気持ちを作って現場に行きました。
——若葉さんはモモ役にどうアプローチしましたか?
若葉:LIZARDの音楽やモモヨさんについて、いろいろ聞いたり、調べたりする中で、自分なりのモモという人物を造形しないといけないな、というところに立ち帰りました。それは役作りとかではなくて、なんだろうな……。宮藤さんが書いたモモの言葉やセリフが、自分の中で全然違和感がなかったんです。ここ数年、自分がメディアやテレビに出るようになって、良くも悪くも状況が変わっていって、自分の中で溜まっていたフラストレーションが、宮藤さんの脚本に書かれていた。1970年代後半を生きた人たちも、同じようなものを抱えていたんだということが垣間見れて、自分が間違っていないと思えたし、同じようなことで戦ってきた同志を見つけたような、親近感や安心感がありました。だからセリフを覚えるのもめっちゃ速くて。僕、1冊全部覚えてから現場に入るので、普通1週間くらいかけてセリフを入れるんですけど、これは2時間くらいで全部入ったんです。
峯田:へえ〜!
若葉:それは初めての経験でした。現場で突然セリフが変わったとしても大丈夫だと思いましたし。
峯田:劇中、夜の車の中で、ユーイチが「売れるといいね」って言ったことに対して、モモが怒って一気にまくしたてるシーンの言葉とか、今でもはっきり覚えてます。車の外側にカメラを固定して、スタッフたちは僕らの車をけん引している車に乗っていたから、車の中にいるのは僕ら2人だけで。あのシーンのモモのセリフは、もう若葉君の言葉にしか聞こえなかった。若葉君の気持ちがモモの言葉を通して入ってくるから、こっちはそれに受け答えするだけで成立する。あのときはモモとユーイチというより、若葉君と自分がそのまま会話しているような感じがあったんですよね。
若葉:まさにそうでした。
峯田:それって、セリフを言うという感覚よりかは、若葉君の気持ちが、結果、セリフになってるだけな気がする。もちろん先にできたのはセリフなんだけど。「若葉君としゃべってる」という感覚は、どのシーンでもありました。
若葉:本当に不思議な体験でした。「この映画にこうやってアプローチしました」「役をこうやって作りました」と言葉にできる方が簡単に思えるくらい、言語化ができなくて。「こういうレベルで映画を作ることもできるんだ」という初めての体験でした。
——若葉さんが、峯田さんとのお芝居で特に心を動かされたシーンを挙げるなら?
若葉:最後の方で、峯田さんとラジカセを聞いているシーンですね。台本上ではあんなシーンじゃなくて、もっとサラッとしていたんですよ。でも、撮影の最後の方で、「もう終わっちゃうなー」とか、いろんな想いが混じり合って、ああいうシーンが出来上がりました。夕方くらいに撮っていたと思うんですけど、西陽が差し込んできて、峯田さんの瞳がキラキラキラって光ってて。映画の奇跡みたいなのが起きているのを体験しました。あれを作為的にできるかと言われたら、多分もうできないんじゃないかなという、謎の不安があります(笑)。
——いろいろな要素があの瞬間にたまたまマッチングしたから、ああいうシーンになった。
若葉:10代で「アイデン&ティティ」に出会って、そこから走ってきて、いろいろなものを見て、聞いて、峯田さんやトモロヲさんに出会って。そういういろいろなことがあって、参加した「ストリート・キングダム」の撮影の終盤、あの日、あの時刻に、ああいうシーンを撮ったから、ああなったのかなと思います。
こだわりのライブシーン
——ユーイチは「東京ロッカーズ」というムーブメントの目撃者であり記録者なので、峯田さんは撮影でたくさんのライブシーンをご覧になったと思います。田口監督は、何にこだわっていましたか?
峯田:僕が見た感じだと、ステージの上にいるバンドのメンバーへの演出は全くなかった気がします。
若葉:なかったですね。
峯田:お客さんを演じる人たちへの演出が本当に細かくて。「“今の人”のロックのノリ方なんだよな」「当時はそうじゃないんだよな」っていうこだわりがあって。「もうちょっとこういう動き方をしてほしい」と、ものすごく細かい演出をしてました。
——ということは、ステージ上の俳優たちは、撮影時には仕上がっていた。
峯田:だと思います。ある程度の自由度も保障されていたとも思います。モデルになったバンドマンと、あんまりね、違う方向に行くのはあれですけど、そこまでめちゃくちゃ模倣ではない方がいいものが撮れるという考え方だったと思います。「LIZARD」というフィルターはかかりますけど、ちゃんと「TOKAGE」(※劇中のバンド名)になってなきゃいけなくて。監督はそれが撮りたかったんじゃないですかね。
——若葉さんは、「東京ロッカーズ」をご存知でしたか?
