ファッション

「オン」が日本に広げる”イノベーション”と“体験” 選ばれる「機能」と「デザイン」の新モデル

スイス発のスポーツブランド「オン(ON)」が、日本市場で存在感を高めている。競技志向の強いランニングカルチャーと、増加するライフスタイルランナーを持つ日本において、同ブランドはどのようにポジションを築き、次の成長を描くのか。「オン」ジャパンのヘッドセールス、トシミツ・J・ローリック(Toshimitsu J Rohlich、以下TJ)氏に聞いた。

広がる「オン」の認知を支えるイノベーション

TJ氏は、「日本はAPAC(アジア太平洋地域)の中でも、非常に成熟したランニング市場」と日本という市場の“厚み”を語る。国内ではフルマラソン大会の開催数が多く、参加人口も安定的に存在する。さらに特徴的なのが、部活動や駅伝など、学生時代から陸上競技に親しむ文化が根付いていること。短距離・中距離走を含めたトラック&フィールドの経験が、社会人以降のランニング習慣へとつながっている。

一方で、ここ数年はもう一つの変化が起きている。「競技としてのランニングに加え、“生活の一部として走る”という意識を持つ層が広がっている」とのこと。「週に1〜2回走る、コミュニティで集まって走る、といったライトな層が確実に増えている。健康志向の高まりもあり、“ハードすぎないランニング”が広がっている」。競技とライフスタイルの二層構造をいかに横断するかが、日本市場を広げる重要な点だ。

こうした市場に対し、「オン」が掲げるのは“プレミアムスポーツブランド”という明確なポジショニング。価格帯は2万円以上のシューズを中心とし、単なるパフォーマンスではなく“価値”で選ばれるブランドを志向する。

その核となるのが、独自技術「クラウドテック」に代表されるイノベーションと、スイスらしいミニマルなデザインの融合だ。「イノベーションとデザイン、機能だけでなく、日常に溶け込む美しさも重要視した結果、現在のイメージを創出することに成功している」。

TJ氏は、マラソン大会に定期的に出場する。その際に注目するのは、参加者の“スタイリング”だという。「オン」のシューズを他ブランドのウエアと組み合わせているランナーを見ると、「ブランドファンだけでなく、ランナーに純粋に“いいシューズ”として選ばれていると感じる」。プロダクト起点での支持が広がっている点に手応えを見出している。

「オン」のイノベーションとデザイン理念を体現するのが、3月に発売したパフォーマンスモデル“クラウドモンスター”シリーズの最新作、“クラウドモンスター 3 ハイパー”である。3層構造のクッションによるソフトな着地と反発力に特化したクラウドテッククッショニングを持つシューズは、「初心者からトップアスリートまで、すべてのランナーに向けたシューズ。ただし、その使い方はそれぞれ異なる」。ビギナーにとっては“最初の一足”として、エリートにとってはトレーニングやリカバリー用途として機能する。「初代から2代目への進化と比べても、今回はさらに変容していると感じる。足を入れた瞬間、走り出した瞬間にその機能を実感してもらえると思う」。実際、トップ選手も日常のランニングで同モデルを使用しているという。

アッパーのイノベーションでは、一昨年公開された「ライトスプレー」技術が注目される。スプレー状のフィラメント素材をロボットで吹き付けることで、わずか3分でアッパーを成形する革新的な製造プロセスは、すでにレースモデルである“クラウドブーム”シリーズに導入されているが、4月16日に発売予定の“ライトスプレー クラウドモンスター3 ハイパー”にも採用される。「従来のニットやメッシュとは全く異なる感覚。軽量でフィット感が高く、かつ耐久性も備える」ライトスプレーは単なる素材革新にとどまらず、製造工程の効率化や環境負荷低減といった側面も含め、今後のシューズ開発の方向性を示す。本国・スイスに続き韓国・釜山にもライトスプレー専用工場を設立し、現在32台の機械が稼働している。

成長の鍵は「アパレル」と「体験」

2025年12月期のグローバル売上高は、約30億スイスフラン(約6000億円)規模に到達。日本市場も、各国の平均を上回る成長率で推移しているが、TJ氏は「今後は爆発的ではなく、“安定的なグロース”を重視する」と語る。注力するのは、シューズ以外のカテゴリの伸長だ。現在、売上高の約93%をシューズが占め、アパレルとアクセサリーは7%にとどまる。「総合スポーツブランドとして、アパレルも選んでもらえるようになる必要がある。軽量性や通気性といった機能面に加え、デザイン、ファッションも重視する」。

昨年9月にオープンした日本2店舗目の直営店、銀座店は連日行列ができる人気店舗となった。特にインバウンド需要の高さが顕著で、ブランドのグローバルな認知を裏付けているが、この店舗ではアパレルの展開も多い。メンバー限定のナイトショッピングイベントを実施し店舗がクローズした後にゆったりと買い物できる機会を提供するなど、プレミアムな購入体験価値を提供するなど、「単に販売する場ではなく、ブランドを体験する場としての店舗を作る」など、ブランド価値向上への施策も行う。

日本市場におけるもう一つの特徴が、顧客の“試したい”という強いニーズである。先述の“クラウドモンスター 3”の性能も、まずは履かないと実感できない。オンは試し履きイベントを全国規模で展開している。直営店のない地方展開は、専門店とのパートナーシップでカバーする。「複数ブランドを比較できる環境において、いかに“検討リストに入るか”が重要。ランニング専門店のスタッフは信頼度が高い。彼らに理解してもらうことが、最終的な購入につながる」。販売員向けのトレーニングも強化し、店頭でのコミュニケーション精度を高めている。この草の根的アプローチが、ブランドの信頼形成を支えている。

デザイン面において、グローバルではラグジュアリーブランドとの協業、日本ではストリートカルチャーとの接続も進める。国内のスニーカーショップとの協業や日本独自のストーリーテリングを取り入れた企画もすでに行っており、「ランニングを起点に、より広いカルチャーへ広げていきたい」と語る「オン」は今後、機能とデザイン、“選ばれる理由”をより多層化することが、ブランド強化への道筋となりそうだ。

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