若葉:いや、知らなかったです。「FLICTION(フリクション)」と「じゃがたら」は知っていたけれど、東京ロッカーズや、こういうシーンがあったということは、出演が決まってから地引さんの原作を読んで、知りました。
——モモのライブパフォーマンスが素晴らしかったです。どのようにインプットして、アウトプットしたのでしょうか。
若葉:モモヨさんの動き方を映像で見て、オフィシャルでの練習も何回かしました。その練習が始まる前から、バンドメンバーとスタジオに集まって、吉岡(里帆)さんも誘って、練習しました。まずはその空気に慣れるところから始めて、みんなで「今のいい感じだったじゃん」と言い合って、時間を積み重ねたら、結果としてああいうことになったという感じです。自分の中では、狙ってやったことはあまりなかったです。
「懐古主義の映画では全然ない」
——ライブシーンの途中で、地引さんが当時撮影した写真や動画が挿入される編集に驚かされました。
峯田:ものすごく効果的ですよね! 違う人間なんですけど、同じ人に見えてくる感じがして。海外の映画も含めて、バンドの実録もので、当時の写真が途中で挿し込まれることってなかなかないので。(中村)獅童君の「ヒロミさん」でいうと、獅童君そのものの顔の力や体の動かし方もあるんですけど、そこに江戸アケミさんの写真が差し込まれると、すごいドキッとして。アケミさんとも獅童さんとも違う、全く新しいヒロミさんになっているのがすごく面白かったです。
若葉:映画の冒頭の一発目に、本人たちの写真を出すじゃないですか。本当だったら“保険”じゃないけど、「これは物語で、本当の人たちはこちらです」とエンドロールで見せたいところを、モデルになった人たちをバーンと見せてから、僕らを見せる。そこにトモロヲさんの覚悟を感じました。
——この作品で、田口監督が伝えたいことに共鳴する部分はありますか?
峯田:僕からいいですか? 自分はGOING STEADYを97年から始めたので、この原作からだいたい20年くらい隔たりがあるんですね。なんですけど、97年、98年、99年頃って、僕らの周りには、全然今は残ってないけど、僕から見てすごくかっこいいバンドがいっぱいいました。自分たちでライブの企画をやって、ステージの袖では写真をパシパシ撮ってるカメラマンもいっぱいいて。女の子は自分たちでフリーペーパーを作って、そのインタビューを受ける人たちもいっぱいいたし。だから、この70年代後半のシーンと、僕がいた90年代後半のシーンは、なんも変わんないです。ということは、これは僕の物語でもあるし、今のライブハウスにもそういう人たちはいるだろうから、今の物語だと思います。リアルタイムではもちろん経験できなかったんですけど、“取り返しのつかない今”を描いている映画だなと感じました。
若葉:本当にその通りですよね。「懐かしいよね」「こういう時代が良かったよね」という懐古主義の映画では全然なくて。今の若者たちが2026年をどう生きるのか? 君はどう生きるんだ? ということを、説教ではなく問いかける。と同時に、「お前らの自由に生きろ」というメッセージ性も含んだ映画を、すごく優しくも、厳しくも、トモロヲさんが手渡ししている感じがします。
峯田:そうだね。監督本人があがいている感じもいいですよね。「アイデン&ティティ」もそうですけど、まだ答えを見つけていない人があがいている様を、監督は見せてくれている気がします。
PHOTOS:TAKUROH TOYAMA
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「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」
◾️「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」
3月27日からTOHO シネマズ日比谷ほか、全国公開中
出演:峯田和伸 若葉竜也
吉岡里帆 仲野太賀 間宮祥太朗 中島セナ
大森南朋 中村獅童
監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
プロデューサー:小西啓介
製作:映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」製作委員会
配給・製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:ダーウィン
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
2026年/日本/130分/カラー/ビスタ/5.1ch
©2026映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」製作委員会
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